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勝手に関西世界遺産

登録番号164 吉野の割り箸

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写真らんちゅう箸を80本ほど並べ、まとめてカンナをかける山本晃次良さん。水をつけて削りやすくしている写真国の重要無形民俗文化財に指定された、酒樽の材料を作る「樽丸(たるまる)製作技術」。余った材料を箸の製造に回している=いずれも奈良県下市町

 女王卑弥呼が活躍した弥生の頃は倭人(わじん)は手食(てしょく)であった。細い木の枝を曲げたピンセット状の箸(はし)はあったが、これは女王や神にささげる料理を盛るためのものである。

 食事用の2本の棒からなる箸は中国から伝わった。奈良の平城京跡から出土した木製の削り箸には寸胴型、両細型、片細型の3タイプがある。主に宮廷内で用いられ、官吏たちは自宅では手食だった。

 箸の文化が庶民にまず普及するのは平安時代である。貴族や上流階級の間では「マイ箸」があり、他家にお呼ばれに行く時は美しく盛装した布製の箸袋に納めて持参した。

 安土桃山の頃、キリスト教布教のため来日したポルトガル人ルイス・フロイスは「日本人は器を手に持って2本の棒で食事をとる。そのためにナフキンとフィンガーボールは不要」と言っている。彼らはいまだ手食であった。器も日本のように美しい陶器や漆器はなく、板切れだった。

    ◇

 このころ日本の京都を中心にした宴会料理は奈良時代同様に白木(杉)の箸で、1回の使い切り。今日においてもその文化は継承されている。

 白木の箸は使用する前に水を含ませ、ふいてから用いるのがしきたりである。そうすることにより飯や菜は食べやすい。従って箸袋は不要。

 割り箸が生まれるのは江戸後期で、奈良県吉野地方においてである。吉野杉の良材を得るために余分な若木を間引いた間伐材のほか、酒樽(さかだる)の材料や建材の余りを利用して作った。分かりやすく言えば廃材の利用なのである。

 割り箸は主に外食産業で使われた。最初はうなぎかば焼き屋。使用後は専業者によって回収され、削り直して生漆を塗った。これをうどんやそばの屋台が使った。割り箸のリサイクルである。

    ◇

 中国の新疆ウイグル自治区のウルムチで作っている箸も廃材の利用である。86年に当地で聞いた話では、ウルムチとトゥルファンを結ぶ国道を砂嵐から守るために植えている防砂林は20年たつと大木になり、倒れるおそれがある。そのために切って若木と植え替える法律がある。この木は木目は悪く柱にも板にもならない。日本の道路関係の企業の勧めもあって箸にした。1回きりで使い捨てるから衛生●(竹かんむりに快)子(ばし)という。広州ではこの捨て箸を集めている御仁がいた。薪にするのだと言った。

 吉野の割り箸も、間伐材や廃材を有効活用することで美しい吉野杉を育て、森林の保水力を維持し、山人の暮らしをも支えてきた。割り箸の是非を巡る議論があるが、割り箸文化は継承されるべきだと思う。

(文・奥村彪生〈伝承料理研究家〉 写真・中田英博)


○生産者減り高級品に

 吉野の割り箸の製造現場を見ようと、奈良県下市町を訪れた。割り箸発祥の地とされ、かつて全国の割り箸の8割を担っていたという。

 山本製箸所2代目の山本晃次良(こうじろう)さん(54)は、手作業を続ける数少ない職人だ。両端を細く削る「らんちゅう箸」などを作る。2本を紙帯で留め、料亭や茶会で使われるという。「杉箸は軽くて木目が美しい。赤いものは特に香りがいい」と山本さん。

 山本さんは箸の材料を、酒樽の材料を作る地元の業者から仕入れる。まずは箸の長さの板を作り、木目が縦に入るように箸の厚さにスライス。箸1本の太さに切り、先端を細く削る。これを80本ほど台に並べ、まとめてカンナをかけ、最後に1本ずつ小さいカンナで角を取る。1日に作れるのは1千〜2千膳(ぜん)という。

 隣の上北製箸所では、建材の余りから、頭部を斜めに切った「天削(てんそげ)箸」を日に1万膳ほど作っていた。上北利夫さん(76)が台に板を置くと、機械を通る間に形が整えられる。ここの箸は、すし屋や鍋料理店で使われているそうだ。「昔は職人さんを2〜3人抱えていた。安い中国製には勝てない」と上北さん。

 下市町商工会によると、1955年ごろは箸の製造業者は町内に約450戸あったが、06年12月現在で38戸にまで減った。そして廃材から作られる吉野の割り箸が、高級品になった。(吉川一樹)

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