第1回 朝日 企業市民賞 応募企業と活動内容
講評
目立った自発性・積極性
東京本社経済部長・小此木潔
受賞した5社の活動ぶりをみると、暮らしやすい市民社会を築くうえで企業の役割が重要性を増していることがわかる。
富士メガネの活動は、本業の技術を生かすことに徹しながら、従業員の積極参加で現地の人々の生活と労働を助けている。人間の手のぬくもりが伝わる援助だ。
アジレント・テクノロジーも、企業と従業員の専門知識を活用。NPOと連携した手厚い科学教育の進め方には、公教育が見習うべき点も多いのではないか、と考えさせられる。
日産自動車の活動もNPOとの連携が特色。若者にNPOの活動を体験させることで未来を担う人材の育成を図るという姿勢がユニークだ。 ダイキン工業は障害者の能力を引き出しつつ、工場の運営を任せて自立の道を力強く切り開く。バリアフリーの設備は、高齢者が安全に働く未来型工場への工夫としても注目したい。
富士ゼロックスの端数倶楽部は、従業員の自発性に支えられた広がりがすごい。使い道について参加者の意思が尊重される仕組みになっていることも一因だろう。
もちろん、惜しくも受賞を逃した企業についても、高く評価されるべき実践例が多かった。福祉、教育や環境に加えて国際的な貢献。地方からは、地域に密着して住民のニーズに応えている企業の活動も寄せられた。応募企業は、実に多様な分野で活躍している。
共通しているのは、経営者と従業員の社会貢献に対する積極性だ。売上高の一部や製品をどんな分野に寄付するか、といった初歩的な段階にとどまらず、企業の技術やノウハウを活用したり、従業員の幅広い参加を促したりするなど、貢献の方法に工夫をこらすようになっている。企業市民として意識の高まりとともに、そこにかかわっている人たちの熱意の反映にほかならない。
長期デフレという冬の時代をくぐりぬけ、貢献内容が力強く進化してきたことも注目に値する。経済再生へのうねりが強まってきたいまは、新たな発展の好機だ。
自治体や家庭、NPOなどと連携を深めつつ、従業員の幅広い参加と創意工夫に支えられて、企業市民としての活動の輪がますます広がっていくことを期待したい。
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環境・社会との調和、重要に
論説副主幹 荻野博司
一人ひとりの市民と企業とは、長らく対立する存在としてとらえられがちだった。公害や労働災害、首切りなど日々の生活を脅かす問題の背後には、必ずといっていいほど会社の影があった。いまも製品の欠陥や贈賄、粉飾決算などの企業犯罪には、厳しい目が向けられている。
その一方で17世紀からの株式会社の発達が豊かな製品やサービスをもたらし、多くの人に働く場を提供することで社会の発展を支えてきたことも確かだろう。いまや企業とかかわりを持たずに1日を過ごすことは不可能に近い。
朝日新聞が04年の創刊125周年を記念して始めた「企業市民賞」は、企業そのものが社会の一員であることを自覚し、良き市民として行動するよう呼びかけるために設けられた。地道な活動を通じて消費者や地域の信頼を勝ち得ている企業の姿を伝え、顕彰する。そのことがほかの多くの企業にも刺激となり、より大きな企業市民の輪を形作ることになるのではないか。本賞には、そうした期待が込められている。
昨年まで関連団体の財団法人朝日新聞文化財団が「企業の社会貢献賞」を設け、優れた成果をあげている企業を表彰してきた。そこで蓄えられた知識や経験を受け継ぎ、さらに中小企業や地域に密着した企業にも対象を広げた。
審査の基準として「先進性」「独創性」「継続性」の3点を挙げたのは、各社が置かれた環境のもとで創意工夫を凝らし、息長く活動を続ける姿勢こそ、企業市民の理念にふさわしいと考えたからだ。
利益が出たときには派手な慈善や寄付をしても、不況になれば手のひらを返したように沈黙する。そんな企業よりは、社長から若手の従業員まで多くが参加して、できる範囲で活動を続けてきた会社こそ評価したい。
日本でも論じられる機会が増えたのが、「企業の社会的責任(CSR)」だ。営利を目的として設立された以上、利潤を増やすために努力するのは当然だが、あくまで法令や社会的な倫理にもとる行動を排し、環境の保護や社会への貢献に配慮することが大前提となる。
企業やその経営者は、健全な常識が問われている時代といえよう。
先進地である欧米では、下請け工場や原材料の生産地での労働環境にまで対象が広がり、責任を果たしていないとされた企業には、消費者から不買運動が突きつけられることさえ珍しくない。
「企業市民賞」は、応募された企業に活動内容とともに「職場の環境」や「顧客への姿勢」「経営の公正さ」などについての質問書への回答を求めた。社会的責任をまっとうすることだろう。
本賞が日本において、「企業の社会的責任」への意識を高めることに貢献することになれば幸いだ。
