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不況でも就職に強い大学(1) 地方を逆手に全国区

AERA:2009年9月21日号

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 不況下で冷え込んだ就職戦線。「氷河期の再来」ともいわれる。そんななか、今春就職率で高い実績を残した地方の大学は、今年も善戦している。大学のブランドで安心を買う時代は終わった。企業が変わる。大学も変わる。(AERA編集部 澤田晃宏、四本倫子)

 毎年、100社を目標に企業訪問をした。ただ、2社に1社はアポすらとれない。

 秋田市の国際教養大学(AIU)キャリア開発室長の源島福己さんは、そう振り返る。

 「AIUは2004年に開学したばかりで、卒業実績がない間は保護者からも『希望した企業に就職できるのか』といった問い合わせが多かった」

 だが、08年に1期生を送り出すと、2期目となる今春の就職率は全国2位の99.1%になった。

 単に就職率が高いというだけではない。主な就職先には伊藤忠商事、全日本空輸、三井住友銀行など人気企業の名が並ぶ。大手企業の注目も集めている。

 ●大学は目的より手段

 秋田空港から車で10分−−。

 3連休中日の7月19日、今年1回目となるAIUのオープンキャンパスに足を運んだ。当日は台風の影響で一部の交通手段が遮断されるアクシデントもあったが、約500人の参加があった。就職内定者が初めて出た07年は2回で計600人、08年も2回で計900人と、参加者は年々増え続けている。

 オープンキャンパスで配られた書類の中に、秋田県の観光案内が入っていた。AIUに在籍する学生は、東北6県を合わせても半数に満たず、全国から集まっている。オープンキャンパス当日も、県外から泊まりがけで来る参加者が多数いた。

 周辺にはコンビニ一軒すらない。短期留学生を含め800人程度の小さな大学に、なぜ全国から人が集まるのか。

 一つは、AIUが目指す「世界を舞台に活躍できる人材」の育成だ。学生時代に留学経験がある。親が海外で働いていた。そんな参加者の姿が目立つ。

 「将来は外交官になりたい」

 「国際的に活躍できる人間になりたい」

 参加者の目的意識の強さからは、大学入学が目的ではなく、将来に向けての「手段」としてAIUに魅力を感じている様子がうかがえた。

 ●図書館は24時間営業

 同校では授業だけではなく、学内メールや校内放送までもがすべて英語だ。入学後1年間、留学生との寮生活が義務付けられるのに加え、1年間の海外留学も必須だ。

 留学の条件はTOEFL550点以上。すべての授業が英語で行われるため、入学後は英語の集中プログラムがある。

 ただ、ここは英語“が”学べる大学ではなく、あくまで英語“で”学ぶ大学だ。

 大阪から長男とオープンキャンパスに参加した女性は、案内役として付き添った学生の言葉にショックを受けた。

 「受験勉強よりも、学校に入ってからのほうが勉強は大変かもしれません」

 女性には、関西の有名私立大学に通う長女がいる。

 「大学はサークルで人間関係を作る場所」

 常々、長女からはそう聞かされてきた。楽しそうに大学生活を送る姿に安心する半面、違和感も持っていた。

 それは長男も同じだ。

 「確かに周りには何もないですが、そのぶん勉強に集中できる環境がある。社会に出る最後の4年間、しっかり勉強したい」

 AIUのシンボルでもある図書館は、県特産の秋田杉がふんだんに使われ、24時間365日開放されている。学校の調査によれば、夜中の午前0時から午前8時までの平均入館者数は118人(07年度)。課題の多さもあるが、学生の強い向学心がうかがえる。

 学生数が20人未満の授業の比率が76%という少人数制教育もAIUの強みだ。1年生から始まるキャリア教育でも、学生が担当者と1対1で将来設計に取り組み、留学先も意見を交わして決めていく。

 ●東北と北陸が強い訳

 オープンキャンパスの参加者には、そんな学習環境に魅力を感じる人も多かった。それは企業も同じようだ。

 源島さんは言う。「企業の方が興味を持つのは、なぜ学生が都会の大学ではなく、あえて田舎町の大学を選んだのか。そこには強い目的意識があり、自発的に学ぶ姿が評価されているように思います」

 また、立地的には就職活動に不利ではあるが、転勤の多い商社や海外展開するメーカーにとっては、学生が秋田で学んでいること自体が魅力だ。

 「辺鄙な場所にとばされると、耐えられず辞めてしまう人もいる。その点、うちの学生は元々辺鄙なところで学んでいるから、そんな心配はない(笑い)。国内でも、どこに転勤させても大丈夫だろうと」

