愛と笑いの公然ワイセツ祭
だれ彼構わず手当たり次第たたきまくる天狗。カメラマンもしばかれた!
古代日本の都として有名な奈良県明日香村。その村に「日本一の奇祭」ともいわれる祭りがあるという。それも、かなり色っぽいのだとか。がぜん興味がわいてくる。全国的に大雪となった2月3日、飛鳥の里を訪ねた。
この祭りは「おんだ祭(まつり)」と呼ばれ、飛鳥寺の東にある飛鳥坐(あすかにいます)神社で毎年2月第1日曜に開かれる。正式な名前は「御田植神事」。田植えの様子を演じて豊作を願う儀式で、奈良県内でも各地に伝わっている。ところが、飛鳥のおんだ祭ではどういうわけか「夫婦和合」まで演じられる。その由来は記録が残っていないので不明だが、奇妙な祭りとして様々なメディアで取り上げられ、今では毎年、数千人が訪れるという。
午前10時に神社に着くと、すでに拝殿の前では大阪から来た若い男女のグループが待っている。そこへ、本殿の方から下りてきた天狗(てんぐ)と翁(おきな)の面をつけたはっぴ姿の男性二人。先をささらに割った青竹で、いきなりこの男女の尻をたたき始めた。「バシッ」という乾いた音と「いってー」「いやぁー」という悲鳴が境内に響きわたった。
天狗と翁がプロレスの悪役コンビのように、竹で地面をバシバシたたきながら神社の階段を下っていくと、参道の周りに集まった人たちから歓声が上がる。たたかれて悲鳴をあげる様子に、お互いが大笑い。この「尻たたき」には厄払いの意味があるというが、かなり痛い。
神事が始まる午後2時、境内は身動きできないほど人で埋まった。拝殿では儀式の後、ウシの面の男性が四つんばいになってすきを引く、田づくりの場面が始まった。怠け者のウシとせっかちな翁のかけあいが観客の笑いを誘う。その後に宮司がもみをまき、苗に見立てた松葉を並べていく。
続いて、観客お待ちかねの「夫婦和合の儀式」だ。翁に先導され、天狗がお多福の面を着けた「嫁」をつれて登場。ごつい男性が演じるお多福が、恥ずかしそうにしなを作る様子に、爆笑が起きる。
天狗が床にお多福を寝かせ、すそを割って上に覆いかぶさる。仲人役の翁は天狗の後ろへ回り、勢いをつけて二人の「和合」を手助け。無事、営みが終わると、天狗は懐から出した紙で股間をふいた。この「ふくの紙」は子宝に恵まれるご利益があるという。翁が紙をまくと、それまで腹を抱えていた観客らが、歓声をあげて飛びついた。
大阪大学の川村邦光教授(宗教社会学)によると、こうしておおらかに性行為を演じる祭りは各地にあったが、明治時代以降は「ワイセツだ」とされて姿を消してしまったという。「性行為を公然と見せることで笑いが起きるが、笑いには日常を変える力がある。生命を生み出す行為の力を笑いによって高め、五穀豊穣(ごこくほうじょう)と子孫繁栄を祈ったのでしょう」と説明してくれた。
古い民俗信仰の姿をうかがうことができる飛鳥のおんだ祭。これもまた「日本の原風景」なのだ。