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うまい地元の酒が飲みたい

滋賀県高島市・上原酒造 ガツンとくる濃さ強さ

2010年10月4日

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写真空中に伸びる木の巨大な天秤棒は存在感たっぷり。手作りにこだわる上原酒造の象徴だ。左が専務の上原績さん。右が社長の忠雄さんと美重子さん夫妻

写真「不老泉」などの日本酒に合う料理

写真水路

写真カフェ

写真扇子の骨

 これはたぶん、あなたがこれまで飲んだことのない酒。上原酒造の看板酒「不老泉」の通称「赤ラベル」。

 「『何かすごい酒はないですか』と聞かれたとき、冷蔵庫の奥から取り出して来るのがこの酒」「『ごつい酒』ファンのみなさま、お待たせしました」――酒屋さんのホームページを見ていると、そんな記述が並びます。

 とにかくどっしりと濃い。ガツンときます。いわゆる「口あたりの軽い」「料理のじゃまをしない」酒とは対極にある。「四の五の言わずについてこい!」という感じです。しかも燗(かん)をつけて飲むと、深く深くとろけるおいしさ。いい日本酒は冷やで飲むという、近頃はやりの「常識」とは全く逆の酒。

 なぜ、こんな酒が生まれたのか。そこには、効率とはかけ離れた酒造りを始めた蔵と杜氏(とうじ)の物語がありました。(稲垣えみ子)

    ◇

 季節は早足で衣替えを始めました。まもなく酒造りの季節です。

 「この時期になると、暗ーくなってくるんですよね」。上原績(いさお)専務(45)がポツリと漏らしました。「また、あの作業が始まると思うと……」

 上原酒造では、全生産量の65%が昔ながらの「山廃仕込み」。タンクに入れるのは、米と糀(こうじ)、水だけです。

 そして、じりじりと待つ。

 しばらくすると、雑菌を殺す乳酸菌が育ち、無菌状態になります。そこへ野生の酵母が来て育ち始める。ヒトにできるのは、菌がうまく育つよう温度を1度単位で上げ下げすることだけ。

 寒すぎれば熱源を入れ、温かくなりすぎればタンクの外に冷水を入れる。仮眠しながらつきっきりで神経をすり減らす作業が続きます。一歩間違えれば菌が育たず、最悪、雑菌に襲われ大損害となることもあるからです。

 こうして酒母(しゅぼ)が完成するまで約1カ月。最初から乳酸菌と酵母菌を入れておく通常の酒造りの2〜3倍かかる。「大変というより、怖い作業です。それが、何カ月も続くんです」

 山廃仕込みを始めたのは18年前。軽く華やかに香る吟醸酒が「日本酒っぽくない」「おしゃれ」ともてはやされたころです。ウチも吟醸酒で打って出ようと、上原忠雄社長(76)が呼び寄せたのが山根弘杜氏(とうじ)(73)。

 でも杜氏の頭にあったのは、別の酒でした。それまでいた蔵がクズ米を味付けでごまかした酒を造っていることに嫌気がさし、ケンカして辞めたばかり。手抜きではない本物の酒が造りたい。自然の力を呼び込む昔ながらの山廃仕込み。20歳で蔵人になったころは当たり前だったのに、大量生産と効率化で忘れ去られた手法です。

 でも山廃の酒はどっしり重い。10人のうち1人が好むかどうか。タンク2本だけ、仕込むことになりました。

 専務は、その酒を飲んだ驚きを今も覚えています。仕事が一段落した夕方、垂れてきた酒をひしゃくですくい、何げなくグイと飲んだ。「ウワーッという感じ」。濃い。力強い。「一番のファンになってしまった」。サラリーマンをしていた東京から呼び戻され、もうかる酒を造ればいいやと思っていた気持ちが一変した瞬間です。

 でもやはり売れません。数年後。蔵を訪れた客が「あのけったいな酒が欲しい」。しばらくして、その人が友達を連れて来る。その友達がまた来る。「けったいな酒」を求める人の輪は、ゆっくり広がっていったのです。

 上原酒造の酒造りはさらに「昔」に返っています。中央に据えられているのは、酒袋に圧力をかける木の巨大な天秤棒(てんびんぼう)と、昔ながらの木の甑(こしき)。

 天秤棒は、廃業した大阪の蔵で見つけてきました。無理に力を加えると折れるので従来の85%しか搾れない。でも無理に搾らない分、いいとこ取りの酒になる。木の甑は毎日湯をはり、徹底的に洗う作業を2週間続けてようやく使える。でも保温性が高い木の中で蒸す米は粒が立って見事なできばえ。「手間が大変」と話す専務の顔が、いつのまにか輝いています。

