現在位置:asahi.com>コミミ口コミ> 記事

コミミ口コミ鉄道

近鉄の検修車庫を見る

2007年11月11日

 小さいころ、電車に乗るのが好きで車掌になりたかった。いつしかあこがれは薄らぎ、車を運転するようになってからは電車に乗る機会がめっきり減った。「鉄ちゃん」(鉄道マニア)がテレビなどで脚光を浴びるのを見ると、昔の自分を思い出す。奈良県民の足として親しまれる近鉄電車の検査・整備の様子を取材したいとお願いしたら、香芝市の近鉄五位堂検修車庫でかなった。

写真

ずらっと並ぶ点検、検査中の車体。上から見ると、整備士たちがとても小さく見える=香芝市で

写真

台車を分解する前の目視検査。電車の車輪は意外に大きい。人の背丈の半分ほどもある=香芝市で

■ミクロの作業、根気よく 車両1800両の整備を担当

 五位堂検修車庫は、近鉄五位堂駅に隣接して立っている。約7万平方メートルと敷地が広大なので、駅から入り口まで歩いて5分かかった。検修車庫は、車でいう車検場と同じ。要するに整備や点検、検査をする場所で、鉄骨スレートぶきの車庫や管理棟などが立ち並ぶ。

 電車も車と同じように定期的に検査を受けることが義務づけられている。電車の検査は、(1)4年ごとか60万キロ走行ごとにモーターや台車、ブレーキなどの主要部品の分解(2)8年に一度の全般分解(3)故障のおそれがある場合などの臨時検査、の3種類。

 ここは、近鉄が保有する1980両の車両のうち、名古屋の一部を走るのを除いた1800両の検査を担当する近鉄最大の整備基地だ。ほぼ毎日、続々と車両が入って来て、台車の整備士や、電気関係を担当する整備士ら、計約400人が働いている。

 今回、案内して下さったのは、近鉄の早野達也さん(54)と、検査・整備を担当する関連会社「近鉄車両エンジニアリング」の整備士の方々。車庫内を一周しながら、整備の各工程を見学させてもらった。

■乗り心地決める職人技

 建物内に入ると、分解前の車両が待機していた。その車両の脇を通ると車輪の大きさに驚く。普段はホームの下に隠れていて大きさを実感することはないのだが、横に立つと直径が人の背丈の半分はある。聞けば約86センチ、重さは1個、約300キロにも。ちなみに値段は1個11万円ほどとか。

 車輪の寿命は6〜12年。交換するまでに約5センチもレールでこすれて減る。車のゴムタイヤは、1センチ足らずの摩耗で交換が必要だから、ずいぶん長持ちだ。

 この車輪が四つついた重さ約8トンの台車2台の上に箱形の車体がすぽんとはまって乗っている。だからクレーンで車体を持ち上げると、レールの上には台車だけが残る。ゴットンと車庫全体に響くような大きな音を立てて、台車だけが検査・整備場の方へやって来た。

 車輪や台車の検査・整備を担当する川本哲也さん(44)は「30年前の型も、昨日できた最新型も整備しなきゃいけない。部品の規格も構造も違う。すべてを知ってないと務まりません」。

 足回りだけに車輪や台車の分解整備は微細を極める。「こうやって、超音波を車輪に当ててわずかな傷を探すんです」。川本さんが、聴診器の先っちょみたいな超音波発信器を車輪に当て、ゆっくりと全体をなで回すように動かしていく。目に見えない傷でも、モニターに映し出された波形の微妙な乱れで見つけるのだ。試しに傷のある車軸に検査器具を当ててもらったが、波長が乱れたのかどうかわからない。この微妙な変化がわかるようになるには、数年は経験が必要という。

 台車の分解・点検で最も気を使うのは車軸を支える「軸受け」。つまり20〜30トンもある車体の重さを受けながら、回転する横棒を支える部分だ。

 分解しながら車軸に直接触れるボールベアリングも一つひとつ傷や破損の有無を点検する。ボールベアリングはドーナツ形の軸受け箱の中にぐるりと並んで入り、穴の真ん中を通っている車軸を支える。電車の乗り心地を決めるのは、このベアリングのわずか「100分の5ミリ」の差。

 「すき間が狭いとベアリングの回転が滑らかでないので乗り心地が堅く、振動がお客さんに伝わってしまう。逆に、ゆるいとガタガタしすぎて、もっと乗り心地が悪くなるんですよ」

 巨大な鉄のかたまりに似合わず、安全を支えているのは、こんな根気のいるミクロな作業だったのだ。

■1000本のボルト安全支え

 次は車体の検査・整備をしているエリアへ行ってみる。「ブレーキが動くのも、ドアが開くのも圧縮空気のおかげなんですよ」。そう教えてくれたのは、空装設備担当の松坂香住さん(56)。

 圧縮空気は、電車の下に取り付けられたコンプレッサーから床下の配管を通ってブレーキやドアへ送られる。分解・組み立ての際、もし配管の継ぎ目などに、わずか1ミリの大きさのゴミが入っても空気が漏れてブレーキの利きも悪くなる。「事故にならないよう配管は念入りに掃除するんです」と松坂さん。複雑に曲がりくねった配管のすみずみに、整備用の圧縮空気をピシューッ、ピシューッと吹きつけ、小さなゴミを落としていく。

 さらに重要な部分が、電車だけに電流を制御、調整する「制御器」。外見は車体下の四角い箱だ。中には手のひらサイズの配電盤が何層も入っていて、それぞれ5〜10本くらいずつボルトがはめ込んである。どのボルト同士の組み合わせで電流を流すかによって、前進や後進、速度の調整など電車は様々な機能を発揮する。

 ボルトはそれぞれ長さなど種類が異なり、その数計約1000本! だがもし、整備中にボルトを入れ間違えれば、前進しようとスイッチを入れたとたん、後退してしまうような大事に至ることもあるとか。1本ずつ間違えないよう、整備マニュアルをにらみながらの作業が続く。

    ◇

■人気集める鉄道フェア

 五位堂検修車庫は、毎年10月14日の「鉄道の日」近くの休日に「鉄道フェア」が催され、施設内の一部が開放される。今年は1万人が訪れるほどの盛況ぶりだった。会場で特に人気を呼ぶのが車両の部品などの「グッズ販売」。お客の列が五位堂駅まで延びることもあったという。

 売れ筋商品ベスト3は(1)行き先などを表示する字幕(2)運転台についている時計(3)運転台で速度調整するスロットルレバーのような役割をする主幹制御器。特急列車の座席が3万円で売れることもあるとか。「こんなもん、何がいいのかねぇ」と整備士たちは首をかしげる。それでもマニアにとっては、よだれの出るお宝なのだ。

PR情報

このページのトップに戻る