街を見渡す「竹の子の塔」
バベルの塔を思わせる木津南配水池。モチーフは地元名産のタケノコだった
京都と奈良の府県境、街道沿いの丘陵に、巨大な茶色の筒が屹立(きつりつ)している。遠目には新手のラブホテル、近づけば欧州の古城かバベルの塔か。その正体は木津南配水池だった。
高さ47.1メートルの個性的なデザインは、地元の特産品タケノコに想を得ている。関西文化学術研究都市の一角を占める京都府木津川市にあり、木津南地区のニュータウンに水道水を送るため、99年に完成した。
外壁に巻き付く螺旋(らせん)階段を上ると、視界が突然開ける。底部の屋上にある花咲く庭園だ。壁の小窓から学研都市を望めば、「おお、ロミオ、ロミオ! なぜあなたはロミオなの?」と、戯曲の一節でもつぶやきたくなる。さらに上ると突端は展望室で、ここからは東大寺大仏殿も指呼の内。またとない市民の憩いの場だが、衛生管理やテロ対策のため、一般公開は2年に1度、6月の水道週間の時だけ。ただ、地域の学校から遠足などの申し込みがあれば、臨時に開放することもある。
計画の段階では、塔はタケノコの皮そのもののこげ茶色だった。「古都奈良市に隣接する高層建築なので、周囲の自然にとけ込む今の色に変えたのです」と、当時建設を担当した原功・市下水道課長補佐は語る。
同じ頃、隣の精華町にも新しい「華の塔」配水池ができた。こちらは建築家高松伸さんの設計で、赤色と黄色に塗られた筒をガラス張りの建物で囲った斬新な意匠。片や古城、片やモダンという配水池が、建築物の景観を審議する府の会合で同時に議論された。「同じ配水池でこうも違うもんかねえ」。委員のどよめきが原さんの耳に残る。
木津南配水池は、フランスの航空写真家ヤン・アルテュスベルトラン氏の写真集『かけがえのない地球 365日空の旅』(ピエ・ブックス)にも登場する。自然や人々の営みを空撮した365枚に日付を割り当て、環境破壊への危機感をにじませたエッセーと組み合わせた。塔は2月20日にお目見えする。エッセーは配水池の簡単な説明をのぞけばタケノコの話ばかり。撮影対象になったのも、タケノコに似ているからと思われる。
ふもとから塔を見上げたら、花びらの幻を見た気がした。なぜだろう。ああ、有元利夫の絵画『花降る日』を思い出したのだ。似たような螺旋の塔をのぼっていく女性に、花びらが降り注ぐ構図だった。大地に根を張った配水池は、有元の絵に通じるぬくもりを湛(たた)え、静かに街を見下ろしている。