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ぷらっと沿線紀行

駅で水着に着替えたら JR紀勢線 古座駅

2008年9月13日

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写真レンタルカヌーの艇庫は古座駅のホームの横にある。子どもたちが到着した特急を見つめていた=和歌山県串本町写真カヌーで下ってきた人たちが、通称「飛び込み岩」からジャンプ。古座川に歓声が響いた=和歌山県古座川町写真全通まで約40年間もかかったJR紀勢線。橋を渡る列車が古座川に映り込んだ=和歌山県串本町地図   フォトギャラリー

 改札を出てすぐ左手に、古座観光協会のカウンター。ここで長さ約3メートルの1人用カヌーを借りる手続きをしてから、駅舎内にある更衣室でシャツと水着の短パンに着替えた。

 駅前には全国でも珍しいという「カヌータクシー」が待機していた。屋根にカヌーを載せるためのキャリアがついている。ライフジャケットやヘルメットなどと合わせて観光協会のスタッフに積み込んでもらい、古座川の上流に向かって出発だ。

 運転手の山本亘一(のぶかず)さん(69)は川の流れを見ながら、「ここが少し難しいところ」などと助言してくれた。この日のスタート地点は駅から約8キロ上流の明神橋。川岸からゆっくり流れに乗ると、視線は水面から高さ1メートル足らずの位置にある。心地よい川風を受けながら、聞こえてくるのは鳥のさえずりと虫の声、そして瀬の音だけだった。

 大阪市の天王寺駅から特急で約3時間。01年度に始まったカヌーレンタルの料金は1日2千円。手軽さが受けて、利用者は初年度の1112人から昨年度には5380人に増えた。

 一時は無人化の危機に直面していた古座駅だが、カヌー人気のおかげでにぎわいを取り戻し、停車する特急は1日10本から14本になった。都会人があこがれる自然豊かな川の玄関口として、駅は生まれ変わった。

■再生 川の流れのように

 古座川は紀伊半島南部の大塔山(標高1122メートル)を源とする全長約56キロ。本州のほぼ最南端で太平洋に流れ込む。

 上流と結ぶ道路が整備される昭和の初めまでは、生活物資を運ぶために帆掛け船が行き来していたという。今年6月には環境省の「平成の名水百選」に数えられ、南紀でも指折りの清流だ。

   ◇

 1999年、和歌山県南部の16市町村(当時)で自然体験イベントを中心にした南紀熊野体験博が開かれたのを機に、旧古座町(05年に串本町と合併)は自然と親しむ「道具」としてカヌーに着目した。古座川では、このころからカヌー客が増え始めていた。川から約200メートルしか離れていない古座駅のすぐ横にたまたま町有地があり、ここに艇庫をつくって01年にレンタルを始めた。

 02年には、JR西日本から駅舎を譲り受けた。ピーク時に10人以上いた駅員は乗降客の減少で外部委託の1人だけになり、使われなくなった事務室などの空間をカヌーの貸し出しカウンターや特産品の販売店に改修。86年まで鉄道手荷物輸送の受け渡し場所に使われ、その後は倉庫になっていたところを更衣室につくり替えた。

 ただ、木造平屋の何の変哲もない駅の外観は、1936(昭和11)年の開業当時のまま残された。「アウトドアスポーツの拠点らしくログハウス風に、という案もあったんですが」と串本町観光課の浜地弘貴さん(44)は振り返る。旧古座町時代に浜地さんらが地元住民にアンケートしたところ、「駅はみんなの町の顔。思い出と結びついた古い面影を大切にしてほしい」との希望が多かったのだという。

   ◇

 古座川流域のほとんどを占める古座川町の人口は、50年ほど前には1万人を超えていた。その後、林業の衰退とともに減少し、現在は約3400人。手入れが行き届かなくなった山は荒れ始めている。56(昭和31)年には中流にダムが完成。地元の人は「放流水の影響で川の透明度が下がり、アユの味が落ちた」という。

 環境が大きく変化するなか、京都大フィールド科学教育研究センターは04年から「古座川プロジェクト」に取り組んでいる。串本町にある紀伊大島実験所を中心に地元の人たちの協力も得て、川の源にある森、流域の人里、海とのつながりを探り、豊かな自然の再生を目指す研究だ。

 生き物や水質の調査に加え、過去の森や川の様子、食生活と川のかかわりなどについて住民から聞き取りを進めている。古き良き日本の川の姿を取り戻すにはどうしたらいいのか、古座川をモデルに最新の知恵で明らかにし、世界に発信したいという。

 紀伊大島実験所の所長、梅本信也さん(49)が「50年かかるかも」という壮大な事業。そのころ、古座川はどんな姿をしているのだろう。

(文・添田孝史 写真・日吉健吾)

鉄っちゃんの聞きかじり〈全通まで40年〉

 紀伊半島をほぼ海岸線に沿って一巡りするJR紀勢線は、和歌山市駅と亀山駅(三重県亀山市)を結ぶ約380キロ。海と山が入り組んだ難所が多いため、着工から30回以上にわたって小刻みに線路を延ばし、全通までに約40年間もかかった。トンネルは全部で180カ所もある。

 工事は1920(大正9)年から和歌山県側と三重県側の双方で始まり、40(昭和15)年までに和歌山市―熊野市(当時は紀伊木本)、亀山―尾鷲が開通した。残り区間の工事は第2次世界大戦や財政難でたびたび中断。59(昭和34)年に最後に開通したのが、一番の難所とされた三木里(三重県尾鷲市)―新鹿(同県熊野市)の約12キロだった。78(昭和53)年には和歌山―新宮の約200キロが電化された。

 串本駅(和歌山県串本町)は本州最南端の駅で、古座駅は東へ2駅、約7キロ離れたところにある。

探索コース

 中国の景勝地になぞらえ「ミニ桂林」とも呼ばれる古座川沿いには奇岩怪石がいっぱい。1千万年以上前にマグマ活動でつくられた地形だ。国の天然記念物「一枚岩」は高さ約100メートル、幅約500メートルもある。「少女峰」「牡丹(ぼたん)岩」も有名。月野瀬温泉の「ぼたん荘」(0735・72・0376)では平日・土曜の午後3時〜8時半、日曜・祝日の午後1時〜8時半に入浴できる。

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