漫画の主人公気分? あ、そうかも
彫刻の裏側は階段になっていて、格好の記念撮影スポット。地元タクシー運転手も思わずVサイン
JR金沢駅から各駅停車で約1時間。羽咋(はくい)駅に降り立つと、ほぼ正面に、
ジャーン!
漫画でよく見る擬音が、縦1メートル、横2.5メートルほどの分厚い石の彫刻になって、どんっと鎮座している。その隣には、
ズズズズズズズ
「ズ」の字が七つ、右肩下がりで、まるで沈み込んでいくように並ぶ。
付近のミニ公園には、七つの「ゴ」の横並びや、五つの「ド」が積み上がったものもある。
「ジャーン!」は「!」、「ズ」と「ゴ」は「・・・・・・・」、「ド」は「・・・・・」という名前。数個の石を積み上げた「連」という作品を含め、いずれも彫刻家、馬渕洋さん(39)の作品だ。「ジャーン!」は裏が階段状。「参加型の作品。誰かが石の上に立つことで完成するのです」と馬渕さん。
この風変わりな彫刻群は、駅前商店街が05年に設置した。「特急サンダーバードが止まる駅の駅前にしては寂しい」。羽咋市駅前通り商店街事業協同組合の元理事長、番匠(ばんしょう)久雄さん(51)らが発案。当時石川県内に住んでいた馬渕さんが、故郷の兵庫県明石市に戻るのに巨大な作品の運搬に困っていると聞き、アトリエを訪ねた。たくさんの作品群から擬音シリーズに目をつけ、「これは面白い」「ぜひ貸してほしい」と頼み込んだ。こうして十数万円の運搬費用だけの負担で借り、駅前に置くことになった。
「あんなものにお金をかけて」。地元の反応は当初、冷ややかだった。それが、バラエティー番組「秘密のケンミンSHOW」(読売テレビ制作)などでそのとっぴさが取り上げられ、一変。県外客も訪れるようになった。「駅前に止まった車は10台中10台、ここで写真を撮る。こんなもん、と思うとったけど、PRになると今は喜んどるげん」と客待ちのタクシー運転手の男性(62)。
読みにくい「羽咋」は、古事記にも登場する古代以来の地名。昔々、人々を苦しめた大きな怪鳥を垂仁(すいにん)天皇の使者石衝別命(いわつくわけのみこと)が退治した際、連れていた3匹の犬が羽根を食いちぎり、「羽喰(はねく)い」と言われたのがその由来という。
そんな羽咋には、怪火を発して夜な夜な飛ぶ物体があったと記す古文書が伝わる。そこで市は「UFOの町」で町おこしを図った。96年開業の「コスモアイル羽咋」には、旧ソ連で実際に使われた宇宙カプセルやUFO写真を展示。UFOパンやUFOラーメンを売る店もある。
とは言え、苦しい戦いである。この7月にはめでたく市制50周年を迎えたというのに、少子高齢化の波には勝てず、人口は半世紀前から右肩下がり。駅前の商店街も閉店が相次ぎ、市の財政もかなり厳しい。そんな折だから、この擬音彫刻は第2の起爆剤として大いに期待を集めている。「都会から遊びに来た孫や子に面白かった、ほっとしたと言ってもらえれば」と番匠さん。人気が出すぎて、貸与中のこの彫刻が売れてしまう可能性があることが、唯一の懸念材料である。(文・角谷陽子 写真・矢木隆晴)