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厚生年金基金を解散して確定拠出年金を全面導入へという方針決定から、わずか半年で実施にこぎつけた日商岩井で、人事部長として年金制度改革の陣頭指揮にあたった長久保敏さん(現・日商岩井プラント機器社長)に、短期間で実現できた秘訣と確定拠出年金制度への要望を聞いた。
−−01年夏の時点では、まだ確定拠出年金法も施行されていない段階ですし、厚生年金基金を解散して確定拠出年金に全面移行するという制度変更を実際に経験した人は、日本に一人もいませんでした。そんな中で手探りしながら半年で実現できた理由は何だったのでしょう。
「正直にいえば、当事者として間違いなく半年、つまり02年3月までに実現できるとは思っていなかった。しかし、年金制度の改定は1期(1年)に1回しかチャンスがない。02年3月を逃すと1年待たなければならない。会社としては、早く年金問題に決着をつけたかった。やるしかない状況だった」
「みなさんが頑張ってくれたからできたんだが、あえて実現できた理由を探せば大きく分けて四つあると思う。最初に、中核になったメンバーのやる気、次に年金に対する危機意識が他の企業より強かったこと、3番目に労働組合の理解、そして最後が経営トップの後押し、だと思う」
−−中核になったメンバーは5人でしたか。
「基金の職員5人が、半年間、本当に1日24時間、極めて濃縮した時間を年金制度の改定に捧げてくれた。5人の中には、基金が解散すれば、自分の職場を失う人もいた。だから当初は基金解散という考えに距離を置いていたと思う。当然だろう。しかし確定拠出年金の制度運用で引き続き頑張ってもらうようにして、その距離を取り除いた。
基金を解散するとなった場合、解散する当事者に本気でやる気になってもらわないと、スムーズな仕事などできない。基金がいろんなバックデータを持っているわけだし。5人全員が『日商岩井の年金問題を解決しよう』と本気で思ってくれたことが、短期決戦を成功させる最初のカギだったと思う」
−−年金に対する危機意識の違いとは具体的にどんなことですか。年金の運用が低迷して、積み立て不足が出ている現状では、どんな企業でも年金制度に危機意識を持っていると思いますが。
「確かに現在ではどんな企業も年金制度を真剣に考えざるをえない状況だ。それに加えて、日商岩井にはリストラという特殊要因が重なった。年金財政の悪化は5年ほど前から顕在化していたが、業績が悪化したため大幅なリストラを断行し、2500人以上に退職してもらった。年金受給者であるOB2000人に対し給付を支える社員5000人という構図が、わずか2年ほどの間に、OB5000人に対し社員2500人と逆転してしまった。しかも、実際に年金を受け取り始めるのは数年先という、60歳以下の待期者が激増した。こうしたことから、確定給付型の年金を支えていくだけの基盤が日商岩井にはもうないと判断するしかなかった。下手をすれば、年金の積み立て不足が原因で倒産するかもしれない、という考えも頭をよぎった。これが他の企業にはない、危機意識の真相だ。年金制度を改定しなければという切迫感が違った」
−−半年間の動きを取材して一番印象的だったのは、ふつうなら会社側と対立することに存在意義を見いだすと思われる労働組合が、極めて会社に近い発想をしたということでした。組合との関係はどんなふうだったのでしょうか。
「もともと、日商岩井では会社と労組は『対立の構図』を持っていなかったということが素地としてあると思う。団体交渉しているときも、正面から向き合って戦っているというより、視点の違う人間が同じ議題について話し合っているという感じだった。そういう素地はあるにしても、今回の半年間の中で、労働組合が積極的に交渉に臨む体制をとってくれたことが、どれだけ進行に寄与したか、計り知れない」
−−労組の発想からすれば、基金の解散や確定拠出年金導入に応じる代わりに、別の点で会社に譲歩させる、というのが常套手段だと思うのですが、今回はそうしたことはなかったようですね。
「大方針が決まった01年10月ころから、労組がよくやる、他の案件と年金制度の改定を一緒にして、むやみに交渉期間を長引かせるような考えは持っていなかったと思う。やはり、年金に対する危機感が根底にあったんだと思う。
社員へのフィードバックも実に丹念にやってくれた。制度設計をめぐっての具体的な協議で計4日間徹夜したときも、情宣(情報宣伝)ビラなどを使って協議の進捗状況を逐一社員に周知してくれたし、社員が持っている不満のすくい上げなども着実にやってくれた」
−−半年間を振り返って、成功の一番のポイントは何だと思いますか。
「理由の最後にあげた、経営者の後押しだと思う。半年で本当に大丈夫か、できるのかと問われて、ハードルは高いが実現のチャンスはあると答えたら、『ではやりなさい』となった。年金は制度も複雑で理解するのが難しいので、任せるといっても、適当にやっておいてくれという経営者が多い。でも、日商岩井は本当の意味での経営トップの了解があった。本気でバックアップしてくれないと、例えば、対官庁、対OB、対労組にしても、実働部隊として迫力が出ない。やはり経営者が本気で危機感を感じたからこそ、一度もぶれないでバックアップしてくれたのだと思う」
−−ところで、最も早く確定拠出年金を導入した企業の一つとなったわけですが、実際に移行してみて、制度としての日本の確定拠出年金で足らない点はありますか。
「やはり、一番の問題点は、掛け金の少なさだろう。企業型では、日商岩井のように、他の企業年金がない場合で年額43万2000円。米国の半分以下だ。財務省の考え方もあって少額になったんだが、これは米国と同程度の年額100万円くらいまで認めて欲しい。
年金は、会社が仮に運用しているが、給料と同じで本来は社員のもの、という考えが正しいと思う。自分のカネを自分でリスクをとって運用するのは当然だ。確定拠出年金の考えは正しい。だからこそ掛け金の額はもう少し認めるべきだろう
個人の上乗せ拠出も含め、掛け金の上限が年額100万円程度になれば、預金中心の個人の金融資産が株や債券に移るきっかけにもなるはずだ。企業の年金運用では、株などリスク資産への運用を全体の50%以下に抑えるなどの社内規定をもつところも多く、マーケットが硬直しがちだ。個人の資産が入ってくれば、この構造も大きく変わることになるのではないか」
−−日本の確定拠出年金は、米国と違って、60歳になるまで引き出せませんね。
「60歳の定年前に会社を辞める人は、会社を起こすとか、ローンの返済をするとか、さまざまな理由でまとまったカネを必要とすることが多い。そういう人のために、条件付きで構わないから60歳前でも引き出しを認めるようにしてほしい。それがだめなら、確定拠出年金の資産を担保に融資を受けられる制度もいいと思う」
−−運営管理機関などの、手数料の高さも指摘されていますね。
「金融機関は手数料で食っているわけだし、市場のボリュームとのバランスもあるから難しいが、記録関連だけで、1人年間3000円もかかるなど、やはり手数料は高すぎると思う。低金利で運用収益を見込みにくいだけに、手数料が高いと、安全確実な運用だけではすぐにマイナスになってしまう」
(日商岩井はこれで終わります)
(09/04)
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