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全国に約420万あり、約2400万人が常用雇用される中小企業。そこで働く女性たちは、大企業にはわからない悩みを抱える。そこは、労働基準法も最低賃金法も及ばない世界なのか。(AERA編集部・古川雅子、斉藤真紀子)
この春、10人弱のスタッフしかいないサービス会社が修羅場と化した。きっかけは、事務室でアルバイトの女性がもらしたひとことだった。
「どうもおかしいんですよ。今年に入って、時給換算で100円分は安くなっているんです」
入社10年のベテラン社員のカオリさん(50)も、自分の明細を確認してびっくり。微妙な額だが、やっぱり少なかった。業務に携わる女性全員の給料が減額されていた。
有名大学卒で大手金融での勤務経験もある社長は、60代半ば。ボケたわけでもあるまい。
仕事はしていないが肩書上は「主任」である社長の奥さんを通じて問い合わせると、別フロアに個室を構える社長から「業務連絡」と題して一斉メールが入った。
「時節柄、業績も落ち込んでおり、今月から全員分の給料をカットさせていただきました」
●クビで結構と捨て台詞
さらに交通機関の遅延証明書を提出していた人が、全員遅刻扱いになっていたことが発覚。雇用契約書が存在しないならば、せめて雇用条件を一つずつ確認しておいたほうがよさそうだという話になった。
そこでカオリさんとは別の女性社員が代表となり、事務室に社長を呼んだ。その女性が質問内容を羅列した書面を読み上げるや否や、社長は真っ赤な顔で怒り出した。
「これはクーデターだ! 私を陥れる陰謀ですか?」
結局、雇用条件は何一つとして確認できなかった。
翌朝から「犯人捜し」が始まった。パソコンのメールを読まれ、私語は禁止に。数日間、一人ずつ社長室に呼ばれて、「おまえが首謀者か?」と詰問された。
「こんな会社、見たことないですよ。クビで結構!」と捨て台詞を吐いて辞めたバイトの女性に続き、3月末までに主任の奥さん以外、全員が退職した。
カオリさんはため息まじりに話した。
「退職金はゼロ。(失業保険給付に必要な)離職票さえ、まだもらっていません。究極の『家内企業』ですよね」
厚生労働省によると、女性の月額賃金(2008年、非正規雇用を含む)は、大企業(常用労働者1000人以上)の平均が25万1000円なのに対し、中企業(同100〜999人)が22万5400円(大企業の90%)、小企業(同10〜99人)が20万7700円(同83%)と格差は明白だ。「100年に一度」の大不況が、そうした格差に拍車をかける。
昨年からウェブ制作会社で働くサチコさん(30)は、会社都合でバイト→契約社員→バイトと、雇用形態を数カ月単位で切り替えられた。
業績が悪化し、親会社に吸収合併された会社の事情もわからなくはない。にしても、月に二十数万円あった収入が、バイトに戻った途端、7万円そこそこに。時給がファミレス以下だと気づき、
「転職を重ねてキャリアを積んできた自分が、30代で独身で、極貧のバイト生活なんて……。こんな生活抜け出さなきゃ」と、さすがに焦っている。
サチコさんは以前から、職場を襲う「うつドミノ」にも巻き込まれていた。
20代の女性は真っ青な顔で働き続けて休職に。仕事中に突然泣き出す子もいた。頼みにしていた上司もうつ病で退職。その仕事をカバーした男性の同僚が「有給で休みます」と言ったきり、会社に来なくなった。自身も、ここ半年はパニック障害と貧血に悩まされている。
入社して1年ちょっとなのに、女性では一番の古株だ。入社時にいた20人で残っているのは、自分と男性の上司だけ。派遣社員を切ってバイトを採用したと思ったら、仕事が回らなくなり、5人も派遣社員を雇った。この「つぎはぎ人事」を行った担当者さえ、もう人事担当を外れた。
●社長と「付箋対決」勃発
会社に期待しても無駄。「使い捨て」にはされたくない。だったら自己改革で乗り切ろう。
そう考えて、会社ではちょっとした掃除でも、若い子が嫌がるような作業でも、できる仕事は自分で見つけて実行した。後輩をごはんに誘って積極的にコミュニケーションをとる。面白そうなプロジェクトがあれば、できるだけ首を突っ込み、会社での存在感を出していく。
「一つ一つ見返りは求めません。突破口は、自分の成長の後に開いていく。いまは自分磨きのための『ヨガ修行』。むしろお金をもらいながらヨガを習っているんだと割り切っています」
