
「どこまで実現できるかはわからないのですが」
安藤さんがうやうやしく新しいプリントを配る。第1弾の造本プランだ。一番の問題は、プランが編集サイドの思いを表しているか。二番目の問題はコスト。どちらも、最後の最後までおつきあいする重要なポイントだ。
「こういった本ですので、やはり、仮フランス装か地券装でいけないかと考えまして」
安藤さんが説明を始めた。照れくさそうだ。「仮フランス装」は、表紙の四周を内側に折り込んだニュアンスのある表紙。「地券装」は、芯にしなやかな紙を使った、仮フランス装よりもモダンな雰囲気に仕上がる。どちらも手仕事の温もりを感じさせ、甲乙つけがたく素敵。
「仮フランスなら、折り返しがゆったり折られていて、面積が広いのがいいと思う。でも、紙の強度がやや難かなあ」と、祖父江さんが微笑む。
「何で地券装っていうんですかね」
「あ!それはですね、むかし土地の権利書に使われていた紙を使ってるからなんですね!」。祖父江さんはエッヘンと誇らしげだ。
「それで、テンキンができないかなって」と、安藤さんがつぶやく。
「テンキン?」
「今日のお天気ン!」。祖父江さんが追い打ちをかけ、場が静まりかえる。無茶なんだろうな。高いことは想像はついたが聞いてみた。
「あのう、テンキン、ってなんですか?」
祖父江さんが書庫から何冊かの本を抱えて出てきた。天の小口部分がぎらりと金色に輝いているから「天金」だ。手帳や辞書で見たことがあるが、一般書では見かけない。天、地、前のすべての面に金を施す場合は三方金というらしい。
「もともとは辞書なんかに、ホコリとかの汚れを防ぐ実用的な目的で使われたんです。三方金じゃなくて、実用のために、あえて天金だけ。そういう昔の良さを今回は使いたいと思って」と祖父江さん。
いままでは似合う本がなかったし、時間もなくて、やったことがないのだという。「できるかどうかは別として、この際聞いてみようと思って」というのが本音らしい。
「高いんでしょうか」
誰にということもなく聞いてみたが、印刷会社の方も、すぐには答えられないのだという。聞くだけ野暮か。通常、本の顔である表紙には、売れ行きを意識して、あるいは保管を考えてお金をかけた加工を行う。カバーをかける、金箔や盛り上がるUVインクで印刷する、特別な紙を使う、ビニール・コーティングをかけるなど。どこまで実現可能かわからないが、仮フランス装か地券装、それに天金が、この本の表紙回りのキモになりそうな予感がする。
「あと、何かと便利だから、栞も二本つけちゃってます」と祖父江さん。
確かに仕様書に書いてあるし、便利かも。
「大丈夫ですよ、栞は安いですから」
印刷会社の方から心強い一言。


