キッツイ世の中 パッと明るく
飴(あめ)を投げる、川に入る、酒を飲む、坂を転げ落ちる。見ている人も笑い顔
彼岸花が咲く田んぼを眺めながら山間の道を行くと、遠くから祭り囃子(ばやし)の音が聞こえてくる。何かと思ってさらに進むと、「バカ殿様」もびっくりの白塗りメークに、赤ずきんをかぶった男性が、鈴を振りながら叫んでいた。
「世は楽じゃ」
「家(永)は楽じゃ」
「笑え笑え」
「わははははは」
(※2007年)10月7日に和歌山県日高川町で開かれた「笑い祭」は、江戸時代から続く丹生(にゅう)神社の例祭だ。神様たちの会合に遅れた氏神様を、笑いで慰めたという伝承にちなみ、県無形民俗文化財に指定されている。
白塗りメークの「鈴振り」を先頭に、みこしの担ぎ手や神職など一行は50人。午前11時に御旅所を出発し、500メートル以上離れた丹生神社へ、列を作って練り歩く。
観光客がぞろぞろと鈴振りの後を追いかけて移動する様子は、さながら大人版「ハーメルンの笛吹き男」だ。人口約1万2千人の町に、今年は約3千人の観光客の笑い声がこだました。
「鈴振り」を務めるのは町役場臨時職員の吉田勇さん(60)。20年前から、この役を務めている。「なぜ私かって? 顔が丸くて、えびすさんみたいだからでしょう」とニコニコ。
この「笑い祭」、最近は町おこしにも一役買っている。暗い世相を初笑いで吹き飛ばそうと、06年正月に特別に開催したところ、京阪神から約2万人が詰めかけた。以来、秋の祭礼だけでなく正月のイベントにもなった。
人気を受けて、観光協会や地元商工会、和歌山高専(御坊市)が協力して、「鈴振りロボット」の製作も進めている。費用は約200万円。大きさは約1.2メートルで、センサーで動く。来年正月の同神社での「初もうで初笑い」でお披露目する。
「厳しい時代だからこそ、こうした祭りがうける。笑いの力で世の中を明るくできると全国に伝えたい」と同町産業振興課の井原優作さん(30)は話す。
笑いに関する神事は、全国的にみても数多い。山口県防府市の「笑い講」は、サカキを手にした男2人が1組で、3度大笑いする。名古屋市の熱田神宮には1300年ほど前から、神職らが声高らかに笑う「酔笑人(えようど)神事」(別名・オホホ祭)が伝わっている。
日本笑い学会副会長の木村洋二・関西大教授(社会学)は、笑うことによって存在していた力があふれ出すことから、笑いは神のもう一つの姿だと考える。「古代日本人は、笑いがフリーズしたファイルを再起動できると知っていたのだろう。笑いはトランプのジョーカーと同じで、すべてに勝てる切り札だ。笑いをいかに賢く有効に使うかは、今後の文明の課題です」と話す。