私の趣味は映画鑑賞と読書である。最近読んだ、分子生物学者・福岡伸一さんの「できそこないの男たち」(光文社新書)におもしろい話があった。精子を最初に「見た」男の話である。1632年、オランダ生まれのアントニー・ファン・レーウェンフックという。
彼は、いまの顕微鏡の原型にあたるものを作り出し、各種の微生物や血液など、いろんなものを見ていた。その一つに、精液があったのだ。私は、何がなんでも精液を細かく見たい、とは思わない。この辺は、男性独特の視点ではないかと思う。
とはいえ、私も学生時代に犬、牛、鶏、そしてヒトの精子を顕微鏡で見てきた。繁殖学の実習である。
そのときもやはり、男子学生たちは、うれしそうに大騒ぎで顕微鏡をのぞいていたものだった。ヒトの精子は、繁殖学研究室の学生のものだったのが、余計に興奮を誘ったのだろう。私を含めた少数の女子学生たちは、淡々と顕微鏡をのぞいたものだった。
そして、私は今もときどき、精子を見ている。動物病院でも、避妊や去勢をせずにつがいで飼っているのにメス犬がなかなか妊娠しない時、オスの精子を採取して、運動率などを観察することがあるのだ。
精子は温度に敏感なので、常に人肌ぐらいの温度がないと、正確な検査は出来ない。家で採ったものを持ってきてもらうわけにいかないので、病院で採取させてもらう。
どうやって? 診察台にあげて、ペニスを包皮から出す。そして、手でぎゅっと握れば、圧迫の刺激に反応してペニスが大きくなり、射精するのだ。
学生時代から幾年月。私は今も淡々と、精子に向かっている。(獣医師・石井万寿美)
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