
山あいにある湯村温泉=いずれも兵庫県新温泉町
「もういいかい」「まあだだよ」「もういいかい」「もういいよ」
懐かしい掛け声を合図に、全日本かくれんぼ大会の幕が切って落とされた。隠れ人として参加した私は、スタート地点から1キロほど離れた電話ボックスの陰に身を潜め、まず15分は見つかるまいとほくそ笑んでいた。ところが、ものの5分もしないうちに「見つけたあ!」と指差(ゆびさ)されて、びっくり。鬼、早い!
この湯村温泉の全日本かくれんぼ大会、町全体を使ってかくれんぼという発想が秀逸で、参加してみると、大人の私も妙に血が騒いだ。どこで知るのか年々参加者が増え、9回目を迎える今年は、ついに700人を超えたそうだ。
私を見つけた鬼は、はるばる東京から参加した早大かくれんぼサークルの学生。エリアを狙い定めて走ってきたという。見れば続々と鬼たちが走っている。実は500人を超える鬼に対し、隠れ人は200人余しかおらず、隠れ人を見つけた鬼のなかからくじ引きで海外旅行が当たるため、鬼も真剣なのだ。
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だがそんな真剣さの一方で、珍妙な仮装の参加者も目立つ。本来は、郵便ポストなどに化けて風景にとけこめるように仮装オッケーにしたそうだが、カエルやら怪人やら食いだおれ人形やらグリコの看板などなど、とけこむどころか、めっちゃ目立ってるで、という格好でやってくる参加者が増え、最近では、探す鬼の側まで意味なくコスプレして、みんなで町を練り歩くという、正体不明のイベントになってきた。
「どうせ町おこしするなら、何かアホなことをやろう」。そんな大会の趣旨を、さらに超えて、アホ化に拍車がかかっているのだ。
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そもそもなぜ湯村温泉でかくれんぼなのか。地元青年団の一員で、全日本かくれんぼ協会(メンバーみんな地元)の副会長でもある谷口薫さんに尋ねると「いわれなどはありません。どこもやってなかったので、言ったもん勝ちかなと」って由来もテキトー。
脱力感あふれる大会ではあるものの、協会の情熱は本物だ。お祭りと化した大会とは別に、本格的な選手権も開催しており、そちらは名誉を賭け、山中でドロドロになって戦う、超過酷なサバイバルかくれんぼである。
「ゆくゆくは『かくれんぼ』を国際語にし、この地を世界の精鋭が集まる聖地にしたい」と谷口さん。
アホなことこそ真剣に。
その心意気、関西では絶対的に正しい。よって全日本かくれんぼ大会を、勝手に関西世界遺産に登録します。
(文・宮田珠己〈エッセイスト〉 写真・立花常雄)
○「見つけたあ〜!」温泉街に輪
兵庫県新温泉町の山あいにある湯村温泉は、ドラマ「夢千代日記」の舞台として有名だ。緑に囲まれた風情のある温泉街だが、かくれんぼ大会のあった6月8日は一変。まるで仮装パレードだった。
大会は、役場職員や商店主ら地元有志がつくった全日本かくれんぼ協会が「町おこしに」と毎年開いている。
隠れ人は鬼に「隠れ人ですか」と声をかけられたら、否定してはいけない。見つかると、鬼と一緒に「奉行所」に行き、捕まったことを報告する。街全体を歩いてもらうことで観光につなげるのが目的だが、その間、見知らぬ人同士が言葉を交わす。協会は「知り合いができ、年に1度湯村温泉に集まる『同窓会』みたいな大会にしたい」。
私も隠れ人として参加した。物陰には隠れず、街の神社の参拝客に紛れ込むという作戦。散策したりベンチに座ったりと「さりげなく」ふるまっていたつもりが、開始数分で見つかってしまった。
鬼の男性には「動きがぎこちなかった」と自意識過剰ぶりを指摘され、さらにガックリ。しかし、かくれんぼの奥深さはしっかり味わえた。
★関西が誇る「お宝」を紹介します。「これぞ関西の世界遺産」という有形無形のお宝の推薦をお待ちします。住所、氏名、電話番号を書き、〒530・8211朝日新聞生活文化グループ「勝手に関西世界遺産」係へ。ファクスは06・6231・9145、メールはdo-kansai@asahi.comで。ご意見、情報などもお寄せ下さい。