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食の大切さと人生 月心寺住職・村瀬明道尼さん

2008年7月4日

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写真むらせ・みょうどうに 24年生まれ。京都府八幡市の水月寺副住職などを経て、現職。NHK朝の連続テレビ小説「ほんまもん」で料理人を目指す主人公の師匠のモデルに=大津市、伊ケ崎忍撮影

 大津市の月心寺(げっしんじ)。住職の村瀬明道尼(みょうどうに)さん(84)は39歳の時、交通事故に遭い、右半身が不自由だが、その精進料理は「吉兆」創業者の湯木貞一さんが「天下一」と高く評価した。庵主(あんじゅ)さんに食の大切さや人生について聞いた。

■愛情込めて「君がため」料理を

 ――庵主さんの精進料理、中でも、ごま豆腐は評判です。

 朝の勤行の代わりに、ゴマを約1時間かけてすっています。お経の一言一句を間違わずに読むことより、今日ここに来てくださる方々に食べていただく大根やゴボウを精魂込めて炊く方を私は選びます。

 ――それはなぜですか。

 江戸時代、臨済宗の白隠禅師は「衆生本来仏なり」と説かれた。生きとし生けるものみなが、み仏なのです。私の場合、ここを訪れる「生きたみ仏」であるお客さんに心を込めて料理を作ることが修行です。大根やニンジンも、おいしく食べていただくことで成仏するのではないでしょうか。先代の住職村上独潭(どくたん)老師も「料理とは命を預かる仕事であり、何よりも大切な修行」とおっしゃった。

 ――おいしい料理を作るコツは何ですか。

 旬のものを安く手に入れ、美しく刻み、手早く調理して、心を込めて盛りつける。何より重要なのは「君がため」です。大切な、大切な人に食べていただくという気持ちで作る。そこに込めた愛情が一つでも欠けたら、ゼロになってしまう。

 ――なぜ、尼さんに?

 私は愛知県の米屋に生まれました。9人きょうだいの5番目で、地元の寺から1人ぐらい尼さんにしたらどないやという話が来た。尾張地方には「一子出家すれば九族天に生ず」、一人がお坊さんになれば親族が極楽に生まれ変わる、という考え方がありました。9歳で京都の尼寺・高源寺の弟子となりました。托鉢(たくはつ)で農家を回り、野菜の花や実を見て、旬を覚えたことが現在の基礎になりました。

 ――随筆家の白洲正子さんに「一休和尚を女にしたような尼さん」と評されましたね。

 お酒も飲めば、たばこも吸った。好きな食べ物はステーキやトンカツ、こってりしたラーメン。それに33歳にして初めて、25歳も年上の男性に恋をするという尼僧にあるまじき心も抱いた。交通事故に遭った時、その報いかと思いました。

■事故経験「いまを精いっぱい」

 ――大変な事故だったそうですね。

 昭和38(1963)年7月、月心寺の小町百歳堂(こまちももとせどう)は落慶目前でした。「お寺の食事は野菜ばかりでかなわん」と話す大工さんたちにお魚でも食べてもらおうと買い物に出て、国道1号を暴走してきたダンプカーに、はね飛ばされました。

 かろうじて一命をとりとめましたが、9カ月ほど入院。少しでも動くと激痛が走り、息をすることしかできない。お医者さんがこう声をかけてくれたのを覚えています。「仏様があんたを生かしておきたくなかったら、すぐに死んでるはずや。生きているということは、あんたが必要だからや」

 ――その後は?

 右手、右足が不自由になりました。左手で箸(はし)を持ち、筆を持てるようになりましたが、包丁で野菜の皮をむいたり、細かく刻んだりできない。ごま豆腐のごまは、左手にすりこぎを持ってすっています。九死に一生を得て思うのは、来年の今日、自分がこの世にいるかなんて誰にもわからないということ。だから、自分を欺かず、いまを精いっぱい生きなければならないと思うようになりました。

 ――いまの日本では、「食べる」ということが粗末にされているように感じます。

 月心寺の箸袋には「功の多少を計り彼(か)の来処(らいしょ)を量る」など5項目の「食事訓」が書いてあります。表現は難しいのですが、食べ物が自分の所に来るまでにかかわった人々の労苦を思う。自分たちの徳行が少ないのに、この食べ物をいただくことを過分に思い感謝する。暴飲暴食を慎む。食事は五体を養う良薬として、悔いのない人生を送るためにいただくということを説いています。

 食事が平穏にいただけることは、平和な暮らしの証し。親が死んだり、地震や火災に遭ったり、心配事があったりすれば、ご飯がのどを通らなくなる。日に3度もいただけることを感謝して暮らしたいものですね。(大村治郎)

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