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【AERA発マネー】
 
西武再上場仕切る大物 旧大蔵人脈フル回転
  (2004年12月20日号)


 上場廃止が決まったばかりの西武鉄道を再び上場させようと、野村証券とメガバンクが動きだした。その中心にいる人物とは。

   ◇      ◇

 「長野厖士(あつし)さんが動き始めた」

 霞が関や銀行、証券関係者に噂が駆けめぐった。

 「西武鉄道の顧問弁護士になったそうだ」

 「大蔵省を退任した後、堤さんが面倒をみていたらしい」

 長野厖士氏は、元大蔵省証券局長。役人や金融関係者で名前を知らない者はいない。橋本内閣で金融・証券の自由化を加速した金融ビッグバンの筋書きをつくり、山一証券の倒産を処理した。「最後の大蔵官僚」「策士」などと語り継がれる。当時、実力者には夜の接待が付きものだったが、過剰接待で処分を受け、98年に大蔵省を去った。

 その長野氏が「西武鉄道・コクドグループの弁護士」として現れたのである。

 「堤義明さんが引退し、西武は司令塔を失った。大事な判断ができるのは長野さんだ」

 支援に回ったメガバンクの首脳はいう。西武鉄道の小柳皓正社長も、コクドの大野俊幸社長も経営のトップになる心積もりはなかった。修羅場を乗り切るには長野さんが仕切らざるを得ない、というのだ。

 「表には出ないことに」

 元証券局長といっても今は弁護士。西武グループでどんな役割を演じているのか。西武鉄道に問い合わせると、広報担当者は、

 「長野さんは顧問弁護士ではありません。何をしているかは分かりません。長野という顧問弁護士はいない、ということです」

 と言う。なおも、「経営に関わる仕事をしていると多くの人が言っていますが」と食い下がると、

 「当社は、西村ときわ法律事務所に有価証券報告書の仕事を依頼しています。その関係かもしれませんが、こちらでは分かりません」

 長野氏は東大在学中に司法試験に合格。大蔵省を辞めたあと司法修習を受けて弁護士資格を取り、02年に西村ときわ法律事務所に顧問待遇で迎えられた。金融・証券法制を専門にしているが、官僚時代に培った人脈を生かし、外資の投資ファンドの水先案内などをしているといわれる。

 西村ときわ法律事務所の長野氏の秘書は、

 「西武グループに関係する取材は一切お受けしていません」

 と口を閉ざすが、同氏と接触のある銀行関係者に聞くと、

 「表に出ないことになっている。仕事は西武グループの危機管理と再上場かな」

 山一証券の倒産ばかりでなく、北海道拓殖銀行の破綻、野村証券に端を発した証券不祥事……。どれも長野証券局長のころだ。最後は大蔵スキャンダルがはじけ、辞任に追い込まれた。危機管理の経験は豊富である。

 西武の危機は上場廃止だけで済みそうにない、と多くの人は見ている。証券取引等監視委員会が本社に立ち入り調査し、書類を押収した。インサイダー取引が摘発される可能性は大きく、粉飾決算が表面化するかもしれない。複雑に絡み合う堤氏一族の資産取引は国税庁も関心を寄せている。

 危機に強く、広い人脈

 大蔵スキャンダルでは、自殺者や逮捕者も出た。

 「ハラがすわった人だから、危機に強いし、人脈は広い」

 金融庁の大森泰人市場課長は長野氏を評価する。大森氏は長野証券局長の下で金融ビッグバンに取り組んだ。長野氏は法案が国会で成立する直前に退任したが、当時のいきさつを大森氏は専門誌、「金融財政事情」にこう書いた。

 「その後の筆者の行政官としての人生は、長野前局長の猿まねを試みているに過ぎない」

 接待汚職の後遺症で官僚も萎縮してしまっているが、長野氏のように公のため、あえてリスクをとってでも働く気概を持て、というのが大森論文の趣旨である。

 市場課長は東京証券取引所やジャスダック市場を指導・監督する部門。西武鉄道の再上場にも関係する。

 「東証に断られたから、ジャスダックもダメ、という理屈は成り立たない。虚心坦懐に上場基準に照らし判断すればいい」

 と大森氏は指摘する。

 長野氏との交流を尋ねると、

 「しばしば会うが、職務上、仕事がらみの話は一切しない」

 金融庁に長野氏が現れるのを職員たちはしばしば目撃している。五味広文長官の部屋も訪れているという。五味氏が大蔵省の特別金融課長だったころ長野氏は銀行局審議官。長野氏がビッグバンの旗を振った時、五味氏は銀行局調査課長として法律改正に取り組んだ。

