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24年越しで歴史漫画を完結 青池保子さんに聞く

2007年06月30日

 漫画「アルカサル―王城―」が、24年越しで完結した。14世紀のスペインを舞台に、絶対的な王権を目指し、激しさと正義心から「残酷王」「審判王」と呼ばれた、カスティリア王ドン・ペドロ1世の生涯を描いた歴史ロマンだ。作者の青池保子さんに思いを聞いた。(アサヒ・コム編集部)

イラストカスティリア王ドン・ペドロ ©青池保子/プリンセス(秋田書店)
写真スペインには4回足を運んだという青池保子さん。「セビリアに行く人は、ぜひアルカサルでムードに浸ってください」と話す
イラストドン・ペドロの胸を飾る、カスティリア王家の紋章は城と獅子 ©青池保子/プリンセス(秋田書店)
写真最終話が掲載された発売中の「プリンセスGOLD」(秋田書店)
写真ドン・ペドロに対抗心を燃やすエンリケ ©青池保子/プリンセス・コミックス11巻
写真側室から王妃になるドン・ペドロ最愛の女性マリア ©青池保子/プリンセス・コミックス5巻
写真作品のタイトルとなったセビリアのアルカサル。87年に世界遺産に指定された。増築が繰り返され、ムデハル、ゴシック、ルネッサンス様式などが混在する。繊細で美しい漆喰細工やアラベスク模様を見ることができる。写真提供:スペイン政府観光局

 ――連載開始から24年目でとうとう完結した、今のお気持ちは。

 まだあの人たちが生きているという、不思議な感覚。以前、「七つの海七つの空」という作品で(登場人物の)ティリアン・パーシモンを殺したとき、後悔して、ご飯も食べられなかった。今回も寝込んじゃうかと思ったけど、意外と平常心です。つきあいの長さと深さでしょうか。作品では死んでるんですけど、私の中ではまだ生きてるんですよ。私の中に居座っている感じです。

 ――25年前、ドン・ペドロの存在を知って猛烈に書きたくなった、ということですが。

 戦国時代にドラマチックな人生を送った人。34歳で義兄に殺されてしまいますが、恋愛ざたも多く、勇猛なハンサムで、今までなんで日本でこんな面白い人物が知られてなかったんだろうと思いました。

 ――公式サイトに「膨大な借金を完済した気分」と書かれていましたが。

 (最終話の中心人物となるドン・ペドロの娘の)コンスタンシアの心境は、ほぼ私と同じなんです。ドン・ペドロのことを描かないと私の務めは終わらないというか。「アルカサル」の完結は、果たさなければいけない責務でした。

 ――連載休止から13年ぶりの完結編ですが。

 掲載誌が休刊して、その後、再開の話が出るたびに、何らかの事情で実現できなかった。でも、常に頭の中にありました。

 これがこの人の最後だなと思い、泣きながら描いた場面もたくさんあります。特に「必ず勝利して帰って来る」とドン・ペドロが出撃するところでは、生きている姿はここまでなんだな、と。

 ――参考文献のほとんどが、スペイン語の学術書と伝記だそうですが。

 翻訳の人に訳してもらったのですが、スペインの歴史書はわかりにくいし、同じ名前の人がたくさんいる。「そのときレオノールは第3子を産んだ」とあると「どこのレオノールだろう」と系図と時期を調べました。記述を整理してノートを作ったり、まるで学生時代に戻ったようでした。

 ――当時の軍備や食事などの場面もリアルに描かれているのが印象的でした。船に汚水処理設備がなくてドン・ペドロが臭さに悩まされたりして。

 戦国時代の話なので、戦についてもきちんと描いておかないと。調べるといろいろ出てきて、自分が面白いと思ったことは描きたかった。細かいところにもこだわって、中世の人々の生活を感じられる臨場感を出したかった。

 ――史実と創造のバランスをとるのが難しかったのでは。

 中世スペインは日本の読者に身近ではないので、この時代の風習や、条約は各国との駆け引きがあってこういう風に結ばれるんだ、ということをわかりやすく書いてきたつもりです。キリスト教が基盤にあるので、教皇庁がからんできて、破門して、とか。でも、逆に読者にはとっつきにくくなったかもしれません。

 600年前なので、わからないことばかりでした。写本の写し間違いで没年が10年くらい違うとか。英国、フランス、スペインの記録はおのおの違う。政治的意図もあるし、敵味方の立場が違うので。歴史の真実は、本当のところは、わからないということです。

 歴史書では、(ドン・ペドロを殺して王位を奪った義兄の)エンリケは大変良く描かれています。でも、立派な良い人に描かれるほど、うそくさいと思ってしまう。15年も弟をつけまわして、王位簒奪(さんだつ)までやってのけたからには相当な人だったんではないかと。正当性を強調するためには倒した相手を悪く言うのが常識ですから、歴史書の裏読みをして、私なりのエンリケをつくりました。

 最終話で、(エンリケの妹の)カタリナが、エンリケの息子を城の窓から放り投げる場面がありますが、息子は実際にそこから落ちて死んでいます。ただの事故という説と、侍女が騎馬試合にみとれて息子を落としたという伝説が残っています。伝説によると、侍女は後を追って身を投げ、以来、騎馬試合を行うと侍女の亡霊が出て、それを見た騎士は負ける。落ちた場所に十字架が立っているそうです。カタリナ自身は、生没年も記録にはないんです。史実の名前はホアナです。

 スペインの歴史で、日本でほとんど取り上げられていない空白の部分を、少しでも読者に紹介できたことがよかった、と思います。

    ◇

 〈アルカサル―王城―〉15歳で即位したカスティリア王ドン・ペドロ1世(1334―69)は、王権を脅かす諸侯たちを制圧し、絶対君主として君臨していく。王位を狙う義兄エンリケは、国内外の敵対勢力と結び、両者の争いは英仏百年戦争と深くかかわっていく。漫画の初出は「プリンセス」(秋田書店)84年1月号。完結編の前後編は、94年8月の連載休止以来、13年ぶりに発表された。それぞれ、2月、6月発売の「プリンセスGOLD」(同)に100ページずつ掲載。ドン・ペドロは前編でエンリケに殺され、王位を奪われる。後編は、ドン・ペドロの死後19年間、次女コンスタンシアが正統な王家の名誉回復を果たすまでを描いた。

 〈青池保子さん〉63年、りぼん増刊冬の号掲載の「さよならナネット」でデビュー。代表作は「エロイカより愛をこめて」「イブの息子たち」など。

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