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ますます勝手に関西遺産

【アップル】愛ほんわか 下町の味

2012年5月7日

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写真:薄い黄色の「アップル」。いまどき珍しい透明のガラス瓶に入っている=滝沢美穂子撮影拡大薄い黄色の「アップル」。いまどき珍しい透明のガラス瓶に入っている=滝沢美穂子撮影

写真:絵・グレゴリ青山拡大絵・グレゴリ青山

写真:清水りょうこさん拡大清水りょうこさん

 「アップル」と聞くと、普通なら世界的な企業を連想しそうだ。ところが、神戸の下町っ子はジュースを思い浮かべる、らしい。

 神戸市兵庫区の駄菓子屋「淡路屋」で、アップルは「定番」だった。近所のおばあちゃんも、学校帰りの小学生も買いに来る。

 180ミリリットル、120円。いまどき珍しい透明のガラス瓶。ものすご〜く薄い黄色で、瓶を握る指が透けて見える。間違いなく、着色料のなせる技だ。ラベルすら貼っていないから、何となく怪しい。味も微妙だろうな……。

 心の声が聞こえたのか、店主の伊藤由紀さん(42)が売り込んでくる。「ここらの下町では、み〜んな飲んで育ってますよ」。関西に来てまだ半年。これも勉強か。グビッと勢いをつけて流し込んだ。

 あれ? 甘すぎず、意外とイケる。でも、リンゴ味じゃない。何味か、と聞かれても答えに詰まる。強いて言うなら、ミカンっぽいような……。なら、何でアップル?

 唯一の製造元、兵庫鉱泉所(神戸市長田区)の代表、秋田健次さん(55)でさえ、首をひねる。

 「神戸の人は横文字が好きやから、言い換えたんやないですかね」

 戦後間もないころ、「みかん水」というジュースが親しまれた。中身はそれと同じなのだそうだ。水に砂糖、着色料、香料、酸味料を加えたもの。もちろん、無果汁。名前の由来は謎のままだ。

 昭和っぽい材料から分かる通り、歴史は古い。1950年代に兵庫区の清涼飲料水の製造業者の家に嫁いだ上田安子さん(73)がひもといてくれた。

 戦後間もない頃、長田、兵庫両区にはラムネやサイダーを作る零細業者が集まっていた。1950年代半ばにはアップルもあったという。だが、「元祖」は不明。どこかのオリジナル商品というわけではなく、それぞれに作り、発売していたようだ。しかし、大手のつくるコカ・コーラなどの清涼飲料に押され、地元業者の廃業が相次いだ。

 とどめを刺したのが、阪神大震災だった。マイナーな飲料水を置いてくれた銭湯やお好み焼き屋が軒並みつぶれたのだ。上田さんの工場も2006年に休業。唯一、生き残ったのが兵庫鉱泉所だった。

 瓶を回収して洗い、詰め直して出荷するスタイルは昔のまま。回収に手間が掛かるので通販はしない。阪神大震災後も年15万本の出荷量をキープしており、根強い人気を誇る。謎の残るアップルだが、地元に愛されているのは確かなようだ。(久永隆一)

    ◇

メモ 瓶は洗って大事に再利用。中には「30年選手」もいる。廃業した同業者から譲ってもらった瓶には、「キング」「ジョニー」などと印字してあったりする。それでも中身は正真正銘のアップルなので、どうぞご安心を。

    ◇

■推薦

清涼飲料水評論家 清水りょうこさん(47)

勢いで名づけたのでは

 戦後間もないころは「安くて甘いものを」が庶民のニーズだった。そこで「みかん水」が全国各地でつくられ、駄菓子屋さんなどで売られた。製造業者からすると、ラムネのように炭酸を入れる手間がかからないから、つくりやすい商品でもあった。アップルもそうして生まれたのだろう。今でも地元に愛されているのはステキですね。名の由来? とくだん深い理由もなく、勢いでつけたのでは。

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