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鳥取)第70回 米子商―福岡第一

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 ■1988年 第70回大会3回戦 米子商2―3福岡第一

 1988年、初出場の米子商は初戦で鹿児島商(鹿児島)に完封勝利した。「まず一勝」の目標を達成し、次戦の組み合わせ抽選をテレビで見ていた選手たちは相手が優勝候補の福岡第一(福岡)に決まると叫んだ。「ヨッシャー」。負けるなら強豪が良いと思っていた選手たち。欲はない、はずだった。

 8月18日午後4時2分に試合は始まった。浜風が吹き、空には黒雲が立ちこめた。中盤に降り出した雨は次第に横殴りに変わった。米子商がリードしていた。

 2―0で迎えた五回表の攻撃。1死三塁とし、追加点のチャンスだった。「2点なんかワンチャンスで逆転されてしまう。あと1点は欲しい」。ベンチの選手たちは期待した。

 カウントは2ボールで、スクイズのチャンス。打者はバントが得意だった。狙い通りスクイズ。だが、球はバットすれすれをすり抜けた。本塁に走り出していた三塁走者は戻れず挟殺。痛いミス。追加点のチャンスを逃した。

 4番の笠尾幸広は「ひょっとしたら勝てるかも、と思う場面だった。ここで流れが変わった気がします」と振り返る。

 福岡第一のエース前田幸長はドラフト1位で翌年、ロッテに入る好投手。前日の福井商(福井)戦は延長十三回で189球を投げていたため、この試合は球の伸びがなかった。しかし、六回以降、目に見えて調子が上がっていったという。米子商のエース木田洋一は、「我々のスクイズ失敗で『まだいける』と思わせてしまったんでしょう」と話す。

 米子商はこのあと、スイッチが切れたように三者凡退が続く。八回に同点に追いつかれ、九回裏、無死一塁。次打者はバントの構え。木田は「ああ助かったと思った」。鳥取大会で負傷した脇腹の痛みを抑えるための注射の効果がすでに切れていた。アウトを一つ取れるなら、バントで送ってくれる方が良い。

 しかし、バントの打球を取ろうとした一塁手がこぼしてしまった。無死一、二塁。次打者もバント。ここでは木田自身が打球を取り三塁へ送球したがセーフ。無死満塁。1死後、次打者のスクイズが内野安打となりサヨナラ負けを喫した。「強打の福岡第一」の意表を突くバント作戦だった。

 木田は「もともと力量の差はあった。それでも、七回を終えて勝っていて、ベンチでも何人かは『勝てるかも』と思ったはず。その欲で後半、エラーが増えた」と語る。この試合、米子商の失策は2。福岡第一は0だった。

 木田は試合直後の取材に「福岡第一と互角か、それ以上に試合ができたのだから満足です」と語っている。翌日の朝日新聞も、米子商の選手たちに涙はなかったと記している。この大会で準優勝する福岡第一をギリギリまで追い詰めた米子商。あれから30年が過ぎたが、選手たちはいまも晴れ晴れとした気持ちだという。

=敬称略(鈴木峻)