 金融庁は、証券業界とともに銀行業界を監督する。西武グループへの融資の危険度を金融庁がどう判断するかは、立て直しへの重要なポイントになっている。

 五味氏は言う。

 「長野さんが訪ねて来たことはありましたが、西武の話は出ませんでした」

 西武グループ側では、経営刷新を諸井虔太平洋セメント相談役が委員長を務める経営改革委員会に委ねた。諸井氏を担ぎ出したのは、西武のメーンバンク・みずほコーポレート銀行の斎藤宏頭取だ。

 斎藤氏の動きは素早かった。堤氏が抜けた空白を速やかに埋めるため改革委員会をつくり、東京三菱銀行の畔柳信雄頭取、三井住友銀行の西川善文頭取と連絡をとり3行支援体制を組んだ。

 野村内には嘆きの声

 斎藤、長野両氏は旧知の間柄である。斎藤氏は頭取になるまで「万年MOF担」(大蔵省担当)だった。畔柳、西川両氏も頭取になる前は企画担当として大蔵省に出入りしていた。西川氏が大阪を主な舞台としたイトマン事件処理の担当役員として奮闘していたころ、長野氏は近畿財務局長だった。

 「メガバンク3行の支援がブレないのも、頭取たちと長野さんの人間関係があるからだ」

 と金融庁関係者はいう。

 この支援の輪に野村証券が加わった。西武鉄道の再上場を請け負ったのである。

 「投資家を欺いて上場廃止が決まったばかりの西武に、なんでウチが手をさしのべるのか」

 そう嘆く社員は少なくない。野村には、暴力団との取引や大口顧客への損失補填などの違法行為を経営トップが認めていた過去がある。「法令遵守」こそ生まれ変わった野村の合言葉だった。

 西武グループは40年余り虚偽記載を続けてきた。「法令遵守」には縁遠い。堤氏は記者会見で「なぜ上場していたか、その理由が分からなかった」とまで語った。

 野村には「上場を手伝ってほしい」という要請が全国あちこちの企業から寄せられる。ところが、「お宅はまだ法令遵守の体制が十分でない」として断るケースが少なくなく、「西武の再上場を引き受けると、客に説明がつかない」という声が支店からも上がっているという。

 野村証券広報室は「西武鉄道と守秘義務契約を結んでおり、取材に応じられない」としているが、内部の関係者は、

 「上場を担当する公開引受部でも『あまりに安易だ』と異論が上がったが、この案件は古賀信行社長のトップ判断だった」

 と指摘する。古賀社長もMOF担が長く、証券スキャンダルで辞めた田淵節也元会長の秘書も務め、大蔵省とは太いパイプがある。

 護送船団ネットワーク

 西武は来年3月までの上場を目指すとしていたが、あまりにも世間の風当たりが強く、事務的にも難しいため、「3月にはこだわらない」とトーンダウンした。ただ、支援銀行の幹部は、

 「批判は覚悟の上。上場を目指す強い決意が市場に伝わることに意味がある」

 という。年度内上場がダメになっても、「いずれは上場」との見通しさえつけば、西武株の担保力は確保される、というのだ。

 メガバンクが結束して上場を目指すのには事情がある。

 金融界から西武グループへの融資は総額1兆円を超える。そのかなりの部分は西武鉄道の株が担保になっている。上場廃止になれば担保価値が大幅に下がる。

 今はまだ正常債権に分類されている西武グループへの融資が不良債権へと転がりおちる可能性がある。ホテルやスキー場などの不動産に担保を切り替えるとしても、担保価値の評価は難しい。バブル崩壊後、不動産価値は急落し、リゾートブームも去った。収益から地価を逆算すると担保価値は融資に見合うものになるか、疑問視する向きは少なくない。

 西武鉄道は15日に臨時株主総会を開き、野村証券を上場の指南役にすることを正式に決める予定だ。

 「西武グループはこれから大リストラが始まる。指南役になれば再上場ばかりか、グループ企業のM&A(企業の合併・買収)などビジネスチャンスが転がり込む、それを野村は狙っている」

 関係者はそう指摘する。

 メガバンク3行と野村証券。日本を代表する金融グループが勢揃いして、ジャスダック上場を目指す。その司令塔が長野氏なのか。

 かつて大手銀行と野村が手を組み、大蔵官僚が指揮棒を振れば、だいたいのことは成功した。西武を巡る人脈図は、見方をかえれば「護送船団の生き残り」たちのネットワークでもある。

 ジャスダックの牛島憲明上場審査部担当役員は上場の条件をこう言う。

 「情報開示が徹底しているか。透明性が確保されているか。世間に疑いがもたれるようなことはないか。社会の納得が大前提です」

 (編集委員 山田厚史) (12/28)




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