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【ぶぶ漬けでもどうどす?】京の本音 察しておくれやす

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写真少し酸味の利いた漬けものを添え、薄めのほうじ茶をご飯にかけてすする。シンプルでいて奥深い味だ=京都市中京区の「丸太町 十二段家」、高橋正徳撮影イラスト絵・グレゴリ青山

 京都人を語るとき、真偽はともかく、広く知られた逸話が「ぶぶ漬け」だ。ぶぶはお茶で、ぶぶ漬けは茶漬けのこと。京都人は長居しそうになった客に「ぶぶ漬けでもどうどす?」と声をかける。だが、これを真に受けてはいけない。遠回しに帰宅を促したもので、言われた客は「いや、この辺で失礼します」と帰るのが礼儀とされる。

 上方落語のネタとしても有名で、江戸時代の小拙(こばなし)本にもその原典と思われるものが残るという。でも、実際にこんなやりとりが京都であるだろうか? いわゆる都市伝説ではないか?

   ◇

 大正時代創業で、茶漬けが評判の「丸太町 十二段家」(京都市中京区)の3代目主人の秋道賢司さん(61)は「よくお客さんからも聞かれるんですが……。実際使っている人に会ったことはありません」ときっぱり。京都在住の大学3年藤井奈保子さん(22)は「この間、テレビで紹介されているのを見て初めて知った」と言い、創業300年の香老舗(しにせ)「松栄堂」(同)の畑正高社長(55)は「京都の人はよく茶漬けを食べるから、大阪の人が風刺して、落語のネタとして創(つく)ったのでは」。

 だが、京都出身で京ことばに詳しい関西外国語大名誉教授の堀井令以知(れいいち)さん(84)は、文久元(1861)年生まれの祖母があいさつとして使っていたのを記憶しているという。「確たる史料、文献は見たことがないが、江戸から明治ごろには日常的に使われたと推測されます」

 でもどうして茶漬け? 「京ことばを残す会」助言者の木村恭造さん(76)は「茶漬けは簡単で安易な料理の代名詞。『おもてなししない』、つまり『はよ帰れ』という意味につながったのではないか」と言う。

   ◇

 こんな珍説にも出合った。「ぶぶ漬け伝説の謎 裏京都ミステリー」(光文社)。秀吉の刀狩りの後、町衆にとっての武器は毒。いかに相手に気づかれず、一気に毒を飲ませるか。目を付けられたのが、ささっと食べる茶漬けだったという。著者の北森鴻さん(48)は「京都ではよそさんが出す茶漬けを簡単に口にしてはいけません、という教訓が込められていた! あくまで推理ですが」。

 とにかく勧められても茶漬けを食べちゃいけないのねと思っていたら、「ぶぶ漬けを食べない男には娘をやるな」という逆のことわざもあるとか。

 えー、そんな! 京都の観光地や文化などを紹介するサイト「e―KYOTO」の担当者は「食べてほしいのか違うのか、洗練された大人なら雰囲気で察知しなさいということ」とさらり。千年の古都の奥深さに戸惑うばかりです……。(山田理恵)

■推薦

服飾評論家 市田ひろみさん

角立てぬ文化の集大成

 1993年、サントリーの緑茶のCMに出ることになった時、監督から「これを何回も聞いておいてください」と1本のテープを渡されました。それが、桂米朝師匠の落語「京の茶漬」でした。なぜか? 答えは、CMの内容にありました。

 私は玄関先で、お客を「今、おいしいお茶入れますさかいに。新幹線? そんなの待たしておいたらよろしいがな」と引きとめます。でも、私の横には「はよ帰って」という意味を込めて、座敷ぼうきが逆さに立ててありました。本音と建前をユーモアで表現した、この京風のCMは大ヒットしました。

 京都は東京のような拡大していく都市と違い、小さな盆地の中で、敵を作らないように生きてきたんですよ。いったんケンカしたら、孫の代まで続く。だから「柳に風」というか、角を立てないファジーなやりとりが見事に完成している。京都の文化の集大成が、この「ぶぶ漬け」のエピソードです。

 でも誤解しないでください。京の人は、本当に客を招くとき、こまやかな心遣いで行き届いたおもてなしをしますから。

 〈略歴〉 32年生まれ。京都府立大女子短大部卒業後、俳優など経て、美容室社長。「京遊学舎」主宰。

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