現在位置:
  1. asahi.com
  2. 関西
  3. 関西の交通・旅
  4. 勝手に関西世界遺産
  5. 記事

勝手に関西世界遺産

登録番号197 旧明倫小のピアノ

印刷

ソーシャルブックマーク このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真修復成ったチェコ・ペトロフ社製のピアノ。表面の傷はあえて化粧直ししなかったという写真レトロな小学校の教室の雰囲気を再現した談話室のスペース=いずれも京都市中京区の京都芸術センター

 日本では、多くのコンサートホールに、新しいグランドピアノがおいてある。たいていの場合、それらはいたんでくると、さらに新しいピアノへ、買いかえられる。年代物のピアノをつくろいつつ、ずっとつかいつづけるホールは、あまりない。

 補修の手間をおっくうがることが、ひとつにはあげられよう。あと、ピアノ製作じたいの技術が、年々高くなっていることも、その一因にあげられようか。

 ひろいホールに、ゆたかではりのある音を、ひびきわたらせる。強く、そして華麗な音を、とどろかせる。こと、その点に関するかぎり、新しいピアノの方が性能はよくなっている。ホールが、新品をよろこぶのも、わからないではない。

 だが、そんな趨勢(すうせい)にしたがわないところも、いくつかある。たとえば、京都芸術センターも、そのひとつにあげられる。ここでは、90年ほど前にそなえつけたペトロフ社製のピアノを、今にいたるまでたもってきた。最近はそれで、演奏会もひらいている。

 京都芸術センターは、旧明倫小学校の校舎を転用した施設である。閉校になった小学校の建物を、てなおしして成立した。ピアノも、もともと学校においてあったそれに、ほかならない。

 場所は中京で、室町通に面している。地元の大旦那(おおだんな)たちが、1910年代にグランドピアノを寄贈した。しかも、当時はオーストリア皇帝から御用達とされていたペトロフ社の、それを。

 まだ、ほとんどの小学校が、音楽を簡単なオルガンですませていた時代である。このあたりが、かつてどれほどゆたかであったかを、しのべよう。

 ピアノは、ながらくおきざりにされてきた。だが、芸術センターの発足とともに、これもよみがえらせようという機運が、高まりだす。校舎をこわさず、再利用したのと同じように。

 修復をうけおった山本宣夫氏も、昔の音を復元させることに、注意をはらってきた。かつての卒業生たちが、なつかしく感じられる。そんな音作りを、めざしてきた。弦も、現代的な強くひびくそれは、つかっていない。ドイツの専門業者から、やや軟らかいものをとりよせている。建築の保存と同じように、楽器の音も保存することがもくろまれたということか。

 プロコフィエフやバルトークらの現代的な音には、あまりむいていない。しかし、モーツァルトらの典雅な調べは、これでもじゅうぶんあじわえる。ホールもこぢんまりしており、音がとどかないということはない。私も試弾をさせてもらったが、ピアニッシモの感触に、ちょっとうっとりしたしだいである。

(文・井上章一〈国際日本文化研究センター勤務〉 写真・伊ケ崎忍)


○音色復活 地域が後押し

 学制発布に先がけて、京都市中に明倫小学校など計64校の「番組小学校」が誕生したのは明治2(1869)年のこと。豊かな町衆の自治組織が母体だった。大きな教具も町の人々の寄贈が多く、明倫小のペトロフ社製ピアノは創立50周年記念に贈られた。日本画家中村大三郎が大正時代に描いた、振り袖姿の女性がこのピアノを弾く姿を描いたびょうぶが、京都市美術館に所蔵されている。

 同小は1993年に閉校になったが、2000年に校舎をそのまま利用して京都芸術センターとなった。アートの制作・発表拠点となったとき、古いピアノも再び注目される。地域の宝をよみがえらせようと、学区の人々、音楽愛好家らが04年に「明倫ペトロフの会」を結成。このピアノを使って同センター講堂で修復を呼びかける15回のコンサートを重ね、約250万円の募金を集めた。

 11月まで半年がかりの修復は、チェンバロ、フォルテピアノなど古楽器修復の専門家・山本宣夫さん(堺市在住)が手がけた。中村画伯のびょうぶを参考に脚や譜面台を当初の姿に戻し、「昔の音」を求めて製作と同時代の木材で響板を直した。

 派手ではないが、品良く温かな音色。昭和6年建築の校舎によく似合う。これからどんな演奏会が生まれるのか、楽しみだ。(佐藤千晴)

★関西が誇る「お宝」を紹介します。「これぞ関西の世界遺産」という有形無形のお宝の推薦をお待ちします。住所、氏名、電話番号を書き、〒530・8211朝日新聞生活文化グループ「勝手に関西世界遺産」係へ。ファクスは06・6231・9145、メールはdo-kansai@asahi.comへ。ご意見、情報などもお寄せ下さい。

PR情報
検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内