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ますます勝手に関西遺産

【東洋民俗博物館】ウフフ わしゃピンクや

2012年2月9日

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写真:「性」にまつわる珍奇なものが並ぶ館内。奥は四男の九十九弓彦さん=奈良市、池田良撮影拡大「性」にまつわる珍奇なものが並ぶ館内。奥は四男の九十九弓彦さん=奈良市、池田良撮影

写真:「離婚祈願」の絵馬拡大「離婚祈願」の絵馬

写真:99歳の頃の九十九黄人さん(1894〜1998)=東洋民俗博物館提供拡大99歳の頃の九十九黄人さん(1894〜1998)=東洋民俗博物館提供

イラスト:絵・グレゴリ青山拡大絵・グレゴリ青山

写真:藤野滋さん拡大藤野滋さん

 奈良市のあやめ池。そのほとりに「東洋民俗博物館」はぽつんと立っている。1928年、旧あやめ池遊園地の一施設として開館した古めかしい洋館だ。その後独立し、遊園地なき今も続いている。

 中を埋めるのは、個性強烈な初代館長、故・九十九黄人(つくもおうじん)(本名・豊勝)さんのコレクション。

 アジア各地の仏像や南洋の石の貨幣、中国の纏足(てんそく)の靴、離婚成就や性病治癒の願掛けをした絵馬、果てはペルーの男性ミイラの大事な部分まで。珍品奇品のオンパレードだ。

 早大生だった20世紀初頭、人類学者フレデリック・スタールの通訳として各地を歩いた。日本のお札やアイヌ研究で有名な米国人学者との行脚が、民俗学への関心と生来の収集癖を加速。ポスターから箸袋まで、切手と刀剣以外は何でも集めた。研究者も驚く中国の版画もある。

 博物館に、一見さんお断りの秘密の部屋がある。その名も「森羅万象窟(しんらばんしょうくつ)」。民俗学の中でも、とりわけ性崇拝に関心が高かった九十九さんがセレクトした、良い子はダメよの性関連グッズ……失敬、研究資料がどっさり。春画の浮世絵や、各地の女性に協力を得た体毛コレクションなどが棚を埋める。

 が、どぎつい情報がネットで飛び交う現代からすれば可愛いもんだ。

 そもそもお色気系グッズは、大正時代の好事家のれっきとした収集の一分野だった。何ともデモクラシーの時代を感じさせる話ではないか。

 ところが昭和に入り戦時色が濃くなると、好事家の多くは世間を恐れ、この手の収集品を処分した。そのまま持ち続けた九十九さんは、警察に引っ張られたことも。

 でも、留置場で会った左翼の男性に「お前アカか。わしゃピンクや」と相手も脱力のユーモア精神で切り抜けた。

 そのエロチック路線は、戦後の解放感でますますお盛んに。粗悪印刷のエロ本「カストリ雑誌」なぞを集めに集め、プチ秘宝館状態に。

 さらに齢(よわい)100に近づいた90年代はテレビにしばしば登場し、「きんさんぎんさんより宮沢りえがタイプやわ」とお茶の間をのけぞらせた。その九十九さんも、98年に筆談で「good bye」と書き残し、103歳の大往生を遂げた。

 推定数万点の資料は、四男の弓彦さん(67)が今も整理中。荒れ放題の館内を片づけ、ジャングル状態の裏庭で草を刈ったら、九十九さん手製の「大魔羅(おおまら)神社」なる祠(ほこら)が出てきてズッコケた。反面教師だったが、マイウエーを貫いた生き方は誇りでもある。父よあなたはスゴかった。

 虎は死して皮を残す。九十九さんが残したのは、性……いや、生を満喫した検証不能な伝説の数々。何だか元気が出ちゃう、親子愛が支える博物館でした。(神田剛)

     ◇

メモ 東洋民俗博物館(0742・51・3618)は奈良市あやめ池北1の5の26。近鉄菖蒲池(あやめいけ)駅北口から徒歩約7分。開館日要確認。500円。

     ◇

■推薦

滋賀県在住の郷土玩具研究家・藤野滋さん(55)

まさにタイムカプセル

 九十九さんは大正時代、日本最大の趣味人グループ「我楽他宗(がらくたしゅう)」の一員。没後、未整理の資料も多く、昔の映画ポスターが集めた順番に残っていました。まさに当時の高等遊民のタイムカプセルです。「異端居士」や「万国性改善同盟日本代表」「英連邦軍司令部顧問」など名刺の肩書の変遷も興味深いし、恩師スタールの銅像が供出を免れるなど、戦時中の逆風を乗り切るしたたかさにも驚きです。

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