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【AERA発マネー】
 
「ペイオフ発動」の極秘作戦 着々進む計画と当局の思惑
 (2005年1月3日―10日号)


 4月からペイオフが全面解禁される。預金が全額保護される時代が終わりを告げる。「発動しっこない」というのは早合点のようだ。金融当局はどうも本気でペイオフ発動を考えている。その狙いはどこにあるのか。(編集委員・山田厚史、AERA編集部・大鹿靖明)

   ◇      ◇

 金曜日の夕方のことだった。五味広文金融庁長官が、首都圏にあるアエラ銀行を「破綻」と認定した。

 金融整理管財人に預金保険機構を指定。同機構の理事がハンコと寝袋をもってアエラ銀行に駆けつけた。月曜の朝には預金者一人あたり元本1000万円までとその利息の払い戻しに対応しなければならない。突貫作業が始まった。

 同行の業務を停止し、預金残高を確定する。窓口だけではなく、あらゆるATMのデータ、テレホンバンキングを含むすべての預金情報を、徹夜で磁気データに置き換える。

 翌朝、同行本店から2台の車が出発した。預金データを移した磁気テープがジュラルミンケースに納められ、行員がしっかり抱えて乗り込んだ。万一の事故に備え、磁気情報は正本と副本の2セット作られ、別ルートで預金保険機構のシステムセンターに運ばれた。

 預金保険機構で名寄せ

 同一預金者の複数の口座を照合する「名寄せ作業」が始まる。磁気テープは専用のソフトで処理され、日曜の朝までに仮名・借名口座をふるい落とす。日曜の午後、処理された磁気テープがアエラ銀行に送り返された。月曜、シャッターが開くのを待ちかまえていた預金者に、支払いが始まった。

 決済業務も月曜、いつもと変わりなく始まった。普通預金も定期預金も凍結されるが、当座預金など決済専用の無利息預金はこれまで通り保護される。

 だが、アエラ銀行は消滅。業務は預金保険機構に引き継がれ、半年先には他の金融機関に営業権が売却される。

 アエラ銀行の債務超過額の確定は時間をかけて行う。これが決まらないと預金元本で1000万円を超える部分の清算払いができない。同行の財務状態によって支払い額が決まってくるが、清算には1年近くかかる――。

 以上が、預金保険機構が描くペイオフ発動時のシナリオだ。

 密かに進む第1号選定

 「世間は、やらないと思っているかもしれないが、ペイオフは必ずやります」

 金融庁の幹部はそう語った。ペイオフ第1号となる金融機関の選定がすでに密かに進められている。

 金融不安が高まっていたころなら、ペイオフ発動は日本発の金融恐慌を起こしかねなかった。しかし、大手銀行の不良債権半減にメドがついた今、ペイオフ解禁の環境は整った、というわけだ。

 「第1号は地域の金融に衝撃を与えない小さなところ。その結果を見て、あるいは余波として、新たな破綻認定が出るかもしれない」

 関係者は声をひそめて言う。

 「Xデー」に備えて、預金保険機構には4分冊の「破綻対応マニュアル」が用意してある。「金融整理管財人団」「資産評価」「ブリッジバンク」「システム処理」の四つだ。あわせると厚さは30センチにもなり、詳細な対応策が列挙されている。

 中には「パニック対応」という項目もある。群衆行動のメカニズムが金融機関破綻時にどう現れるかといった過去の例を分析。「対応策」「財務局および警察との連携」など留意事項や手順が書かれている。預金者を落ち着かせる最大のポイントは秩序ある預金の払い戻しだ。

 「勝負は月金処理」と言われる。銀行業務が終わり、破綻認定が宣言される金曜の午後6時から翌週月曜午前9時の開店までの63時間。あらかたの作業はシャッターが閉まっている間に終えなければならない。

 当初は、支払いの計算に時間がかかることを想定し、払い戻しは当面の生活費として60万円までにとどめる予定だった。しかし、「無用の混乱が起こる」との判断から、月曜の朝には1000万円とその利息の支払いができるように体制を整えた。どんなに遠隔地の金融機関でも、6時間以内には東日本にある預金保険機構のコンピュータールームに磁気テープが届くよう、03年10月から隠密裡に「予行演習」が行われている。

 全国650の金融機関のうち、すでに500以上が演習を終えた。預金保険機構は7月には職員8人からなる研修課を設け、約50の金融機関にペイオフ発動時の心構えや対応策の指導を行った。

 「自己責任時代」を意識

 預金保険機構の「名寄せシステム」は2000万口座の処理が可能だ。すべての金融機関に対し、指定したフォーマットに預金者の住所、氏名や口座番号、預金額と利息などが入力できるよう準備させている。磁気テープが、ペイオフの際の混乱を最小限に抑え込む「命綱」でもある。

 「ここまで準備したのだから、一度は発動があるでしょう」

 預金保険機構の職員は、積み上げてきた作業を振り返る。

 金融庁幹部も言う。

 「日本の金融が自己責任を軸とする新たな時代に入った、という意識を預金者に植え付けるには、ペイオフが現実に起きるという経験が必要だ」

 12月18日、名古屋市で日銀と預金保険機構による「金融セミナー」が開かれた。メーンスピーカーは永田俊一預金保険機構理事長。

 「預金の全額保護がいつまでも続くと、経営が悪化した金融機関が採算を度外視した高い利息で預金を集めることができる。破綻しても国が保護してくれるというモラルハザードが起きてしまう」

