昨春から、毎朝8時55分になると兵庫県芦屋市役所で流れている曲がある。「この町がすき」。「冬が来る前に」などのヒット曲で知られるフォークデュオ・紙ふうせんの後藤悦治郎さん(62)=同県西宮市在住=が、阪神大震災からの復興を願う小学生の詩をもとに作った。CDには収められず、広くは知られていないが、地元のコーラスグループなどの間で歌い継がれている。
歌が出来たのは震災3年後の冬。芦屋市PTA協議会が「わたしの街芦屋」をテーマに市内の小学生から詩を募り、それを歌にして市民コンサートで歌おうと企画した。芦屋市内の建物は震災で57%が全半壊し、当時もまだ、小学校の運動場に仮設住宅が残っていた。
集まった詩は30〜40通。当時、市立宮川小学校の6年生だった滋賀県草津市の会社員柏原将司さん(23)も応募した一人だ。震災で自宅が全壊し、家族とともに三重県の親類宅に約3カ月間、避難した。「壊れてしまった町が立ち直っていく様子を見て、自分の好きな芦屋に早く戻るように願って詩を書いたのを覚えている」と言う。
「紙ふうせん」の後藤さんも西宮市の自宅マンションで被災。両親の家も全壊し、大阪府内の知人宅に一時身を寄せた。曲作りを頼まれた後藤さんは子どもたちが書いた詩をすべて読み、印象に残る言葉を拾い集めた。
完成した曲には、震災を直接思い起こさせるような言葉はない。後藤さんは「多くの命が奪われ、それぞれが足の震えを止めるので精いっぱいの状況で『頑張ろう』なんて言葉は必要なかった」と言う。せめてふるさとを思う優しい歌で聞く人、歌う人に寄り添うことができればと、一晩でつくった。