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受賞5社の活動内容
富士メガネ
難民にメガネ贈り20年
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| 難民の視力を検査する富士眼鏡の金井昭雄社長(右)=ネパールで |
メガネを手にした難民の顔が喜びでくしゃくしゃになった。「こんなにはっきりと文字が読める」。「手のひらのしわまで見える」と涙する人もいたという。
難民の自立には十分な視力が欠かせない。教育を受けたり、刺繍(ししゅう)など細かな手作業などを行ったりするためだ。
札幌市に本社のある富士メガネは、83年にタイのインドシナ難民にメガネを贈る活動を始めた。翌年から国連難民高等弁務官事務所とともに支援を本格化させた。
39年設立。地場では老舗(しにせ)メガネ店だ。北海道以外にも東北、関東にチェーン展開する。04年2月期の売上高は約84億円。
創業から3代目の社長の金井昭雄さん(61)は、「ドクター・オブ・オプトメトリー」の学位取得で渡米した際、インディアンにメガネを贈る事業に参加した。これを契機に支援を始めた。「オプトメトリスト」とは視力と視機能を検査し、最適なメガネを提案する仕事だ。
メガネは、ただ贈ればいいというものではない。「各自の目を調べ、最適のメガネを選ばねば意味がない」。合わなかった場合は帰国後に作り直して、送り届ける。
先進国と異なり、現地の環境は厳しい。風土病感染があり、シャワーは雨水をためただけ。言葉の壁も厚い。それでも根気強く活動を続ける。事業はブータン、アルメニアにも広がり、贈ったメガネは9万4千本を超えた。
金井さんばかりでなく、社員約70人が現地に出向いた。その社員の一人は、「よく見える、と話す難民の笑顔に感激した」と話す。
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日産自動車
NPO参加学生を援助
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| プログラムを終えた奨学生に修了証を手渡すカルロス・ゴーン社長(右)=今年6月、東京・銀座の日産本社で |
「実践こそ、最も効果的な学習法だ」
今年6月、東京・銀座の日産自動車本社で、約30人の学生を前に同社のカルロス・ゴーン社長は、独特のよく通る声で強調した。今年で7期目になる「日産NPOラーニング奨学金制度」のセミナーでの一場面だ。
この制度は、提携するNPOに運営スタッフとして参加する学生に対し、日産が活動費を支給する仕組み。派遣先のNPOは環境、教育関係から国際交流、芸術関係まで幅広い。学生は最長9カ月間のプログラムで、NPOの活動を当事者として体験できる。
日産の島田京子担当部長は「社会に出る直前の学生に新しい価値観の現場を経験させることで、多様性を身につけてもらうことが狙い。必ず日本全体の実力の底上げにつながる」と説明する。
98年、米国の制度を採り入れる格好でスタートした。当時、99年中間連結決算で3千億円以上の赤字を計上するなど業績はどん底。仏ルノーから送り込まれたゴーン氏が、経営に大なたをふるっていた。だが、「コストカッター」と呼ばれたゴーン氏は「この制度は未来への投資だ」と、全面的に支持した。
これまでの奨学生は118人。日産がまいた種は、確実に学生らの人生観に影響を与えている。厚生官僚を目指していた女性は、難病の子の治療を支援するNPOに参加したことがきっかけで、医療専門の弁護士を志した。
アジアとの草の根交流NPOに参加した学生は、修了後の報告書に書き込んだ。「日産の『投資』が無駄ではなかった人間になれるよう努力します」
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富士ゼロックス
有志が賃金の端数寄付
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| 寄付先の自然保護団体との自然観察会で、干潟のカニやハゼを観察する「端数倶楽部」のメンバーら=4月、名古屋市の藤前干潟で |
国内の福祉施設や自然保護団体に寄付したり、海外での植林や井戸掘りなどのボランティア活動に役立てたり。企業の社会貢献活動のさきがけのひとつとも言われる富士ゼロックスの「端数倶楽部(くらぶ)」は、現在会員数4350人。会員のほとんどが同社の社員で、全社員の約3割が加入している勘定だ。
91年に発足。会員が賃金と一時金の100円未満の端数に、各自が1口100円で自由に決める額をプラスし、年に14回拠出するやり方で、入・退会は自由だ。年に何回もボランティア活動に参加する人から毎月数百円を寄付するだけの人まで、各人各様の形で参加し、それぞれに満足できるようにしているのが特徴だ。
