蛸の柔らか煮
〈夏〉蛸(たこ)
『猿蓑(さるみの)』所収のこの句には、「明石夜泊」の前詞がありますが、芭蕉は本当は泊まっていなかったとのこと。泊まったとした方が実感が生まれるという句作上の計らいだったようです。
蛸を食べたとは言わずに、句の初めに蛸の入った「蛸壺(たこつぼ)」を置いて明石の印象を強くした句です。夜中、蛸を捕るために素焼きの蛸壺を海中に沈めておきます。夜明けには引き上げられるとも知らず、蛸ははかない夢をみている。くにゃくにゃした軟体の蛸をかくも美しく表現した句は他に例がありません。
さて、芭蕉にそんな夢をみさせた蛸。この句の季語は「夏の月」ですが、蛸は夏の季語に使われます。実際に美味(おい)しいのも麦(むぎ)藁(わら)の色づくころです。日本で消費される大方はマダコ。近海ものであれば、刺し身、酢の物、煮物など、料理次第で蛸ならではのうまみを引き出せます。蛸を食べる習慣がある国はほかにメキシコ、スペイン、イタリア、ギリシャぐらいで、世界の総漁獲量の3分の1は日本人が食べているそうです。
半夏生に蛸を食べる習俗は、早苗の根が蛸の吸盤のように田に定着するようにと願うものですが、その時期の蛸が旬だということを言い伝えたものでもあります。(俳人・宇多喜代子)
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〈蛸の柔らか煮〉
蛸1杯(700〜800グラム)は墨に気をつけて目とワタを除き、塩でもんでぬめりを取り、水でよく洗う。まな板に蛸を置き、クッキングペーパーを乗せ、すりこぎなどで全体をよくたたき、食べやすい大きさに切る。
鍋に水、炭酸水各1カップ、しょうゆ、砂糖各大さじ4、酒2分の1カップを熱し、蛸を入れ、中火で20分ほど煮て火を止める。そのまま漬けて味を含ませる。器に盛り、おろしショウガまたは練り辛子を添える。(料理監修・水野保子)