結果として、仕事のパフォーマンスが上がり、「お給料につなげてください」と会社に交渉したら、あっさりと契約社員に戻してくれた。不安定な会社に身を置くだけに、「会社をドライブするのは私」という心持ちだけがいまの自分を支えている。
コンテンツ制作会社に勤めるチエミさん(34)と社長(65)とのガチンコ対決の原因は、付箋だった。
「社長、付箋が足りません」「だったら細く切れ!」「客先に笑われますよ」「前のを再利用すればいい」「くっつきが悪くなって、取れちゃいますよ」
●外に「マイトイレ」確保
備品に「昇格」させようと、チエミさんは1カ月粘り、ようやく買ってもらえた。最近は、後輩の20代の女性に代弁してもらったり、根回しして「そーだ、そーだ」と同僚たちに援護射撃の芝居を打ってもらったりと、巧妙さを身につけた。
はっきりものを言うチエミさんだが、転職してきて最初に悩んだ問題があった。アパートのワンルームに男女10人弱がひしめきあうタコ部屋で、トイレが一つしかなかったのだ。
人が通り抜けるにも椅子を引かなければならないほどの狭さだから、当然、音はまる聞こえ。腋の汗取りパッドをトイレでペリペリはがしていたら「生理用ナプキンのシールをはがす音と勘違いされるかも」と焦った。におい消しスプレーのシューという音は、まるで「しましたよ」の合図のようで気になる。
女性たちは「お昼、買ってきます」などと用事をつくって、なるべく外ですます。チエミさんも、駅や近くのビルなどに「マイトイレ」を確保してある。
こんな劣悪な職場環境をがまんしているのだから、付箋ぐらい、「ささやかな贅沢」をしてもいいじゃない、とひそかに思う。
中小企業にはオーナー会社も多い。取材した女性たちからは、「名乗らずに電話をかけてくる創業者3兄弟の声色を、第一声で聞き分けるのが、新入社員の最初の研修だった」(41、医療メーカー)
「社長が秘書の女性に次々と手を出し、揚げ句逃げられたら、未練たっぷりに、女性の退職金として、会社の経費で200万円の高級時計を贈った」(46、飲食店運営会社)といった笑うに笑えない話を聞いた。
先輩や同僚の女性によるイジメも、中小企業では深刻になりがちだ。社会保険労務士の新田和代さんはこう指摘する。
「職場の人との距離が近く、相性の合う・合わないが仕事やストレスに直接影響してきます」
商社で販売促進業務を担当するリツコさん(34)は、最近も含め二つの職場でイジメを受けた経験を持つ。いずれも存在感のある年上女性からだ。
●引き継ぎ書類は粉々に
最近のケースでは、大事な情報が自分にだけ回ってこない。先日も取引先の女性から、
「今日のパーティーイベントで会いましょう」と言われ、「しまった」と思った。その日はジーンズにシャツの軽装。となりの部署にいるセンパイ(40)は、ワンピースの裾をひらひらさせ、出かける支度をしていた。
センパイからは1年近く「完無視」されていた。取引先との食事会では、勝手に欠席届を出されていた。同じ部署の同僚でも上司でもないのに、仕事の内容を逐一チェックされ、リツコさんの上司に言いつける。
「あの企画は彼女に適していないのでは?」「これは彼女のミスでしょう」
上司は取り合わなかったが、周囲の同僚たちはハラハラして、職場は微妙な緊張感に包まれた。
思えば、センパイの態度が変わったのは、リツコさんが入社2年目、大きなプロジェクトを任されたときだった。女の嫉妬、なのかもしれない。
そもそもリツコさんは、仕事でつきあいのあった役員に引き抜かれてこの職場に移った経緯がある。そのプロジェクト以降、センパイは役員をつかまえては、リツコさんへの「マイナスの評価」をぶちまけるようになった。
もう一つのイジメられ体験は、外資系企業で社長秘書をしていたとき。50歳ぐらいの女性に攻撃された。
従業員は13人。毎日のようにお菓子を社員に配り、ときには20歳以上年下の社員たちを叱りとばして怖がられる職場の「オカアサン」。オフィスの模様替えの日、顔色を変えて社長に怒鳴り込んだ。いわく、「リツコさんの机が自分より大きいのはおかしい」
その日から、リツコさんとの会話がなくなった。仕事をひとりで抱えて孤立し、オカアサン自身が解雇された。
辞めるとき、引き継ぎに必要な書類をシュレッダーにかけられた。通帳の保管場所も、カードの暗証番号も教えてくれなかった。リツコさんは、暗証番号をリセットするため銀行へ足しげく通う羽目になった。
「アラフォー」に近づいた今、リツコさんは、彼女たちの気持ちを理解しようと思う余裕が出てきた。
「小さい職場で自分の居場所を脅かすような若い女性が入ってきたら、同じことをするのかしらと考えてしまいます」
(文中カタカナ名は仮名)