揚げたてのひろうすがおいしそう=京都市右京区の嵯峨豆腐森嘉
甘いだしで煮て冷やしたひろうす(手前中央)=京都市上京区のとようけ茶屋
このごろはひろうすはおいしいのは少ない。かつては上方のおばんざいの種として欠かせなかった。市場や商店街の豆腐屋さんでは手作りのものを普通に売っていた。
スーパーマーケットの進出で市場も商店街もさびれてしもうた。そのスーパーにあるひろうすは昔とちごうて安っぽくてまずい。安物の弁当に入っているひろうすは、ひろうすと言われん。
ひろうすは飛竜頭と漢字を当て、ひりょうずとも言う。本来はFILHOZES(ヒルホス)と書く。ポルトガルの揚げ菓子でおます。織田信長や豊臣秀吉らが活躍していたころ、キリスト教布教のために日本にやってきたポルトガルの宣教師によって伝えられた。今や世界の名物になっているカステラもそうである。
ヒルホスはもともと小麦粉と卵を練って整形し、油で揚げたもの。砂糖蜜をくぐらせ金平糖をつけた菓子で、夜空に輝く星々のようにかわいかった。日本に伝わってから改造され、もち米の粉を蒸してから卵で練るようになった。再現したが、これもうまい。
江戸中期になって寺院の精進料理に採り入れられ、豆腐料理となり飛竜頭と命名された。一卓の上に並んだ大皿の料理を皆でつつき合いながら会話も楽しむ黄檗(おうばく)系の精進料理、つまり普茶料理である。中国では動物性の食品に形も味も似せて仕立てる。想像上の動物である竜の頭に見立てて作り上げた。
東京では即物的にがんもどきと呼ぶが、上方の呼び名の方が余韻があり、おいしさを感じさせる。その揚げ色も上方は上品である。
天明のころ、大阪で『豆腐百珍』なる遊び心に満ちあふれた料理本が出版され、大ベストセラーになった。続編を入れると豆腐料理は200種を超える。その中にヒリヤウヅが紹介されている。今のとちごうて、くず粉でつないだ豆腐の種でかやく(具)を包んでいる。
ゴボウの皮の千切り、ギンナン、キクラゲ、麻の実、焼き栗かクワイのさいの目切りなどをいためてかやくにした。今のは黒ゴマだけでごまかしたのがある。私が若いころ京都の料理屋の主人に教わったのはヤマノイモで豆腐をつなぎ、たたいた芝エビをぎょうさん混ぜたもの。今も来客のときは手作りする。
京都は精進料理と日本料理の発生の地。豆腐専門店が街のあちこちにあるが、北野の天満宮のかいわいに多い。この辺りや嵯峨は水がええさかい豆腐はうまい。その豆腐で作るひろうすはなお、うまい。京都のおひとらは幸せだんなッ。(文・奥村彪生〈伝承料理研究家〉 写真・中田英博)
○上質な豆腐に具だくさん
お盆前の早朝、「天神さん」こと北野天満宮の南東400メートルにある豆腐店「とようけ屋山本」(京都市上京区)を訪れた。ひろうすは、お盆にお供えにする人が多いという。大豆の独特のにおいが漂う中、20人ほどの従業員が忙しそうだった。
弱アルカリ性の水で作った豆腐を搾り、すりおろしたツクネイモ、千切りにしたゴボウ、ニンジン、キクラゲを加えて練る。ギンナンとユリネを包んで丸め、まず110度の低温で揚げる。スポンジ状に膨らませ、煮込み料理のときだしがしみ込みやすくするためだ。次に170度強で揚げてカリッとさせる。
3代目の山本久仁佳さん(71)が「その背中を追いかけてきた」という「嵯峨豆腐森嘉」(同市右京区)も訪ねた。豆腐は切れ端などを使う。5代目の森井源一さん(59)は「ひろうすは2次製品。でも祖母がギンナンやユリネを入れて人気商品になった」と話す。そういえば奥村さんも「豆腐の質が高く、具をけちらずにたくさん入れるのが京都のひろうすの特徴」と説明していた。
天神さんの近くの豆腐料理店「とようけ茶屋」で、煮て冷やしたひろうすを頂いた。口の中に甘いだしがじゅわっと広がり、ほくほくしたユリネの甘み、弾力のあるギンナンのほろ苦さが重なる。真夏の京都を歩いた疲れがとれた。(吉川一樹)
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