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生きる意味に気づく 心療内科医・永田勝太郎さん

2008年5月2日

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写真ながた・かつたろう 48年生まれ。浜松医大付属病院診療内科科長、同大保健管理センター講師。慢性疼痛などの全人的医療を研究。失敗体験を、学生たちにたくさん語る=佐藤慈子撮影

 「あなたが人生に絶望しても、人生はあなたへの期待を捨てない。どんな人にも、固有の生きる意味がある」。ナチスの強制収容所を生き抜いた精神科医ビクトル・フランクル(1905〜97)の言葉は、苦悩する人の心をとらえる。フランクル賞を受けた浜松の心療内科医・永田勝太郎さん(59)がつかんだ、「生きる意味」は――。

■フランクルに出会い、深めた医療

 ――2006年の大賞に選ばれ、この3月26日にウィーンで記念講演したそうですね。

 先生が亡くなった後、フランクル財団ができて大賞と奨励賞を出しています。先生の薫陶を受けたのは、心理学者や哲学者が圧倒的。あと世界の先進的な政治家たち。でも、医療・医学ではいま一つ広がらなかった。

 ――どうしてですか。

 僕は、患者さんを全人的、つまり人間として理解することなしに医療・医学は成り立たないと思ってる。だけど現実には専門は細分化され、人間じゃなくて、臓器、もっといえば細胞、DNAを診るようになってる。

 先生がよく言っていたのは、「どんな人間にも意味がある。その意味に向かって突き進むときに人間らしさが発揮される。周りの人にできるのは、その意味に一緒に気づくこと」。全人的医療で、先生の教えをもとにしたモデルは有効なんだけど。

 ――たとえば?

 74歳で肺がんがみつかったおじいさん。ある病院で、切れば生きられると手術を勧められたけれど、拒否して、僕のところへ来た。その人「特攻隊の生き残り」でね。仲間に申し訳なく思いながら生きてきた。「わかった、手術はしない。でもそれだけでいいの」と聞いたら、「痛いのは嫌だから緩和医療をしてほしい」と。漢方薬などの補剤を使いながら、日記を書いてもらい、人生が意味あるものだったこと、今もそうだと理解してもらった。結局、10年生きました。検査すると抗ストレス値が高く、肺がんは最期まで広がらなかった。

 ――フランクル先生とは?

 30代で東京の大学病院から、弟子を連れて東北の町の病院に出たとき、思い詰めてふと浮かんだのが、学生時代に読んだフランクルの『夜と霧』。

 本人に手紙を書いたの。そしたら返事が来た! 「ウィーンにいらっしゃい。ホテルに着いたら電話を」。ふっとんで行った。それから亡くなるまでの十数年、休みがとれると会いに。

 ――どんな人ですか。

 ささいなことでも笑いに変えるユーモア精神の持ち主。

 一方で、ご自宅には、アウシュビッツで亡くなった人を運ぶ絵がかけてあった。自分に起きたことは事実は事実として、どこかクールにみていた。

 ――『夜と霧』だけでなく、『それでも人生にイエスと言う』(春秋社、93年)が42刷など、フランクルの本は日本で読みつがれています。なぜ?

 ある大工場で、鬱(うつ)で休職する人が多いと相談に来た。見に行ったら、そこで製品を作っているのは、人間じゃなくて機械。マニュアルばかり増えたけど、生きる意味は人間存在の核。

■手紙に「人生はあなたに絶望しない」

 ――永田さん自身の「生きる意味」は?

 先生が亡くなった翌年、僕は末梢(まっしょう)から筋肉が萎縮(いしゅく)して力が抜けていく病気で寝たきりになった。寝返りも打てない。温泉病院に転院して毎日リハビリしたけど、良くならない。もうダメだ。先生の奥さんのエリーさんに手紙を出したの。「ごめんなさい。先生の元へいきます」

 返事が来て。「彼がいつも言っていた言葉を贈ります」。〈人間は誰しも心のなかにアウシュビッツを持っている。でもあなたが人生に絶望しても、人生はあなたに絶望しない〉

 何百回も読み返した。心のなかのアウシュビッツとは、生死を分かつような苦悩のこと。もしまだ僕を待っている何かがあるとしたら、何だろうか。それは医学教育だと思ったの。

 約2年休んで、両杖(りょうづえ)で大学に復帰した。多くのものを失ったけど。いまは杖もいらない。

 ――いま、「生きててよかった」と思うことは。

 僕ら医療職にとって、一番避けたい話題は、死。「先生、私、死ぬんですか」って聞かれたとき、答えられないんだよ。

 だけど、いまは言えるの。わざとカルテをバタンと閉じて。

 「いいか、これは医者として言うんじゃない、人間として言うんだよ。僕は三途(さんず)の川まで行って来たからね。だから今、生きていることが楽しくてしょうがないよ。あんただって今、生きてるじゃねえか」って。(河原理子)

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