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勝手に関西世界遺産

登録番号194 鯨のハリハリ鍋

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写真鯨のハリハリ鍋。たんぱく質とビタミンをしっかりとれる=大阪市中央区の「徳家」写真鯨の下あごの骨や肩甲骨で造られた雪鯨橋。鯨の大きさを実感できる=大阪市東淀川区の瑞光寺

 06年10月に旭堂南海さんが「捕鯨文化」(登録番号88)というテーマで書いているが、私は食に力点を置いて書いてみたい。

 私が少年の頃過ごした南紀すさみ町江須の川の海岸にゴンドウクジラが打ち上がったことがある。村の者たちがめいめい包丁と入れ物を持ち、ブスブスと身を切り取った。私の村だけで処理しきれなかったので隣村へも分配した。

 冬だったから赤身は白菜やネギとすき焼きにした。皮下脂肪部は空鍋でいって油を取った。そのかすであるいり皮をおやつ代わりに2、3日食った。食べ過ぎが原因だったのか、おならをするとズボンにまで油がしみ出た。

 日本人は太古から鯨を食べてきた。中世の京都では鯨は珍重品であった。戦国時代、全国制覇をねらう織田信長は上洛(じょうらく)の際、皇室へ鯨を献上している。これは塩鯨を荒むしろで巻きしめた荒巻である。

 日本人は鯨を徹頭徹尾、余すところなく美しく食べてきた。長崎県生月島の鯨漁の漁元が著した『鯨肉調味方』(天保3〈1832〉年)を見ると、内臓は言うに及ばず、鯨の皮膚に寄生するカメノテという甲殻類やカキまで食べている。

 内臓の内容物や骨は田畑の肥料にし、油は田んぼの殺虫剤として使用した。ひげはからくり人形の糸に使った。犠牲になった鯨をまつるための塚や、鯨の骨を使った橋まであるが、生命を養うために犠牲になった鯨に対しての感謝である。

 幕末の京阪の冬から春にかけての塩鯨の料理は、ささがきゴボウや水菜を取り合わせた煮物であった。難波はネギの名産地であったから、これも用いている。

 鯨の生肉と水菜を煮ながら食べるハリハリ鍋が誕生するのは明治以降のことである。冷蔵技術の発達とトラックによる流通革命が可能にした。

 我が家でもハリハリ鍋をするが、鯨の生肉は血抜きが肝心だ。薄く切って沸騰した湯に入れ、表面が白くなったら即、冷水に取って冷まし、水切りして鍋でさっと煮る。水菜は霜が当たると繊維は柔らかくなり糖分が増す。鍋では葉柄(ようへい)(葉身(ようしん)と茎をつなぐ部分)だけ用いる。ほんにハリハリでっせ。葉は酢みそドレッシングかポン酢ドレッシングで生食。鯨のベーコンと合わせるとおいしい。

 神戸の長田は昔、南極海捕鯨に出ていた人が多かった。そのために正月を祝う雑煮に鯨肉が入り、祝い膳(ぜん)にまで鯨が据えられていた。これこそ日本の食文化だ。米国も捕鯨をしていたが、油だけ取って後は海に捨てた。もったいないことである。

(文・奥村彪生〈伝承料理研究家〉 写真・中田英博)


○冷凍技術でおいしく

 鯨肉を販売する「合同会社 鯨食ラボ」(東京)によると、鯨肉の生産量は1962年の22万6千トンがピーク。調査捕鯨を続けるここ20年は約1千〜5千トンで推移している。たんぱく源は他の肉に取って代わられ、米国や豪州、欧州諸国などが捕鯨に反対する中、日本政府には国民の理解を得る努力が求められる。

 大阪・千日前の鯨料理店「徳家」で初めてハリハリ鍋を食べた。冬場は連日100人前以上が出るという。

 調査捕鯨の副産物であるミンククジラの赤肉(背肉)を水菜と一緒にかつお節でとっただし汁で煮る。鯨肉は先に片栗粉を付けてゆでて、冷水でしめてある。煮ると衣にだし汁がしみ、口の中でじゅわっと広がる。シャキシャキで甘みのある水菜と相性がいい。

 おかみの大西睦子さん(65)は全国53店が加盟する「クジラ料理を伝える会」会長を務める。「学校給食で食べた世代は『臭い、硬い』のイメージがあるが、冷凍技術の発達で断然おいしくなった」

 「雪鯨橋(せつげいきょう)」という橋が大阪市東淀川区の瑞光寺境内の池に架かる。1756年に南紀から贈られた鯨の骨で造られ、06年に5回目の改修をした。住職の遠山明文さん(59)は「鯨を供養し、人間が殺生をして生きていることを自覚させるために造ったのではないか」。命をいただくことへの感謝も含めて食文化なのだろう。(吉川一樹)

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