 国債消化への効果も

 永田理事長はペイオフの必要性を説いた。聴衆は約200人。金融関係者だけでなく資産家や、マンション管理組合の役員など大口預金者が熱心に聞いていた。

 セミナーは「全国キャラバン」として各地を回っている。初回は東京で伊藤達也金融相が担当。最終回はペイオフ解禁の直前、3月19日に大阪で福井俊彦日銀総裁が登場する。

 着々とすすむペイオフ準備。その裏にはもう一つの狙いがある。

 「財務省が国債消化対策にペイオフを利用しようとしている。危ない金融機関に預金するより、国債を買った方が安全だ、と資金移動を促す絶好の機会と見ている」

 関係者はそう指摘する。

 財務省幹部もその見方を否定しない。05年度末には国債残高が538兆円に膨らむ。これまでのようにどんどん発行して資金調達していくのは難しくなる。国債を大量に買っているのは金融機関と日本銀行だ。景気が回復に向かえばやがて金利が上がり、保有している国債の価格は低下する。国債消化が鈍ることは避けられない。

 新たな受け皿は個人投資家しかない、と財務省は考える。個人消化は現状では3%。伸びる余地はある。タレントを起用して宣伝に力を入れているが、「預金が危ない」と大衆に印象づけるペイオフは、「安全な国債」をアピールする何よりの宣伝効果になる。

 近くに銀行の店があるから預けている、という預金パターンを国家挙げて変更しようというのがペイオフ全面解禁でもある。

 金融機関の内情は分かりにくく、自己責任の時代と言われても、正確な情報を預金者がつかむことは難しい。そんな事情はお構いなしに「預金凍結第一号」に向け、作業は淡々と進んでいる。

 《どうなるペイオフQ&A》

 ●そもそもペイオフって何?

 金融機関が破綻した際、その財務状況に応じて預金の支払い額が決まる制度のこと。制度は1971年からあったが、金融機関の破綻が本格化した96年に預金を全額保護する「ペイオフ凍結」が決まった。

 その後、2002年4月にペイオフが部分解禁され、定期預金、定期積金、元本保証契約のある金銭信託(ビッグ)などについて、間違いなく保護する対象が1000万円までの元本とその利息までになった。05年4月から普通預金も同じ扱いになる。

 ●全額保護の預金はなくなるの?

 利息がつかない当座預金など決済用の預金は、ペイオフ全面解禁後も全額保護の対象となる。ペイオフ全面解禁を前に、個人でも決済口座として利用しやすい無利息預金を設ける金融機関が相次いでおり、629の金融機関のうち、161金融機関が導入済み。446の金融機関が導入を検討している(04年11月現在)。

 ●では少なくとも1000万円までは保護される?

 そうではない。保護されるのは預金保険の対象商品。信託銀行の金銭信託ヒットは元本保証契約がなく、預金保険の対象外だ。投資信託や株ももちろん対象外。「預金」といっても仮名・借名口座は対象にならない。外貨預金も保護対象ではないから1000万円という定額の保護はないが、破綻金融機関の財産状況によっては一部が払い戻される「概算払い」の対象にはなっている。

 ただ、同じ外貨預金でもシティバンクなど在日の外国銀行の場合は、日本の預金保険制度自体に入っていないため、そもそも対象となっていない。国内では郵貯が対象外だが、現時点では国が全額を保証している。

 農協や漁協には農水産業協同組合貯金保険機構という別制度がある。

 ●ペイオフが発動されたら、1000万円以上はまったく返ってこない?

 元本1000万円以上を預けた人の場合、金融機関の破綻時の財産状況に照らし合わせて、とりあえず一定額が戻ってくる「概算払い」が行われる。さらに概算払い額を上回る回収ができた場合にはその分が「精算払い」されるので、1000万円を超える部分もある程度は返済されそうだ。

 ●ペイオフが発動されるのは、どんな金融機関?

 金融機関が債務超過などで破綻する際には二つのケースが考えられる。ひとつは、首相が「信用秩序の維持に重大な支障が生じる」と考える「異常事態対応型」。りそな銀行や足利銀行がこの例で、預金は全額保護された。

 ペイオフが発動されるのは、これとは別の「平時の破綻」といえるケースだ。金融庁幹部は「金融システムや地域経済を揺るがさず、影響が限定的な小規模の金融機関で実施される可能性がある」と言っている。

 《2005年4月からの預金保護の姿》

 <決済用預金、当座預金>

  全額保護

 <普通預金、定期預金、定期積金、ビッグ、ワイド>

  合算して元本1000万円までとその利息を保護。1000万円を超える部分は、破綻した金融機関の財産の状況によって支払い額が決まる

 <外貨預金、ヒット>

  保護対象外 破綻した金融機関の財産状況によって支払い額が決まる

(01/12)




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