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坂もヘビも乗り越え、山道2時間の郵便配達

2007年10月15日

 長野、愛知との県境に位置する静岡県浜松市天竜区水窪町の塩沢地区は、片道1時間かけて山道を歩いてくる配達員が郵便を届けている。今月から郵政事業が民営化されたが、お年寄りだけの6世帯の地区にとって、絶対に断ち切らないでほしいライフラインだ。1日交代で配達をしている水窪集配センターの女性2人のうち、坂口三重子さん(60)に5日、同行した。

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「上りは見上げるとつらくなるから下を向くの」と言う坂口三重子さん=静岡県浜松市天竜区水窪町で

地図

  

 塩沢地区へ行くには水窪からJR飯田線で2駅移動する。午前10時半、郵便物をリュックに入れて背負った坂口さんとJR飯田線の水窪駅で待ち合わせた。

 ホームで偶然、配達先に住む宮下茂正さん(81)に会い、新聞配達がないため郵便として届けている新聞を手渡す。宮下さんは「ありがとう。民営化で制服が変わったんだね。かっこいい」とにっこり。

 11時5分、無人の小和田駅に到着。駅舎にはJRの職員が坂口さんのためにつくった木の杖(つえ)が数本置いてあり、「使うかい」と勧めてくれるが、還暦を迎えた坂口さんに負けるわけにはいかないと断る。

 緑色の水をたたえる佐久間湖の脇を通りすぐに山中に。11時15分にはヘビが現れる。とっさに坂口さんの後ろに隠れると杖で撃退してくれる。「足腰が弱いからではなくて杖はヘビを追っ払うためのもんよ」と坂口さんは笑う。

 グラグラ揺れるつり橋を渡り、見上げるような急傾斜が続く。「この夏は暑くて大変だったんよ。今日は涼しいね」と坂口さん。11時37分、山中にポツンとたたずむ住宅のポストにはがきを入れる。

 11時58分、2軒目に到着し郵便物をポストに。見上げた山の斜面の茶畑で老夫婦が草刈りをしている。塩沢地区で一番上に住む大平明喜さん(74)とマサエさん(74)だ。

 大平さん夫婦は「いつもありがとうねえ」と茶畑の下にいる坂口さんに声を掛ける。夫婦は、民営化でいずれは郵便配達が打ち切られるのでは、と心配だという。マサエさんは「人に会わないから郵便屋さんがこうして声かけてくれるだけでいいじゃんね。絶対になくさんでほしい」と話す。

 13時31分の電車に乗るため12時10分に下山。坂口さんは「次の電車は4時過ぎまでないし余裕を持って出ないと。何があるか分からんから」。以前、道中でニホンカモシカが10分間、道をふさいでじっと動かず焦ったことがあったという。

 13時10分、小和田駅に到着。記者の足はガクガクだ。待合室で「こんなにしんどい仕事ですけど、いいことは何ですか」と聞く。坂口さんは「お年寄りに子どもからの手紙を手渡しする時なんか、喜んでくれてそりゃあうれしいよ。私が元気な限りは続けたいね」とタオルで顔の汗をぬぐった。

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