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勝手に関西世界遺産

登録番号199 「大阪で生まれた女」 

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写真「なんで東京なんかに……アホ!」=いずれの写真も大阪市内で、知人に演じてもらった写真「うち、かわいい?」

 その歌を耳にしたのは、そろそろバブルといった雰囲気が色濃く漂う東京六本木の深夜のバーであった。

 「この歌、すっごくいいのよ。あんた、わざわざ大阪から来てるんだから聴かせてあげる」

 ゲイの店主は、深夜0時を過ぎたら毎晩この曲を聴かずにはいられないと言って、1枚のシングルレコードをターンテーブルにのせた。パワフルで、そのくせ繊細な女の人の歌声が流れてきた。めちゃ、うまいッ。

 店主は、何度も何度も『大阪で生まれた女』をかけながら、家出してきてからの人生を、ぽつり、ぽつりと語り、「わかるわぁ」と、泣いた。作ったBOROもショーケンも歌っているが、私が最初に聴いたのは、クイーン・オブ・ソウルと呼ばれていた大阪在住のシンガー、大上留利子の歌だった。

 はじめての本の出版パーティーで、大上さんが『大阪で生まれた女』を歌ってくれた。その場にいらした田辺聖子さんは、「ええ歌やねえ」と言われて、後にこの歌を主旋律にした『お気に入りの孤独』を書かれている。共働きの主人公、風里は、冒頭、(なんで「東京」へついていくのが女でないといけないんだろう?)という疑問を持つ。そこから見えていく人の心の微妙なすれ違い、親しんだ人と場所と時間への慈しみと哀惜。『大阪で生まれた女』には、作家に一冊の本を書かせるほどの物語が詰め込まれている。

 それにしても、だ。♪大阪で生まれた女やさかい 東京へはようついていかん――とわざわざ、堂々と歌にできるのは、大阪人以外はいないだろう。他地方の人なら、東京は単に都会の記号になるだけだ。だが、大阪人にとっての東京は、それ以上の意味をもっている。そこには、「なんで、東京なんかに行かなあかんねん。あっちは花の都かもしれんけど、こっちは水の都」と信じ込んでいる大阪人の、大阪への偏愛と東京への対抗心がチロチロ燃えているのだ。

 それゆえ、♪大阪で生まれた女やけど あなたについてゆこうと決めた――と決心して、♪大阪で生まれた女が きょう 大阪をあとにするけど――と大阪を去っていく。だから、どれだけあんたのこと好きかわかるか。ああ、せつない、ということになる。「大阪」という言葉に有無を言わせない「大好き」が内包されて、恋と青春の思い出がきれいに織り込まれて聴く人に届く。歌う人はカタルシスに浸れる。これからも、名曲として歌い継がれていくだろう。

 私の中では、この歌はチェリッシュの『なのにあなたは京都へゆくの』と対になっている。京都は憧(あこが)れ、大阪は愛着。ああ、そうなんやなと納得する。

(文・島崎今日子〈ライター〉 写真・酒井羊一)


○弾き語り時代18番まで

 大阪で生まれた女やから、結婚しても関西に暮らしたいと思っていた――。婚活ブームの取材で会った2人の女性が言った。で?結婚して東京と栃木に住んでいるけど。

 BOROさん(54)が「大阪で生まれた女」をつくったのは30年前。大阪・北新地で弾き語りをしていた。客のリクエストにこたえて伴奏する。若いふたり連れが歌詞集をめくり、「うちらが歌える大阪の歌がないなあ」とぽつり。よし、つくったる。

 ♪大阪で生まれた女やさかい――。ぱっと浮かんだ。そこから書いた書いた、18番まで。上京した若いふたりの愛の暮らしと青春だ。「大失恋の悲しみのエネルギーで書いた」。モデルはいない。でもふられた彼女の面影が入っている。通して歌えば30分。レコードにするのに縮めた。

 当時、大阪弁は日陰の存在だった。各地でコンサートをしても、大阪弁はやめて、とくぎを刺されたこともある。自分のことばで語ろう、歌おう。そんな思いもこもる。

 かといって、ことさら東京に対抗心を燃やすわけでもないという。「関西スピリッツは世界一。もともと東京になんか負けてませんから」

 今夜もカラオケでこの歌を歌う人がいるだろう。私は東京で生まれた女。大阪で生まれる女には、こんな情感たっぷりの歌があるなんて。ちょっと、やける。(河合真美江)

★関西が誇る「お宝」を紹介します。「これぞ関西の世界遺産」という有形無形のお宝の推薦をお待ちします。住所、氏名、電話番号を書き、〒530・8211朝日新聞生活文化グループ「勝手に関西世界遺産」係へ。ファクスは06・6231・9145、メールはdo-kansai@asahi.comへ。ご意見、情報などもお寄せ下さい。

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