 三菱重工業に内々定している4年生の小川裕史さんは、ある企業の面接で、人事担当者からこんな言葉をかけられた。

 「ほかの大学生とは乗り越えたハードルの数が違うね。とても落ち着いて見える」

 当初は、アポすら満足に取れなかったのに、今では大企業からAIUに足を運んでくる。

 ある商社の人事担当者に、「おたくは何もしないでも、いい学生が集まるでしょ?」と学校関係者が尋ねると、こんな答えが返ってきたという。

 「いまの学生に大学時代、何をやっていたかと聞いても、アルバイトやボランティアの話ばかり。4年間でどんな困難にぶつかり、どう乗り越えてきたのか。そこを評価したい」

 不況下で「就職氷河期の再来」ともいわれる今年の就職戦線だが、9月初旬時点でのAIUの内定率は95%に達する。

 ここで改めて下のランキング表を見ていただこう。今春の就職率実績が100%でトップだったのは豊田工業大学(愛知)。トヨタ自動車系の私学だけに、自動車産業への就職者が例年多い。上位に薬科大学が目立つのは、4年制から6年制への変更にともない、来年、再来年は卒業生が出ないという特殊要因による。あとは、国際教養のほか、会津(福島)、富山県立、福井、石川県立、長岡技術科学(新潟)など、なぜか東北や日本海側の大学が目立つ。

 大学通信の安田賢治ゼネラルマネージャーは、こう説明する。

 「東北や北陸地方の大学は、地域経済が弱いぶん危機感が強く、学生の就職支援に力を入れています。理系人気が戻ってきており、会津、富山県立など、工学系の単科大学の就職率がいいのも目立つ。単科大学の面倒見の良さが、マンモス総合大学に勝ったといえます」

 ●お見合い風の説明会

 国立大学で最も高い97.2%の就職率をマークしたのが、3学部しかなく、こぢんまりした福井大学だ。就職支援室長の青山傳治さんは、独自の「求人票閲覧システム」が、就職支援の目玉だと言う。

 「大手の就職支援サイトに頼らず、大学のシステムだけを使って学生が就職活動してくれることが目標ですね」

 登録されているのは、福井大の学生を採用する意欲がある2600社以上の企業。いつでも、どこからでも情報検索ができるよう、学生には携帯メールで求人情報を配信する。

 内定ピーク期を過ぎても就職活動を継続する学生に向け、希望に合った個別の企業情報も提供する。既卒者でも希望すれば、このシステムに登録することができ、過去10年で70人の登録があった。就職支援システムは、自主登録制にもかかわらず、今年もほぼ全員が加入している。

 ただ、今年は就活で苦戦しているのは福井大も同じ。新たな取り組みとして「個別企業説明会」を始めた。参加する企業は1日1社だけ。企業側は福井大の構内で、採用したい学部・学科の学生を指定した説明会を開催する。就職支援室は、支援システムを使って企業の「売り」を事前に配信する。結果、その企業への関心が高い学生が、説明会に集まってくる。

 少人数で、密度の濃い「お見合い」形式の説明会を行うことができ、マッチング率が非常に高まったという。

 ●学生を孤立させない

 「福井は出身社長の数が日本一多い県。県内にもユニークな企業が多い。学生には大手企業だけでなく、そういうところにも目を向けて欲しい」

そう語る青山さんは、採用実績がある企業に対し、アンケートを行った。その結果「誠実で責任感がある」という福井大生像が見えてきた。

 各学部ではアンケート結果を生かし、学生の力を伸ばすカリキュラムを組めるように努めている。その一つが、学外で学習する取り組みだ。地域社会と触れ合うことで、コミュニケーション能力の向上を目指す。

 花王に内々定している工学部4年生の山川正多さんも、

 「学校の授業ではないですが、スポーツジムのアルバイトで出会った社会人の方に受けたアドバイスが参考になりました」と、学外の経験が就職活動で役に立ったと話していた。

 さらに、グループで学習する授業を意識的に増やし、学生同士の交流が活発化するように意識した。これは、コミュニケーション能力の向上と、学生の孤立化を防ぐ狙いがある。

 学生の孤立化対策には、「助言教員」という担任教授を選べる制度も一役買っている。入学時から4年間、同じ教授に師事できるために、さまざまな悩みを相談しやすい。就活がうまくいかなくても、ドロップアウトしない仕組みができている。面倒見の良さが、高い就職率を支えている。

 ●就活バス東京・大阪へ

 今回の取材で「就活で一番苦労したこと」を聞くと、多くの学生から「移動」という答えが返ってきた。採用試験は大都市圏で行われるケースが圧倒的に多いため、交通費は馬鹿にならない。肉体的にも、精神的にも疲労が大きい。

