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魅知との遭遇

(55)山王悪魔払 金沢市

このまさかりに、かける夏。

[新聞掲載]2008年08月01日

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写真まさかりを手にした翁が町を練り歩く。観光客の姿はない写真天狗、般若、翁の高校生3人

 黒衣の神父が聖水と十字架をかざし、少女にとりついた悪魔と対決する――という訳ではない。

 「悪魔払(ばらい)」は、金沢市西部に伝わる伝統芸能だ。悪魔とは邪気のこと。加賀藩政時代に修験者が行っていた厄よけが、芸能化して広まったらしい。地元の人は「あくまんばらい」と発音する。別名「弥彦婆(やひこばば)」というが、なぜそう呼ばれるかは定かではない。

 中でも、1961年に金沢市の無形民俗文化財に指定されているのが「山王悪魔払」だ。金沢港にほど近い大野町の日吉神社で、7月の第4土曜と翌日の日曜の例大祭「山王祭」の中で演じられる。初日は約600軒の家々を回って邪気を払い、2日目は神輿(みこし)行列で町を練る。今年の祭りは26、27の両日、行われた。

 まず先達の「坊さん」が、錫杖(しゃくじょう)を振りながら、経文を唱えつつ進む。メーンは面をつけた3人の舞い手。それぞれ白い布で頭を包み、天狗(てんぐ)の面をつけた舞い手は刀、般若の面は弓矢、翁はまさかりをそれぞれ持つ。天狗は青年、般若は壮年を意味するという。ほら貝の音を合図に、笛や太鼓に合わせて柏手(かしわで)を打ち、すり足で左右に動き、それぞれの持ち物を振りかざす。

 一見、3人とも同じしぐさを繰り返しているように見えるが、「まず邪気をはらってから退治する、というように意味がある」と山王悪魔払保存会の新田明弘会長(60)が教えてくれた。翁役の黒田岬さん(18)は「老人なので動きがゆったりするよう気をつけています」という。

 一帯は江戸時代からしょうゆやみその醸造が盛んで、今もしょうゆ蔵が立ち並ぶ。そんな町の道路の真ん中で舞いは繰り広げられ、通りがかった自動車がしばしば足止めを食らう。家々の人は拍手でねぎらうが、幼児は怖がって泣き、犬はほえる。

 悪魔払は従来、17歳の男性が担ってきた。だが、少子化のため近年は人材不足で、年齢が前後してもよくなった。笛を担当したのは、黒い法衣姿がミニワンピース風の女子高生たち。また今年は般若役として、中村文菜さん(17)が「かっこいいから」と志願し、初の女性の舞い手となった。

 町の小学校では毎年、5年生が6年生になる際、悪魔払を近所の人や先輩に習う。高校生となると、祭りの2週間前から練習に入る。練習や祭りを仕切っているのは、舞い手や囃子(はやし)方を卒業した若者たち。新田会長もかつては舞い手の一人だった。少子化でちょっぴり変化はあるが、町全体で代々、支えている芸能なのだ。

 いわば町の人のDNAに組み込まれている悪魔払。今年号泣した子どもたちも将来、立派な舞い手になるに違いない。

(文・角谷陽子 写真・大野明)

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