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魅知との遭遇

(65)タイの怪談マンガ

悪さするから出てくるのさ

[新聞掲載]2008年10月24日

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写真日本ではありえないキャラクターたちが表紙を飾るタイの漫画雑誌

 どぎつい原色で描かれた妖怪やゾンビ。人物の顔の陰影もとにかく、濃い。怖い絵のつもりなのだろうけど、あまりにキッチュで思わず笑ってしまう。この何ともすごい絵の数々は、京都国際マンガミュージアム(京都市)が所蔵するタイのホラーマンガの表紙なのだ。

 同ミュージアムは海外のマンガ事情を研究するため、アジアや欧米各国で出版されているマンガの単行本や雑誌を収集している。タイの漫画本も100冊ほどあるが、都市部で出回っている日本マンガのタイ語版を除くと、多くは肩のこらないユーモアマンガか、こうしたホラーマンガだ。道ばたの露店に並べて1冊5バーツ(約17円)で売っているという。

 その内容は、例えばこうだ。交通事故で視力を失った女性が、かつて愛していた男性の妻から目を奪おうと、悪人を雇って送り込むが、悪人は居合わせた女泥棒を間違って殺し、目を持ち帰る。女性はその目を移植して視力を取り戻すが、女泥棒の幽霊に悩まされ、最後には移植した目も飛び出してしまう……。

 ミュージアム研究員の伊藤遊さんが「悪人が最後に破滅したり、殺した人の幽霊に復讐(ふくしゅう)されたり、と『因果応報』を説くような話が多い。国教である仏教の影響でしょう」と説明してくれた。

 ユーモアマンガにも説話的な話はある。タイでも大人気の「クレヨンしんちゃん」ばかり見ている子どもたちをしかったパパに「しんちゃん」の霊が取り付いてしまい、人前でお尻を出すなどの奇行を繰り返すようになる、というもの。キャラクターの霊という発想がすごい。

 「因果応報」を説く怪談は日本にも多い。特に江戸時代につくられた「四谷怪談」「累ケ淵(かさねがふち)」などの物語は、繰り返し芝居や映画の題材になった。近世の怪談を研究する京都精華大の堤邦彦教授(国文学)は「日本では近代化の中で、こうした仏教思想と土着信仰が結びついた怪談はリアリティーを失った。しかし、タイでは怪談が、今もリアルなものとして生きている」と指摘する。

 堤さんが例としてあげたのは「ナーング・ナーク(ナーク夫人)」という怪談だ。戦場から帰った夫を、妻のナークと赤ん坊が迎えるが、実は妻はすでに死んで幽霊になっていた。その事実を夫に伝えようとする人を幽霊は次々と殺すが、最後は高僧の力で成仏する。

 この物語は、最近も映画化されて大ヒットした。ナーク夫人を供養した寺は今もあり、安産を祈る女性や、徴兵免除を願う男性の参拝が絶えないという。

 でも、タイのマンガを思わせる泥臭い怪談マンガは、40年ほど前まで日本にもあった。水木しげるの「墓場鬼太郎」や楳図かずおの「へび女」がそうだ。その後、各地で都市化が進み、幽霊や妖怪が身を隠す「闇」に触れる機会はすっかり減ってしまった。今の日本人にとって、一番リアルに恐怖を感じるのは、闇を内側に抱えた「人間」かもしれない。(文・今井邦彦 写真・矢木隆晴)

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