 金沢工業大学では、3月から6月の間、東京、名古屋、大阪方面に向けて定期的に送迎バスを運行している。進路開発担当を務める神田信幸さんは言う。「地方であるハンディを少しでも軽減できれば」

 今年は求人が2割ほど減った。厳しさを感じている。学生の間では安定志向が強まり、首都圏の企業への志望も微増。ますます上場企業への就職を重視する傾向が強まっている。

 神田さんは今年、200人近い学生から就職相談を受けた。一番多かったのは「この企業は大丈夫か」という内容だった。

 近年、就活の開始時期が早期化している。首都圏では、3年生の10月ごろから企業説明会に参加しはじめる学生も多い。

 しかし、金沢工大は、この早期化傾向にあえて反旗を翻す。

 神田さんは言う。「研究第一主義なので、早期化に対応させるわけにはいかない。2月下旬に行われる学内での合同企業説明会からが就職活動のスタートです」

 今回、就職活動の体験談を聞いた金沢工大の学生たちの就職活動の開始時期は、2月中旬とやはり遅かった。にもかかわらず、今春の就職率は95.6%と高い。

 その理由のひとつに、早い段階でのキャリア教育がある。

 04年から、1年生全員に毎日の行動履歴を記録させる「ポートフォリオシステム」を導入した。「なぜ講義に遅刻してしまったのか」「授業の予習にかかった所要時間」「部活動で行ったこと」などを事細かに記録することで、自分の行動パターン、志向性などが見えてくる。

 さらに内定状況などを100%把握するための努力も行われている。成績証明書の発行は、窓口でしか受け付けないなど、あえてアナログ対応。学生自身が就職担当職員と接触しなければ、就活が終えられないシステムを構築した。

 結果、最後の一人まで取りこぼすことなく、進路指導ができているという。

 ●単科大学ゆえの強み

 就職率97.6%と全国7位の富山県立大学は、単科大学であることを強みに、徹底した面倒見主義と少人数主義を貫く。

 たとえば、機械システム工学科の場合は学生の定員50人に対し教員が15人。つまり教員一人あたりが受け持つ学生数は平均3.3人になる。

 コンビニ以外、大学の周辺にはめぼしい建物が見当たらないのだが、下宿生はほぼ全員、キャンパスから自転車で10分圏内に住んでいる。

 だから、不登校の学生の下宿に教授が足を運ぶこともできる。この徹底した目配りが、就職実績にも結びついている。

 キャリアセンターの所長でもある奥田實教授は言う。「勝負は4年生の6月以降から。どこまで学生の面倒を見られるかが、ひとつの課題だ。特に最近の採用試験は話し下手の学生が不利になるシステムになっている。そういう学生をどうフォローしていくかが大切だ」

 01年3月に大学院を卒業し、日立製作所に入社したOBの碓井晋平さんは、自分は就活劣等生だったと振り返る。

 「学校推薦で日立を受験すると決めたときには、同じゼミに所属していた2人の同期はすでに就職先を決めていました。教授から声をかけてくれて、面接の練習に付き合ってもらったのですが、『受け答えがきちんとできていない』と注意されまくったことが記憶に残っています」

 碓井さんは、先輩・後輩とともに研究を進めた経験が、社会人になるための重要なステップだったと感じている。今でも富山に戻ったときには、大学に顔を出す。

 ●卒業生の再就職相談も

 富山県立大の「面倒見主義」は、就活中だけでなく卒業後も徹底している。それが、この不況下で大きな強みとなっている。

 今年4月、就職が内定していた企業から自宅待機を命じられた卒業生が14人いた。企業とも相談し、彼ら全員が大学の研究室に通い、研究を続けられるようにした。自宅待機が解けたとき、うまく社会に復帰できるようにと配慮したからだ。

 OBへの就職支援も積極的に行っている。06年からUターンを志望する卒業生に県内企業を紹介している。昨秋以降は、リストラされた卒業生の再就職の相談にも応じている。

 こうして見ていくと、就職率の高い大学には、都市部のマンモス大学にはない面倒見の良さや、きめ細かいサポートがある。

 ランキング上位が地方の大学に集中したのには、就職システムの変化もある。先の源島さんは、企業の人事担当者の思いをこう代弁する。「東京に人材がいないというわけではないが、今のネット就活時代のやり方では、探すのも骨が折れる。だったら、理念がよく見える大学に惹かれて集まっている学生のほうが、自分たちが求めているものとの接点が見えやすいのではないか」

 時代の要請を受け、大学も企業も変容しつつある。「就職力」をテーマに、大学のいまを見ていきたい。

 ■国際教養大学 学生数680人(9月1日現在)

