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意表突いたバント、大会屈指の左腕を攻略 専大北上

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 ■みちのく白球譜(第73回全国選手権大会・1回戦 専大北上3―2村野工)

 相手の意表を突いてバントした球は、数メートル転がってピタリと止まった。村野工(兵庫)のエース安達智次郎(2年)が慌てて前に駆け出すのを横目に、専大北上(岩手)の井上浩司(同)は一塁に向かって疾走した。「出るのに必死で。ボールも見ずに感覚で当てていた」

 2―2で迎えた八回裏1死。安達が球を拾ったときには、井上は一塁ベースを踏みかけていた。それでも安達は振り向きざまに一塁へ投げた。球は大きくそれ、その間に井上は三塁へ。そこで安達は降板した。

 「投手力の差をどう克服するかが問題だった」と専大北上の監督だった矢田利勝は振り返る。185センチの長身から安達が繰り出す直球は140キロ超。落差のあるカーブも武器で、大会屈指の左腕と言われていた。角度のある速球に選手たちは不慣れ。矢田は事前の分析で「安達は後半になるとへばる」と踏んでいたが、打ち崩せずにいた。

 スイッチヒッターの井上も左右の打席を試したものの、攻略できなかった。七回が終わってもテンポよく投げる安達を見て、「正攻法で攻め続けても打てないな」と感じ、頭に浮かんだのが八回のセーフティーバントだった。何とか相手を揺さぶろうと思った。

 左打者用のヘルメットを持ってベンチを出るとき、矢田に呼び止められた。「浩司、足を使え」。井上が「これですよね」とヘルメットを見せると、矢田はうなずいた。「監督と考えが同じだったのは、後にも先にもあの1回きり。成功すると確信しましたね」と井上は話す。

 安達の降板後、村野工は4番、5番を敬遠し満塁策をとるが、7番畠山英二(3年)がたたきつけた球が一塁手のグラブをはじき内野安打に。井上が生還し決勝点となった。「この回に点を取れなかったら流れは向こうに行っていた。ピンチの後にチャンスが来て、チャンスの後にピンチが来る。野球は不思議なもんだね」と矢田は笑う。

 井上は今43歳。プロ野球広島にドラフト5位で入団したが、不整脈が見つかり1999年に退団。その後、出身の神奈川県平塚市で会社勤めをしながら中学生に野球を教えてきた。高校での指導が新たな目標だ。「夢がかなうまで努力する経験を子どもたちと分かち合いたい」

=敬称略、学年はいずれも当時(加茂謙吾)