東京・上野の国立科学博物館は、国内屈指の標本コレクションで知られる。なかでも大型哺乳(ほにゅう)類の剥製(はくせい)を115点も集めた展示は人気だが、その大部分はハワイの日系2世が集めたもので、ほかにも300点近い剥製が保管されていることはあまり知られていない。それら秘蔵のコレクションが3月、同博物館で開かれる「大哺乳類展 陸のなかまたち」で公開される。
剥製を収集したのは、ハワイの実業家だったW・T・ヨシモト氏(1909〜2004)。国立科学博物館によると、10代半ばに両親を亡くし貧しかった氏は、食べものを得るため狩猟を覚えたらしい。建設業で成功を収めた後も趣味として生涯続け、アメリカ、ユーラシア、アフリカ大陸などで記録に残っているだけで156回のハンティングに出た。1カ月以上動物を追い続けたときもあった。
狩猟を続けるうちに剥製を残すようになり、ハワイに私設の博物館も設立。60年代にはトナカイの頭骨標本を日本の国立科学博物館に寄贈した。この縁がきっかけとなり、97年に約400点のコレクションを同館に寄贈。詳細な記録資料も、のちに提供された。
「ヨシモト氏は記録魔。捕獲場所や日付にはじまる狩猟の記録は、科学的・人文学的にも意義が高い」と同館動物研究部の川田伸一郎研究員。「剥製としての美しさも超一級品で、頭部に浮き出た血管まで再現されている。生きていたときの行動を表したものもある」という。
ただ、常設展示されていない剥製群は収蔵庫にあって、一般には公開されていない。来春の「大哺乳類展」では、これらの中から特に質の高いものを選んで紹介。生きている動物ではありえない至近距離から、大迫力の剥製を「観察」できるようにする。
同展は、陸で暮らす約200種以上の哺乳類をさまざまな視点から楽しく紹介する。剥製のほかにも骨格や角、手でさわれる毛皮の標本などを多数展示する。3月13日から。