スパイダーマンが描かれたラッピング電車で、USJで遊び疲れた家族連れが家路につく
JR西九条駅の高架下。居酒屋や串カツ屋が並ぶ
ゆめ咲線を走るラッピング電車。左上から時計回りに、スパイダーマン、ウッディー・ウッドペッカー、セサミストリート、パワー・オブ・ハリウッド=いずれも大阪市此花区で
フォトギャラリー
スパイダーマンをペイントした電車が、ホームに到着した。休日の日が落ちたJR西九条駅(大阪市此花区)。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)からの帰りの乗客で満員だ。
電車が二つのホームの間に止まり、両側の扉が開いた。どちらに降りたらよいのかわからず、乗客はうろうろ。車両を横切ってホームを往復し、行き先の案内表示板を確かめるカップルもいる。
西九条駅は「島式2面3線」構造。USJへの乗客を運ぶゆめ咲線のシャトル電車が、二つのホーム(島)にはさまれた真ん中の1線を使用しているためだ。各ホーム外側の残り2線は大阪環状線に使われているほか、奈良へと延びる大和路線や、和歌山にいたる阪和線の快速電車も乗り入れる。西九条駅は関西各地につながる路線の乗換駅だ。
旧国鉄時代の1964年、高架駅化され、それまで西九条駅で途切れていた環状線が輪になった。当時の利用客の大半が、近くの鉄鋼や造船などの工場の従業員。西九条駅の駅員だった平良(へいら)守正さん(74)は「朝は込むが、昼はがらがら。夕方から再び駅に人が多くなり、高架下の飲み屋街がにぎわった」と懐かしむ。
しかし80年代以降、工場の移転や閉鎖が進んだ。その跡地に01年3月、USJが開業し、若者や家族連れ、外国人が急増。労働者の駅を華やいだ雰囲気に一変させた。
■だれもが使う駅だから
1977年8月17日。普段なら閑散としている盛夏の昼、旧国鉄の西九条駅に人だかりができた。
切符売り場へとつながる階段に、無限軌道付きの台車が運び込まれた。手動車いす用の階段昇降機の公開テスト。車いすを台車にのせて固定し、台車ごと階段を上り下りする仕組みだ。車いすに乗ったのは、近くに住む吉本昭さん(75)。吉本さんは3歳の時に患った脊椎(せきつい)カリエスで、両足が不自由になった。
西九条駅には、切符売り場まで20段の階段がある。さらにホームへは40段近い階段を上らなくてはならない。当時エレベーターやエスカレーターは設置されていなかった。吉本さんは「登山をするような覚悟で駅を利用していた」。
◇
鉄工会社「ヤリステ」(堺市堺区)の社長、山田晴久さん(67)は自動制御盤を作る傍ら、電動車いすの製作に携わっていた。吉本さんはテストの前年、同社の電動車いすを購入していた。
「エレベーターの設置は巨費がかかる。車いす用の階段昇降機を作れないか」。吉本さんは山田さんにそう持ちかけ、製作費として100万円を渡した。
午後7時ごろに仕事を終えると、昇降機の製作に取り組むのが山田さんの日課になった。4カ月後、試作機が完成。無限軌道のチェーンの緩みを解消した上で「歯」をゴムで包み、滑ることなく階段を上れるように工夫した。
昇降機のテストは国鉄の許可を得て実施され、新聞やテレビで報じられた。しかし、山田さんの会社に注文はなく、東京の機械製造会社がより高性能な昇降機の生産に取りかかったため、製作を断念した。それでも、吉本さんは「多くの人に駅のバリアフリー化について知ってもらうという目的は達成できた」と話す。
90年代に入ると、公共施設のバリアフリー化への法整備が進んだ。03年、西九条駅にもエレベーターとエスカレーターが設置された。「今では車いすの障害者が、西九条駅から関西空港に向かう快速電車に乗って海外にも行けるようになったんです」。吉本さんは感慨深げに話す。
◇
障害者を悩ませた高架の下は飲み屋街。昔からサラリーマンの癒やしの場だ。
その一つ、「トンネル横丁」には、長さ約20メートルに6店が並ぶ。居酒屋「三平(さんぺい)」を経営する森克啓(かつひろ)さん(62)夫妻は「お客のほとんどが常連さん。USJの近くにある工場で働く人たちが来てくれている」と話す。「お店、つぶさんといてね」。そんなお客の一言がうれしくて、不景気でもがんばれるという。
別の飲み屋街でうどん店を経営する畠中伸吉さん(59)は、「USJができて20代の女の子の姿が駅前に増えたが、値段が安く、サラリーマンが安心して飲めるガード下の雰囲気は変わらない」。
(文・渋井玄人 写真・小林裕幸)
鉄ちゃんの聞きかじり〈ワクワク感に包まれて〉
USJの人気アトラクションの広告が描かれたゆめ咲線の電車を見ていると、「これから夢世界に行くんだ」という期待が膨らむ。広告は正面から側面までびっしり。スパイダーマン号は、窓ガラス部分まで覆っていて迫力がある。
ウッディー・ウッドペッカー号、セサミストリート号、「E.T.」や「ジュラシック・パーク」の恐竜などが描かれたパワー・オブ・ハリウッド号など計4種類。印刷したシートを車体にはり付けてあり、ラッピング電車(6両編成)と呼ばれている。
年末年始や黄金週間など、利用客が多くなる時期には、ウッドペッカー号の車両を2両ずつに分離。ほかの3種類の絵柄の電車に接続して8両編成にする。期間限定のラッピング電車だ。JR西日本のみどりの窓口がある駅では、USJの入場券を買うことができる。
探索コース
JR西九条駅から西に5分ほど歩くと、六軒家川沿いの堤防の壁画が目に入ってくる。工場地帯のイメージが強い大阪市此花区を、アートの町にしようという試みで、ほかに区役所や公園など6カ所に壁画が描かれ、街歩きのポイントになっている。幼稚園児からお年寄りまで延べ2100人が参加。定期的に集会を開いて、花や人型の図柄を考えた。