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にゃるほどジャーナル

腫らした手 名誉の負傷です

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 知り合いとランチに行き、スパゲティを食べていた時のことだ。

 私はその前日、治療を嫌がって暴れた猫にかまれ、右手を腫らせていた。フォークがうまく使えなかったので失礼になってはいけないと思い、「猫にかまれてね――」と右手を見せた。

 すると、今まで和やかだった会話の流れが急に変わり、「病院には行かれたの」と心配そうに聞いてくれた。

 自分で消毒液で傷口を消毒し、軟膏(なんこう)を塗っただけだった。「病院には行ってませんけれど」と言うと、相手は信じられないという顔になった。

 私は、病院に行くという選択肢すら思い浮かべなかった。診察中にかまれたりひっかかれたりすることはよくあるが、ほとんど病院に行ったことはない。

 1度行ったのは、右手の中指を犬にざっくりかまれて、皮膚が裂けた時だ。それで数針縫ってもらったことはある。そのぐらいになると、さすがに病院に行かないわけにはいかない。

 大学時代の同級生の獣医師に会うと、やはり手を腫らしていることがある。

 「どうしたの」と聞くと、札幌で開業して野生動物の保護もしている同級生は「トンビにかまれた」と、晴れがましそうな表情で手を見せてくれた。「おれは野生動物だって相手にしているのや。どうや、すごいやろ」という誇りのようなものが感じられた。そんな傷は、獣医師にとっては一種の勲章のようなものである。

 私も同級生も、手を腫らしながら、今日も動物と向き合っている。(獣医師・石井万寿美)

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プロフィール

石井万寿美(いしい・ますみ)

 61年大阪市生まれの獣医師。
 92年から大阪府守口市で動物病院「まねき猫ホスピタル」を開いている。〔詳細〕

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