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魅知との遭遇

(61)劇団「維新派」特設劇場 滋賀県長浜市

漂泊の舞台 つかの間の異次元

[新聞掲載]2008年09月26日

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写真夕暮れが迫り、水上舞台は影絵になった

 琵琶湖の東岸にポーランドの街が漂着した。比良山地に沈む間際の西日を浴びて、建物の黒々としたシルエットが浮かび上がる。ドイツと旧ソ連の狭間(はざま)で、ヒトラーとスターリンの思惑に翻弄(ほんろう)された小国の苦難が、かいま見える。

 時空がゆがんだのか。

 約400万年という歳月がたゆたい、野分きに波立つ雄大な湖とは全く異質なこの光景は、演劇の舞台なのである。

 「湖面を見たとき、抽象的で宇宙的な広がりを持つ真っ白のキャンバスのように感じた。異なるものを結びつけることにこそ演劇の可能性をみたい」

 関西を拠点とする劇団「維新派」の主宰者で、舞台の作、演出を担う松本雄吉さん(61)は語る。

 維新派は、その作品の根幹を成す「漂流」というキーワードとともに世界を旅し続ける。大阪、オーストラリア、ドイツ、イタリア、奈良、岡山、東京、メキシコ、ブラジル……。そして今秋、琵琶湖に流れ着いた。

 10月2〜13日、滋賀県長浜市のさいかち浜特設劇場で上演する新作「呼吸機械」は、昨年から取り組む「〈彼〉と旅をする20世紀3部作」の第2弾だ。第1弾「ノスタルジア」では着慣れぬ洋服を身にまといブラジルに渡った日本人移民を描いた。今作の舞台は1940〜50年代の東欧。ユダヤ人の戦争孤児に聖書のカインとアベルの物語を重ね、第2次世界大戦やホロコーストに迫る。

 重い歴史を扱いながら、野外劇のスペクタクル性も忘れない。更地に自らの手で祝祭空間を忽然(こつぜん)と現出させ、公演を終えるとくぎ一本残さずに消える。刹那(せつな)性こそ維新派の真骨頂だから。

 現地に約300トンもの資材を持ち込んだ。劇団員らは8月下旬から合宿し、けいこの傍ら、湖岸に映画のセットのような巨大な舞台装置を作り、鉄パイプで約560人収容の客席を組み上げた。ポーランドの街並みのほかに実物大のナチスの機関車や戦車、謎めいた機械、寝そべった巨人、お月様が無造作に置かれ、本番を待つ。

 なぜ、野外劇なのか。

 「既存の劇場は結局、設計した建築家の個性を反映した作品だ。他人の個性が支配する空間で作品を作ることには生理的な違和感がある」と松本さんは説明する。そして、「何より自分らで作っている手応えにあふれている」と続けた。

 劇世界と湖という次元の異なる事象を結びつけるのが、水上舞台という仕掛け。舞台の床面は1.5度の傾斜で緩やかに湖に向かって下り、奥の方は急傾斜で湖の中へ滑り込む。水没した先も数メートル舞台がある。その辺りに俳優が立つと、観客席からは湖面に立つように映る。

 本番では、佳境にさしかかったころに観客席の後方から本物の月が昇ってくる。漆黒に塗られた湖面と、戦争の世紀と言われる20世紀の歴史の一片が繰り広げられている舞台を照らし出す。

 きっとそこに、劇場にいる者だけが見られる唯一無二の世界が広がる。(文・桝井政則 写真・矢木隆晴)

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