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魅知との遭遇

(42)西本願寺の飛雲閣 京都市下京区

なまめかしき秘宝の色香

[新聞掲載]2008年04月18日

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写真飛雲閣「舟入りの間」。庭の鐘楼と木立が池に映る

 障子から光が差し込む畳の広間。床板の引き戸を開けると、鏡のような水面がぽっかりと顔を出した。西本願寺(京都市下京区)にある楼閣建築、国宝・飛雲閣の「舟入りの間」だ。床下に池の水が引き込まれ、かつては舟で中に入る玄関の役割を果たしていた。

 17世紀に建てられたという飛雲閣は、外から眺めると、実に不思議な形をしている。豊臣秀吉が造った聚楽第(じゅらくだい)の遺構という説もあるが、定かではない。角度によって、力強くも、繊細にも見える。

 1階に比べて、2階、3階は極端に小さく、左に寄っている。「上段の間」の上に、人が立つのを防いだといわれている。「舟入りの間」の東に茶室がある。2階は扉や杉戸に36枚の歌仙図が描かれた「歌仙の間」。3階は「摘星楼(てきせいろう)」と呼ばれる展望部屋だ。

 大きな特徴は、壁が少なく、障子が多用されていることだ。柱も細い。

 「風に飛ぶ雲のように軽やかだが、地震で倒壊したという記録はない。他の西本願寺の建物と同様、実務面を重視し、丈夫に造られている」と、龍谷大文学部の岡村喜史(よしじ)准教授(国史学)は話す。

 この障子は、宗教的な効果をもたらす。「西側の上段の間に門主が座っても、逆光で顔がよく見えない。夕方だと、後光が差しているように見えるでしょう」と岡村准教授。

 障子を開けると、鮮やかな庭園の風景が目に飛び込む。まるで障壁画のような美しさだ。

 金閣、銀閣と並び、京都の三名閣と呼ばれる飛雲閣。だが、宗祖・親鸞の誕生を祝う「降誕会」の時、1階に茶席が設けられる以外は、ほとんど公開されない。西本願寺の建物の中ではプライベート色が強い存在だ。西に向かって廊下が延び、その先に浴室を設けた重要文化財「黄鶴台(おうかくだい)」がある。

 この飛雲閣にほれこみ、1年間、通いつめた写真家がいる。『人妻エロス』などの作品で知られる荒木経惟さんだ。05年に写真集『飛雲閣ものがたり』(本願寺出版社)を出した。

 秋の澄みきった月や紅葉、冬の雪化粧。雨上がりの苔(こけ)の鮮やかさ。季節ごとに表情を変える飛雲閣に魅せられ、シャッターを切り続けた。そして、何やら、愛の空間と共通するなまめかしさを感じたのだという。

 「お寺だけあって、死のにおいもするけど、エロスが充満していた。金閣にはエロスを感じないし、銀閣だと枯れちまうけど、飛雲閣って、何かエッチなんだよ。外から見ると、直線と曲線の調和が見事で、両性具有っていうのかな。建物自体が交合している感じがするよ」

 美の中に、天才アラーキーを虜(とりこ)にする色香が潜む。まさに国宝にして秘宝というべきか。

 折しも、広島県立美術館では本願寺展が開催中だ。障壁画や典籍類など、国宝5件、重要文化財27件を含む約150件が公開される。あなたも、虜になるような「お宝」に会えるかもしれない。

(文・田中 京子 写真・矢木 隆晴)

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