蒸鰈
〈春〉蒸鰈
この時期、山陰や北陸地方を旅すると、きまって宿の朝ご飯に鰈(かれい)の一夜干しが出ます。
中でも若狭の笹鰈(ささがれい)は絶品。笹の葉の形をしていることからそう呼ばれますが、赤い腹子が透けて見え、食欲をそそります。
森澄雄は湖国近江をこよなく愛する俳人ですが、若狭へも足を伸ばし、多くの寺院を訪ねています。古(いにしえ)の仏たちに出会ったその日、膳(ぜん)に乗った白くふくよかな蒸鰈(むしがれい)に、ふと仏性を感じたのではないでしょうか。豊饒(ほうじょう)な胸中が思われます。
歳時記には「蒸鰈」は「いったん塩蒸しにした鰈を干したもの」と解説されていますが、手間のかかった干物と言えます。
一般的には内臓処理した鰈を濃いめの塩水に30分つけたのち、串に刺して干すだけ。漁港の近くの家庭ではどこでも自家用の干鰈を作ります。路地の軒の干鰈に春風が吹く、のどかな光景がそこここに見られます。
こうしてできあがった笹鰈の一夜干しはさっと焼き、両手に持って、まず背びれからえんがわの部分をかじります。そのまま箸(はし)を使わずに骨をきれいに残して食べるのが、行儀は悪いけれどおいしい笹鰈の食べ方です。骨はもちろんこんがりとやいていただきます。(俳人・大石悦子)
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〈ゆず焼きと鰈のポン酢〉
□ゆず焼き
酒・しょうゆ・みりん各大さじ1にゆずの輪切りを合わせ、鰈をしばらく漬け、汁気を切ってよく熱した網で焼き、ゆずを添えて供す。
□鰈のポン酢
鰈に酒をふりかけ、しばらく置いてから、よく熱した網で焼く。粗く身をむしり、アツアツにポン酢(柑橘類(かんきつるい)のしぼり汁1:だし汁1:しょうゆ1)を添えて供す。焦げ付く懸念のある時は網に酢を塗っておくとよい。(料理監修・水野保子)