 効率を追求する中でこぼれ落ちたのが、手間。手間をかけたものの価値を、山廃の酒は教えてくれるのです。

 但馬の山里に、杜氏を訪ねました。

 軽トラックでぐんぐん木々の間を抜けていく。到着したのは天空に近い美しい棚田。寒暖の差が大きく、わき水が流れるこの場所で、赤ラベルの原料米高嶺錦(たかねにしき)を育んでいるのです。「病気に弱くて誰も作らなくなったけど、やんちゃやけど力強い酒ができるんや。自分でつくった米で、思うような酒を造る。こんな楽しみはない」

 酒造り53年。同じふうに育てても、成長が早かったり遅かったり。余裕を持って見守る。ときには放っておく。そんな心持ちが大切なのだといいます。「待つってことが大事なんや。急ぐと、どうしても失敗が多い。ある程度、自然に任せて。人間に似とるんや。同じやと思うんや」

    ◇

■蔵元おすすめの「晩酌の酒」(一升瓶・税込価格)

 ●不老泉 山廃仕込特別純米原酒 参年熟成=通称赤ラベル(3150円)「香りも味も他にはない個性。熟成酒ならではのカラメルのような味と、長くフワーッと残るあとくち。燗(かん)をつけるとさらに味がまとまる」

 ●不老泉 山廃仕込純米吟醸中汲(く)み 無濾過(ろか)生原酒(3150円)「濃くて深い山廃ならではの味わいだが、決して重くない優しい口当たり」

 ●不老泉 山廃仕込純米吟醸備前雄町 無濾過生原酒(3360円)「原料米の雄町ならではの甘く深い味がドワッとふくらむ」

(問い合わせは上原酒造=0740・25・2075)

    ◇

【肴】琵琶湖産アメノウオ

 力強い山廃の酒には、しょうゆやみそが利いた肴(さかな)がよく合う。ぴったりなのは、琵琶湖の恵み、川魚を使った料理です。濃いめの味付けが絶妙に味をひきたてるのです。地元の人気店「川魚のよしうめ」の梅村ふじ江さんに、季節のおかず「アメノウオご飯」の作り方を伺いました。(アメノウオとは、秋になって腹の子が大きくなり、脂が抜けて白っぽくなったビワマスのこと。しつこさがなく炊き込みご飯にぴったり)

 つくりかた (1)沸騰した湯の中に、ウロコを引いて卵と内臓を取ったアメノウオを入れてゆで、取り出して身をほぐし骨を取る (2)ゆで汁が冷めたら必要に応じて水を足し、洗った米にあわせて水加減 (3)短冊に切ったニンジンと油揚げ、(1)を入れ、しょうゆで味つけして炊く (4)8割の時間炊いたところで卵を入れ再びスイッチ (5)スイッチが切れたら刻んだ青ネギを入れ、蒸らしてできあがり

 「アメノウオは10月から禁漁ですが、12月から出回るアユの赤ちゃん『ヒウオ』を使うと濃い口のごはんに真っ白の魚がはえてまた美味。若い人もぜひ、川魚を敬遠せず料理してみて」(ふじ江さん)

    ◇

【土地を楽しむ】

 ●行き方 JR湖西線の安曇川駅か新旭駅で下車。秋風に吹かれながら広い空・土地・湖を満喫できるレンタサイクルを貸し出しています。

 ●見どころ 上原酒造の酒造りを支えているのが豊富なわき水。地元の人が「生水(しょうず)」と呼ぶこの水は、集落を巡る水路を流れて飲料に炊事にと大切に利用されてきました。「川上の人を信頼し、川下の人を思いやる」心がなければ成り立たない暮らしです。この珍しいシステムを見学できるのが「かばた見学ツアー(有料)」(申し込みは0740・25・6566)。生活の場を見せていただくので必ず事前に申し込み、地元のガイドさんに従って見学してください。こうして育まれた琵琶湖を満喫できるのが新旭水鳥観察センター(0740・25・5803)。200円で望遠鏡が使い放題。水の上でくつろぐ水鳥の羽の色やしぐさを見ていると、時を忘れます。わき水でいれたコーヒーや季節のケーキが楽しめるカフェも人気。カヌーや木登りツアー(有料)も。

 ●食べる 地元で上原酒造のお酒を楽しむなら安曇川駅近くの魚仁(うおじん)(0740・32・2866)。ダンディーな大将がつくる天然魚の料理やこだわりのそばがおいしい。山根杜氏行きつけの店でもあります。

 ●買う 安曇川駅前の川魚のよしうめ(0740・32・2374)は、上原酒造へ来た人が必ず立ち寄る店。モロコやアユなど湖魚の佃煮(つくだに)のほか、鮒寿司(ふなずし)、ウナギのかば焼きなど、無添加・出来たての味を持ち帰ることができます。道の駅藤樹の里あどがわ(0740・32・8460)には高島市の特産品が勢ぞろい。焼きサバ寿司やトチ餅、昔ながらの手作りにこだわったしょうゆや酢がおすすめ。全国シェアの9割を占める扇子の骨を使ったオリジナル扇子作りもできます。

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