ボランティア団体への寄付には会社から同額が加算される。しかし、寄付先の選定や金額に会社は口出ししない。資金の使い道は、会員の中から立候補した運営委員54人が決めている。
寄付金が有効に使われているかどうかを会員に知ってもらうため、会員を募って寄付先の活動に参加するなど、「顔の見える寄付」を心がけている。企業の社会貢献活動に詳しい日本経団連社会本部の長沢恵美子さんは「端数倶楽部が他社の追随を許さないのは、会社のお仕着せではなく社員の有志が自主的に運営していること」と話している。
会社は同倶楽部の活動を就業時間中ならば勤務と認め、さらに会議のための移動に交通費を全額補助するなど手厚い支援をしている。会社と社員の双方がボランティアに積極的な企業風土も、この活動が成功している要因といわれている。
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アジレント・テクノロジー
科学の喜び、実験で伝え
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| アジレント・テクノロジーが開く子ども科学実験教室。この日は楽器作りを通じて音の仕組みを学んだ=東京都八王子市の由井第一小で/span> |
実験用に手作りした箱に放射線を通すと、雲のような線が浮かび上がった。「見えた」と会場のあちこちから声が上がる。「ノーベル賞の小柴博士の発見も、これと同じ発想なんです」という説明に、子供たちの目が真剣味を帯びた。
半導体計測機器メーカーのアジレント・テクノロジーは00年から、子供たちに科学の楽しさを伝える教室を開いている。きっかけは、子供たちの理系離れだった。小西正之企画部長は「技術者のレベルが下がれば、会社にとっても死活問題。なにかやれることは、と考えた」。
当初はやり方が分からない。そこで、同様の活動に取り組むNPOに場所を提供し、社員が協力しながら「教え方」を学ぶ形を取った。
今は米国本社から「実験キット」を無償で提供してもらう仕組みができあがり、社員も教え方を学んで先生役として「独り立ち」。当初は東京都八王子市と神戸市の事業所で年1回ずつだった教室は、01年から土曜日に地域の公民館などを使う定期的な活動となった。
02年以降、学校にもできない実験教室は「出前授業」の注文が相次ぐようになった。専門の実験キットは潜望鏡や日時計、電気回路など13種類。30〜40人の子供たちに対し教師役のボランティアはいつも4、5人。公教育にはない手厚さだ。
昨年からは活動を全国に広めたいとするさわやか福祉財団と提携、教室を開く希望を持つ各地のNPOに実験キットを提供する形で、取り組みが急拡大した。今年配った数は5千以上。かつてNPOから学んだノウハウを、今は地域の中心となる団体に教えている。
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ダイキン工業
障害者雇用・就労で先進
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| 作業しやすいよう社員が働き方を工夫する=9月28日、大阪府摂津市のダイキンサンライズ摂津で |
部品を組み立てるラインの高さは、自分たちにとって効率よく、しかも無理がない姿勢になるように、職場で話し合って決めている。2年前に、車いすの社員が全体の作業の配分や仕事の進め方を決める職場長に就き、それぞれの作業のラインの現場責任者も障害者が務める。
大手空調メーカーのダイキン工業は、正社員など常用雇用者の2.73%が身体障害者(または知的障害者)だ。障害者雇用促進法で義務づけられた最低1.8%を大きく上回る。その中心となっているのが、操業開始から10年の「ダイキンサンライズ摂津」(大阪府摂津市)だ。
大阪市や摂津市などから通勤する社員たちは、親会社から受注した電子部品や空調機の部品の組み立てなど6種類の作業をする。全社員49人のうち社長や工場長らを除く45人を障害者(うち重度は43人)が占める。03年度の売り上げは17億円。月1度、健常者である工場長らと作業の方法や職場の環境について話し合う。
応武善郎社長は「いずれ、障害者が工場長や会社運営に責任を持つ社長に就けないか検討中だ」と話す。5年後には、社員数を100人程度まで倍増させ、工場も拡張させる計画だ。
地域へ貢献するため、近くの養護学校などから障害者を実習生として受け入れ、作業の進め方を教えている。実習生はこの1年で86人になった。
このように、専門に障害者を雇う会社は「特例子会社」と呼ばれ、国内ですでに150社を超えている。そこで働く社員の意欲をどう高めていくのか、同社の試みは、示唆に富む。
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