 2004年に開学した日本初の地方独立行政法人が運営する大学。留学先の授業料は、国際教養大の授業料を納めることで免除される。経済的な理由から志望する人も多い

 ◇主な就職先(2009年実績・大学通信調べ)

 4人…明治製菓/3人…日揮プランテック、三菱マテリアル/2人…旭化成、伊藤忠商事、五洋電子、シーアイ化成、全日本空輸、東京計器

 ■福井大学 学生数4147人(5月1日現在)

 教育地域科学部、医学部、工学部の3学部体制。教職大学院も設置されており、教員や公務員就職を目指す学生も多い

 ◇主な就職先(2009年実績・大学通信調べ)

 12人…セーレン/9人…福井村田製作所/6人…豊田自動織機/5人…アイシン精機、イビデン、スズキ、トヨタテクニカルディベロップメント、福邦銀行、メイテック

 ■金沢工業大学 学生数6767人(5月1日現在)

 1965年に開学。工学部、環境・建築学部、情報学部、バイオ・化学部の理工系総合大学。教員の5割が企業出身という強みも

 ◇主な就職先(2009年実績・大学通信調べ)

 24人…JR西日本/10人…石川コンピュータ・センター/9人…北陸日本電気ソフトウェア/8人…富士通北陸システムズ、三谷産業/7人…コマツ、北陸電話工事、三菱電機

 ■富山県立大学 学生数886人(5月1日現在)

 1990年に開学。工学部(全5学科)のみの単科大学。4割近い学生が大学院へ進学。過去10年間、就職率が97%を下回ったことがない

 ◇主な就職先(2009年実績・大学通信調べ)

 5人…デンソーテクノ、不二越/4人…日本オープンシステムズ/3人…アイシン・エイ・ダブリュ、今仙電機製作所、立山科学グループ、田中精密工業、北陸コンピュータ・サービス、YKK

 ■就職率上位50大学

 今春実績(大学通信調べ)

     大学名            就職率

 1 私 豊田工業*[愛知]    100.0 

 2   国際教養[秋田]      99.1 

 3 私 神戸薬科*[兵庫]     98.4 

 4 私 大阪薬科*[大阪]     98.0 

 5   会津[福島]        97.6 

 6 私 明治薬科*[東京]     97.6 

 7   富山県立*[富山]     97.6 

 8 私 東京福祉[群馬]      97.5 

 9 私 新潟薬科[新潟]      97.4 

10 国 福井*[福井]       97.2 

11 私 東北薬科*[宮城]     97.1 

12 私 中部学院[岐阜]      96.9 

13   石川県立[石川]      96.8 

14 私 愛知工業[愛知]      96.7 

15 私 東京薬科*[東京]     96.6 

16 私 群馬社会福祉[群馬]    96.6 

17 国 長岡技術科学*[新潟]   95.9 

18 私 星薬科[東京]       95.9 

19   秋田県立[秋田]      95.9 

20 国 九州工業*[福岡]     95.8 

21 私 新潟工科*[新潟]     95.7 

22 私 金沢工業*[石川]     95.6 

23 国 鳴門教育[徳島]      95.6 

24 ※ 高知工科*[高知]     95.2 

25 私 昭和薬科*[東京]     95.1 

26 国 名古屋工業*[愛知]    94.9 

27 国 岐阜[岐阜]        94.8 

28 私 諏訪東京理科[長野]    94.8 

29 国 山梨[山梨]        94.6 

30   島根県立[島根]      94.5 

31 私 新潟青陵[新潟]      94.5 

32 私 静岡理工科[静岡]     94.4 

33 私 大同*[愛知]       94.2 

34 私 金城[石川]        94.1 

35   公立はこだて未来[北海道] 94.1 

36 私 新潟医療福祉[新潟]    94.0 

37 国 お茶の水女子[東京]    93.4 

38 私 西九州[佐賀]       93.4 

39   福井県立[福井]      93.4 

40   岩手県立[岩手]      93.3 

41 私 千歳科学技術*[北海道]  93.2 

42 私 福井工業[福井]      93.1 

43 私 畿央[奈良]        93.1 

44 私 国際医療福祉[栃木]    93.0 

45 国 電気通信*[東京]     93.0 

46 私 岐阜聖徳学園[岐阜]    92.7 

47 国 豊橋技術科学*[愛知]   92.6 

48 国 室蘭工業[北海道]     92.6 

49 国 北見工業[北海道]     92.5 

50 私 白梅学園[東京]      92.5 

    *

 就職率=就職決定者数÷(卒業者数−大学院進学者数)×100。大学名の私は私立、国は国立、無印は公立、※の高知工科は2009年4月、私立から公立に変更。*は大学院生を含む。お茶の水女子は9月に生活科学部卒業の3人を含む。千歳科学技術は博士前期含む

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