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ますます勝手に関西遺産

【こぼれ梅】しとやかに舌上の花

2011年1月19日

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写真:商店街には駄菓子や甘酒のもとなど様々な商品が並ぶ。中でも名物はこぼれ梅だ。1袋300〜500円ほどで売られている=兵庫県宝塚市清荒神の「冨久屋」、中里友紀撮影商店街には駄菓子や甘酒のもとなど様々な商品が並ぶ。中でも名物はこぼれ梅だ。1袋300〜500円ほどで売られている=兵庫県宝塚市清荒神の「冨久屋」、中里友紀撮影

イラスト:絵・グレゴリ青山拡大絵・グレゴリ青山

イラスト:高田郁さん高田郁さん

 庭の雀(すずめ)にえさをまき、南京豆をまくらに寝込んだところを捕まえようと――。

 ご記憶の方も多いはず。そう、故・桂枝雀師匠の十八番(おはこ)、上方落語の「鷺(さぎ)とり」だ。でもこのえさが何かと聞かれると……。はて?

 それが今回の主役、「こぼれ梅」である。

 といっても、梅そのものはこれっぽっちも関係ない。実はこれ、みりんを造るときのしぼりかす。ほろほろした様子が、梅の花が咲きこぼれるさまに似ているから名付けられたとか。

 関西では昔から、神社の参道や商店街でおやつとして売られていたらしい。そのまま口に入れるだけ。上品な甘さが広がる。

 清荒神(兵庫県宝塚市)の参道には今も商う店が多い。その一つ佃煮(つくだに)屋「さん志ょうや本家」で生まれ育った中西和子さん(76)は「火鉢を囲んでつまんだもの」と振り返る。「昔は甘いもんなんて少ないでしょ。おいしくって」

 こぼれ梅に残るアルコール分と火鉢に、娘さんがぽっとほおを染めて……。と、横から3代目の根津隆史社長(45)。「まいても雀は来ませんでしたけどね」

 って、社長、やってみはったんですか、「鷺とり」!?

 「小学生ぐらいやったかなあ。ほんまにとれるんかなと思って」

 そんな社長曰(いわ)く、戦前から店で売っていたらしい。「初代の姉が伊丹の造り酒屋と結婚して、そこのみりんかすだったようです」

 清酒発祥の地とも言われる兵庫県伊丹市。「白雪」を造り続ける小西酒造の子会社、白雪食品のこぼれ梅にも「伊丹名物」とある。

 実は1910(明治43)年に商標登録しているとのこと。えっ、一般的な食品名じゃないの? 「呼び名か商標か、どっちが先かはよくわからない」(同社)。ただ、みりん造りはもうやめており、他社のみりんかすを使っているそうだ。「伊丹にはもう、みりんを造っているところはないと思う」

 神戸市東灘区に今もこぼれ梅を造る会社が見つかった。高嶋酒類食品の工場にはこの季節、蒸したもち米に焼酎と米こうじを仕込んだタンクが並ぶ。約3カ月寝かせて木製の器具でみりんをしぼり、残ったかすがこぼれ梅だ。昔ながらの手作業。機械を使ってしぼり切るやり方ではかすに味がほとんど残らず、食べられないそうだ。

 ってことは、今じゃけっこう贅沢(ぜいたく)品かも!? 「いやあ、今はおいしいものがたくさんあるから。年配のお客さんが多いですし、若い人はあまり知らないでしょう」と高嶋郁夫常務(65)。失われつつある味ってことか……。その出しゃばらない甘さが、ちょっといとおしくなりました。(石村裕輔)

    ◇

 ■推薦

 兵庫県在住の作家 高田郁(かおる)さん

 なんというネーミングセンス

 すごいネーミングですよね。しぼりかすにこんな雅(みやび)な名前を付けるなんて。清荒神で両親がよく買ってきたので子どものころからお茶うけに食べてましたが、食べ物を粗末にしないというポリシーに遊び心が加算され、関西人の心意気を感じさせます。私の時代小説「みをつくし料理帖(ちょう)」シリーズにも、大阪出身の幼なじみが江戸で再会する際の重要な小道具として登場してもらいました。今はスイーツが氾濫(はんらん)してますが、この素朴な味わいは負けてません。おいしいって、思い出もあわせて味わってると思いますから。

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