臨床獣医師生活を22年やってきた。まだまだ若いつもりだが、それだけ年月が流れているわけだ。振り返れば、顔から火の出るほど恥ずかしいこともしてきた。その一番は、若いころの「自意識の垂れ流し」だ。
獣医師になって5、6年が過ぎたころ、私はイヤな人間だった。「動物のことは、ようわかっているんや」というおごりがあって、診察室にやってくる犬を見ては、「この、下あごの毛が白くなってきているのは、白髪ですわ。だいたい6歳過ぎれば、こういう現象が出てきます」と、聞かれもせぬことを、得意げに語っていたものだ。
自分の年齢が40歳を過ぎ、頭にはぽつぽつ白髪が出てくるようになった。それで初めて、「ああいうことは、言うべきじゃなかったんだ」とわかり、今は、後悔している。
動物も、懸命に生きているから、そらぁ、白髪も出て老化するだろう。けれど、それを得意げに分析してみせて、なんになるのか。今の私は、飼い主に、「先生、これ白髪ですよね」と尋ねられたら、コクリとうなずくだけだ。動物たちの白髪をいとおしくさえ感じ、「ここまで元気に生きてくれて、ありがとね」という気持ちにもなる。
毛に白髪が交じるような、高齢の動物が来たら、診察台に上げた瞬間から、チェックを始める。心臓はちゃんと動いているか。他に病気はないか。散歩に行きたがらないと聞けば、関節炎はないかと調べる。
犬も猫も、健やかなシニア生活を送って欲しいと願う。私自身は、年齢を重ねることで体力がなくなったり、シミが増えたりして、うんざりもする。でも、年老いた動物の気持ちを推し量れるようになってきたと思えば、年齢を重ねるのもいいものだ。(獣医師・石井万寿美)
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