打ち合わせは続く。電話が鳴ったり、バイク便で荷物が届いたりしながら、事務所のスタッフの方々は黙々と仕事。
今度は印刷についての話し。
展覧会の図録は、作品の全体像やディテールの美しさを伝える画集だ。作品を撮影した写真をいかに印刷で再現するか、仕上がりが最も大事。印刷会社には、入手済みのデジタル・データを予め試し刷りしてもらっていて、色の調子や傾向、共通して処理するポイントについて確認をした。ここからは祖父江さんと、印刷のプロフェッショナル、プリンティング・ディレクターとの世界。
「作品の色は、うん、だいたいよかったんじゃないかな」
祖父江さんが穏やかに口を開く。ゼンゼンだめ、写真が悪い、印刷が悪い、なんてことがなくて一同ほっとする。
「それでね、バックのグレーの色は、墨なしでCMYを均等にして、Cが強いくらいのグレーで統一した方がいいな。それに影をどう処理するか。影もCMYか、それとも墨か。あと、作品と接地面をどうするか。接地面には墨を入れた方がいいかもしれない」
「はい、わかりました」
家具や彫刻といった立体作品は、絵画などの平面作品と違ってどうしても背景が入る。グレーや白の大きな紙を背景に照明をあて、違和感のない影をつけながら撮影する。美術館から提供された写真は、同じカメラマンが同じ意図で撮影したものではないので、背景の色や立体感がまちまちになる。祖父江さんは、背景の色、影の色、そして作品の接地面に生まれる小さな影の色を同じ方向にもっていきたいと考えていた。

ヨーゼフ・ホフマン「椅子」1904年 大阪市立近代美術館建設準備室蔵
「偉そうだからこうしろっていいにくいんだけどなあ。…4%以内のCMYは+3%で、だいたい6%くらいになるといいかな。バックの色は色転びを避けて、シアンを気持ちプラス。そうすると自然に見えると思うんですね。赤っぽい感じも、うん、アリかな」
取り憑かれたように整然としゃべり続ける祖父江さん。色のパーセントが自分の中で視覚化されていて迷いがない。プリンティング・ディレクターも淡々と応じている。
「色は全体、優秀って感じです!網点200線がちょうどいいんじゃないかな。モアレっぽく見えないように、細かくしすぎてもネ。理想的ですね、うーん、もう、ボクなんかいらないんじゃなかな!」
印刷は大丈夫そうだ。


