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ますます勝手に関西遺産

【マンボウトンネル】頭を下げて 腰を低〜く

2012年3月29日

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写真:腰をかがめないと入れない甲子園口マンボウ。上をJRの電車が通る=兵庫県西宮市、池田良撮影拡大腰をかがめないと入れない甲子園口マンボウ。上をJRの電車が通る=兵庫県西宮市、池田良撮影

写真:大人は腰をかがめないと入れないほど小さな甲子園口マンボウ。子どもは楽しそうに走っていた=兵庫県西宮市、池田良撮影拡大大人は腰をかがめないと入れないほど小さな甲子園口マンボウ。子どもは楽しそうに走っていた=兵庫県西宮市、池田良撮影

写真:「お先でーす」「いいえ」とあいさつ。甲子園口マンボウは自転車を押して、頭も下げて=兵庫県西宮市、池田良撮影拡大「お先でーす」「いいえ」とあいさつ。甲子園口マンボウは自転車を押して、頭も下げて=兵庫県西宮市、池田良撮影

地図:  拡大  

写真:絵・グレゴリ青山拡大絵・グレゴリ青山

写真:河内厚郎さん拡大河内厚郎さん

 「菜奈ちゃん、頭下げて!」

 兵庫県西宮市の主婦松本慶子さんは、向こう側から人が来ないことを確かめると、自転車の後部座席の長女(5)に声をかけて、甲子園口の「マンボウ」をくぐった。

 海で泳ぐ魚のことではない。JR神戸線の線路下にある、歩行者用の小さなトンネルだ。

 高さ1.3メートル、幅約1.5メートル。天井はアーチ形。手すりもあるが、すれ違うのは難しく、自転車は押して通る。長さ20メートル強。急ぎ足だと20〜30秒で通り抜けられる。

 元は、用水路だった。1874年開業の大阪―神戸間の鉄道は、田園地帯を一直線に突っ切るため、盛り土の上に線路が敷設された。その下をくぐる水路として作られた。後の宅地化で水田がなくなると水路はふたをされ、歩行者用に変身した。今では地域に欠かせない存在だ。

 西宮市内のJR神戸線には、他にも平松町、大谷道の2カ所にマンボウがある。甲子園口はその中で一番小さく、南側出口前に3歳の頃から住んでいる植田直美さん(61)は「小さいトンネルって呼んでます。昔は水が勢いよく流れてました」。

 悲劇も目撃した。出てくる人が早めに頭を上げて出口の天井に痛打。血だらけになり、救急車を呼んだことも数回ある。反対側から先客が来ることを確かめないで突っ込むと、途中引き返すはめに。出てきた人は「お先に」と一声掛けるのが暗黙のルールだ。

 一方、文豪・谷崎潤一郎の小説「細雪」に登場するのが平松町マンボウだ。「奥畑は、その山側の停留場のうしろの方のマンボウから出て来て、国道を北から南へ横切って……」などと、数回登場する。

 れんが造りで内部はやはりアーチ形。長さ22メートル、高さ約1.7メートル。かがむほどではないが、頭をぶつけそうだ。入り口に「キケン 自転車・単車は危ないので 押して通行してください」との看板がある。

 大谷道マンボウは、芦屋市との市境にある。県歴史文化遺産活用推進員の藤井成計(なりかず)さん(64)は「道路から掘り下げて造られていて、昔は水路だったことが実感できます。れんが積みのアーチ部分が『ねじりまんぼ』という独特の工法で、この工法の日本最古のものらしいです」。

 なぜ「マンボウ」なのか。「細雪」で谷崎は、「和蘭陀(おらんだ)語のマンプウから出た」「ガードというよりは小さい穴のような、人が辛うじて立って歩けるくらいな隧道(ずいどう)……」と解説する。小さなトンネルを「マンボー」「マンボリ」「マンブ」などと呼ぶ地域は三重や静岡など、全国にある。どうやら坑道、炭坑の穴などを意味する日本語の「間府(まぶ)」が語源というのが真説らしい。

 では、もう一度くぐってみようかな。(大脇和明)

    ◇

■推薦

阪神間文学に詳しい評論家 河内厚郎さん(59)

風景もがらりと変わる

 西宮市が地元なので、「細雪」のマンボウをよく通ります。市民は日常感覚で使ってますね。通路は板張りで、下を流れる水音がかすかに聞こえて、夏はちょっと涼しい。

 阪神沿線から阪急沿線にピュッって感じで抜けられるからすごく便利。マンボウを抜けると、旧市街地から山の手に風景ががらりと変わるんです。阪神大震災でも壊れずに残ったことがすごいですよね。

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