失われた10年、都市銀行の再編淘汰、リストラ――。そんな時代には低迷していた都銀・商社の就職人気が復活した。不安定時代の先に、学生たちは何を求めているのか。
「やっぱり、みずほが一番いいと思っています」
早稲田大学政治経済学部3年のA君(22)は3月に入って、志望先をみずほフィナンシャルグループに絞った。
大学で経済や金融を勉強してきたから、金融業界を中心に就職活動を始めた。もう終身雇用の時代じゃない、つぶしがきく仕事がいいな、とも考えた。
最初のうちは、外資系金融機関やベンチャー企業のOB訪問もしてみた。でも、
「両方ともかなりストレスフルなんですよね。勤務時間が長いし、何もかも自分で考えて動かないといけない。そういうところで仕事をしたいと思わない」
●「ベンチャーは不安定」
しかしみずほといえば、サブプライム問題の影響でみずほ証券を中心に国内最大規模の3450億円の損失を計上したばかり。それでもA君に迷いはない。
「10年ほど勉強させてもらって、初歩的な知識を身につけ、その上で投資銀行部門に行きたいです。自分でトレーディングできるようになって、パソコン1台で稼げるようになりたい」
2009年入社組の就職戦線は既に中盤にさしかかりつつあるが、いささか異変がある。メガバンクと総合商社に、人気が集中しているのだ。
今年2月に発表された日本経済新聞社の文系学生を対象とした調査は象徴的だった。メガバンク3社が5位以内にランクイン、5大商社も30位以内にすべてが滑り込んだ。過去の推移と比べると、バブル経済崩壊前夜のランキングを見ているかのようだ。リクルートの就職情報サイト「リクナビ」の岡崎仁美編集長はこう分析している。
「年金問題や少子高齢化など不安定を前提に生きてきた学生は、より安定を求めているようだ。少しでも安定した大きい会社に入りたい。中小やベンチャーは冒険的としか思っていない」
慶応大学総合政策学部4年のB子さん(22)はこの春、メガバンクの一つに入社が決まっている。海外の学生と一緒にビジネスプランを考える、どちらかといえばベンチャー精神旺盛なサークルに入っていた。だが、
「ベンチャー企業は不安定」
と大手メーカーや金融機関を中心に活動した。地道にコツコツ積み重ねる性格に合っていると思い、メガバンクに就職を決めた。
「大手だからシステムがしっかりしているし、業務が幅広いから将来的に選択肢が広く残されていると思いました」
今年も千人規模の大量採用をするメガバンクは、学生向けの露出が多く、その分だけ人気が上がるという事情もある。採用担当者らの間で大量採用の成功例といわれているのがみずほだ。
大量採用をしようと思えば普通、大衆受けを狙うため、上位校の「ほしい人材」に情報が届きにくくなる。ところがみずほは、大量採用を始めた数年前から、上位校向けに集中的にPR活動を行い、その層から人気が高いというイメージで、下位校の学生を大量に引っ張るという構図を築いた。
●事前知識ゼロで説明会
こんなイメージ先行の手法が通用するのもこの1、2年の「超売り手市場」の学生ならでは。新卒採用リサーチ会社ピボットの西山亜矢子社長はいう。
「昨年あたりから、学生の情報リテラシーがほとんどなくなっている。携帯メールくらいの200文字程度の情報しか文意が読み取れず、会社案内や採用ホームページが読めないのです」
結果、事前の知識ゼロで説明会や面接に行くことになる。だから事業内容も理念もわからず、イメージだけの選択をする。決め手はその会社の社員が自分に合うかどうかだ。
このことが、「人が財産」を標榜する総合商社に追い風になる。事業会社の集合体のような総合商社には、様々なタイプの社員がいる。だから、1人くらいは自分と気が合う、魅力的と思える社員がいるのだ。
「OB訪問していて、すごいと思える社員がたくさんいた」
東京大学経済学部3年のC君(21)は、目指すのはある大手総合商社といい切る。同じサークルの経済学部3年のD君(21)も、
「エリートの自覚がある社員が多く、自分に合うと思った」
と、同じように、第1志望としてある大手総合商社の名前を挙げるのだ。ふたりとも最大手へのこだわりも垣間見える。
「『最大手』という言葉に流されているのは自覚している。でも、最大手だから入った後もマイナスは少ないはず」(C君)
●選択肢が広そうな大手
採用コンサル会社ワイキューブの安田佳生社長は指摘する。
「2千人近く採用する大手は採用基準をあいまいにせざるをえない。だから、明確な志望動機がなく安定や継続だけを求めるような学生にも内定が出る。そんな学生が大量に入ってくる大手もたいへんだろう。1年以内に大量の退職者が出る覚悟が必要かもしれない」
銀行、商社ともに、こうした大手志向の学生たちに共通する思考がある。いまやりたいことがわからないから、将来それを見つけた時のために選択肢が広そうな大手、という思いだ。上智大学外国語学部3年のE子さん(21)はいう。
「やりたいビジネスがあるなど意志の強い学生はベンチャーを目指す。でも私にはそこまでのものはなくて、大手に人生をゆだねておきたい。規模が大きければ、自分の可能性を生かせるチャンスは転がっているはず」
もうひとつ、その延長ともいえるのが「教えてもらいたい」「利用したい」という姿勢だ。
「いまの自分は何もできない。外資系金融に入って『お金を動かしてください』といわれたら、どこに融資していいか分からない。きちんと教育してくれる大手がいいです」(東京大学文学部3年F子さん、21)
一方、30歳までの起業を目指している立教大学社会学部3年のG子さん(23)も、「大手に入ってスキルを磨きたい。そうすれば、起業や転職という選択肢が手に入るから」。(AERA編集部 太田匡彦)