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深海の生態系、水槽内で再現 新江ノ島水族館

2007年05月21日

 深海の生態系を水槽内で再現する国際的にも珍しい試みが、藤沢市の新江ノ島水族館で進んでいる。3月から始まり、9種類が展示されている。飼育や観察を通じ、謎のベールに包まれた世界の解明に挑んでいる。

写真ゴエモンコシオリエビ 深海の熱水噴出孔のすぐ近くに折り重なるように分布する。背甲長6センチ。ゴエモンは釜ゆでの刑に処された石川五右衛門に由来する(生物写真はいずれも新江ノ島水族館提供)
写真シンカイコシオリエビの一種 相模湾初島沖の水深850〜900メートルの冷湧水域で見られる。背甲長は約1.5センチ
写真オウナガイ 日本では初めての展示。ハナシガイ科の一種で、相模湾初島沖の水深850〜900メートルの冷湧水域で見られる。殻の後部にシワがあることや、2枚の殻を合わせているちょうつがいの部分に凸凹がないことを歯がないことに見立ててオウナ(老婆)と名づけられた。殻長は約10センチ
写真深海の環境を再現した化学合成生態系水槽=新江ノ島水族館で

 地球が熱水や冷湧水(ゆうすい)とともに出す物質を「餌」とする「化学合成生態系」の生物。こうした生き物が暮らしている水槽は、真っ赤な光に照らされていた。光のない深海は本来なら真っ暗だが、それでは展示しても何も見えない。赤い光は水に吸収されるので、影響が少ないのだという。

 幅3メートル、高さと奥行き1メートルの水中でうごめいているのは、ゴエモンコシオリエビやスザクゲンゲ、新加入のシンカイコシオリエビの一種やオウナガイなど。一見すると、ちょっと変わったエビやカニ、二枚貝、魚に見える。ゴカイなど環形動物に近いサガミハオリムシもいる。水深6500メートルまで潜れる有人潜水調査船「しんかい6500」などで採取された。

 深海生物の飼育は、04年春の水族館オープン以来の研究テーマだ。新しい水槽も、これまで4個手作りしてきた水槽の研究成果の集大成。右側は水温と同じくらいの水がゆっくり湧(わ)く地域、左側は煙突のように突き出した「チムニー」を模した出口から最高60度の熱水が出る。そして、平均の水温は、水深1500メートルの深海と同じ4度前後に保たれているという。

 冷湧水は海底プレートが地球内部に入り込む場所でわき、熱水は海底火山が活発な場所でマグマがつくる。ともにメタンや、本来は生き物にとって猛毒の硫化水素などが含まれている。こうした状況を再現するため、酸素を減らし、土の中に腐りやすいものを入れ、熱水に硫化物を加えるなどの工夫をしている。

 水槽で暮らす生物たちも、冷水域で暮らしたり、熱水域を好んだり、どちらにもいたりだ。

 だが、深海での高い水圧、300度に達する熱水までは本物と同じというわけにはいかない。

 1000メートルの深海の圧力は地表の気圧の100倍もある。採取した生物が徐々に慣れるよう、加圧した水槽に入れ、徐々に減圧して陸揚げする。

 グッタリしていた生物が加圧水槽で元気になることもある半面、深海のクラゲのほとんどは船上に上げると死んでしまう。鉄分を含んだウロコを身にまとうウロコフネタマガイもインド洋で採取され、水族館に着いたときは生きていたが、その後死んだという。

 深海という過酷な環境で生物が生きられるのは、体内に化学合成バクテリアが共生したり、体の周りに化学合成バクテリアを「養殖」したりして、できた栄養分をもらうからだ。そうした生物を餌にするものもいる。最近では、生命の起源は、日光と二酸化炭素、水を使って養分を得る光合成系の生物ではなく、深海に住むような化学合成生態系ではないか、といった議論もある。

 化学合成生態系生物の研究は海洋研究開発機構(JAMSTEC(ジャムステック)、本部・横須賀市)と共同で行っている。太陽と無縁な世界から、思いもよらぬ地表の水槽に移り住んだ生物たちが、生命、生態系の謎解きに一役買うことになりそうだ。

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