asahi.com
天気  辞書  地図  サイト案内  アクセスTop30 
サイト内検索:
マネー 社 会 スポーツ 経 済 政 治 国 際 サイエンス 文化・芸能 ENGLISH 
  >視点  >市況  >悩み  >株主優待  >情報ファイル  >年金解剖学  >経済気象台  >経済を読む  >AERA発  >〈解説〉マネー  >投資信託   
     
 home >マネー >〈特集〉年金解剖学 >週刊朝日・AERAから   

   〈特集〉年金解剖学  
【週刊朝日から】
年金、将来世代でも「2.1倍もらえる」は厚労省のまやかしだ

週刊朝日はこちら

 少子高齢化が進むこの国の年金を、どうしたらいいのか――。「年金改革」は9日に投票日を迎える総選挙最大の争点だ。ところが、「将来世代でも払った保険料の2.1倍の年金がもらえる」という厚生労働省の試算に、疑問の声が上がっている。議論の前提になるはずの数字に「トリック」が仕掛けられているというのだ。

 ここに年金官僚の手によって“封殺”された1枚のペーパーがある。

 タイトルは「世代別、年金の受益と負担の格差」。民間サラリーマンが現役時代に負担する保険料に対し、引退後にいくら年金がもらえるかを、1940年生まれから90年生まれまで10歳刻みで試算したものだ。

 40年生まれと50年生まれは差額がプラス、つまり受け取る年金額のほうが多い。これに対し、60年生まれ以降の若い世代はすべてマイナスで、保険料負担が上回るという結果になっている。その差額は90年生まれで約1300万円の負担超過。

 試算をした跡田直澄・慶大教授は、内閣府経済社会総合研究所の客員研究官も務める公共経済学の専門家だ。2月20日の経済財政諮問会議で、奥田碩・日本経団連会長や本間正明・大阪大教授ら、民間議員4人が年金改革を主張する際の資料として添えられるはずだったが、直前に別のグラフに差し替えられた。

 なぜ、試算は闇に葬られたのか。官邸関係者が解説する。

 「厚生労働省は、諮問会議の民間議員が年金の世代間不公平の話を取り上げようとすることにいら立っていた。跡田先生の試算結果を知ると陰に陽に圧力をかけ、会議当日は官邸にも報告を上げて、ボツにするという最終結論を出したんです」

 それから半年後――。

厚生労働省が試算した厚生年金の世代間格差(クリックすると拡大した図が出ます)
 厚労省は「年金制度における世代間の負担と給付の関係について」という試算を公表した。その主要部分が、右の表の左側(A)だ。

 厚生年金の保険料負担額に対する年金給付額は、「70歳」(05年時点の年齢)の夫婦で「6.6倍」と最も高く、年齢が下がるにつれ低くなる。ただし、これから生まれる世代でも、負担に対する給付の倍率は「2.1倍」。

 「もし厚労省の試算が本当なら、将来世代も元利合計の2倍以上の年金がもらえるわけだから、だれも困る人はいない。年金不安は解消ですよ」

 と言うのは、富士通総研経済研究所の松山幸弘主席研究員だ。倍率が最低でも2倍を超えた理由については、こう指摘する。

 「実は年金額を大きく、保険料負担を小さく見せるトリックを使っているんです」

 いったい、どんな「トリック」が仕組まれているのか。カギは現役時代に払った保険料と、退職後に受け取る年金を比較する際のものさしだ。

 年金の加入期間と受給期間は計60年間にも及ぶ。この間に賃金や物価が上昇する前提で試算しているため、保険料負担に対する年金給付の総額を単純に名目額で比較すると、「70歳」の夫婦で「11.7倍」、「20歳」以下の世代でも「4.2」倍になる(厚労省試算)。貨幣価値は経済環境で変わるので、実質的な年金の価値を知るために、保険料も年金も一定の換算率で65歳時点の額に置き換えて比較する。

クリックすると拡大した図が出ます
 問題はその換算率の中身だ。厚労省は、89年に初めて試算を公表してから99年の前回試算まで、運用利回り(99年は原則4%。現在は同3.25%)を使っていた。ところが、今回はなぜか、もっと低い賃金上昇率(同2%)を採用した。低い利率で掛け算をする保険料負担は小さく、逆に割り算をする年金給付は大きく換算された(右の図を参照)。

 厚労省は今回も、運用利回りで換算した試算を示してはいる。表の右側(B)がそれで、「10歳」以下はすべて「1.4倍」と、99年試算に近い数字が並ぶ。ただ、今回はあくまで「参考値」にすぎない。運用利回りから賃金上昇率に換算率を切り替えた理由について、年金局の担当官はこう説明する。

 「公的年金は世代間扶養の仕組みであり、貯蓄ではありません。貯蓄なら運用利回りで換算すべきでしょうが、社会保障にはなじまないという意見が省内や専門家から出ていた。厚生年金の給付額は賃金上昇率に応じて増えることから、今回から賃金上昇率で換算することにしました」(坂本純一数理課長)

 ○2倍切る若年の単身者や共働き

 だが、富士通総研の松山氏はこう反論する。

 「世代間扶養といわれる公的年金にも積立金があり、厚労省所管の年金資金運用基金が『自主運用』している。当然、そこでは賃金上昇率を上回る利回りを取るべく運用しており、厚労省の説明には矛盾がある」

 ここで、上の表(A)で網掛けをした「現在価値割引後」の欄を見てほしい。

 生涯にもらえる年金額は「年金給付額」のところに示したように、将来世代ほど多くなるが、それを「現在価値」に換算するとこうなるという額が示されている。その額は「70歳」が4500万円なのに対し、「マイナス20歳」は1億円を超すという。

 「世代間の不公平」は、今の年寄りより若者が得をするという話だったのか?

 実はここにも「数字のトリック」がある。

 この「現在価値」は、物価上昇の影響だけを換算しているのだ。日本総研の西沢和彦主任研究員が説明する。

 「この試算は現役労働者の賃金が物価を上回ってずっと伸びていくことを前提に計算されたものです。賃金上昇が物価を上回らなければこの金額はありえないということです。賃金上昇は生活水準の上昇を意味します。金額だけを見ると、1億円は多いように見えますが、隣に住んでいる現役の生活水準に比べて、年金生活者の生活水準は相対的に落ちる結果になるということもありえます」

 厚労省はここでも試算方法を変えていた。99年試算では、「現在価値」の換算に賃金上昇率を使っていたのだ。

世代別、生き方別の年金額(クリックすると拡大した図が出ます)
 そこで、本誌は、厚労省での取材をもとに、「家計の見直し相談センター」のファイナンシャルプランナー、藤川太氏の協力を得て、賃金上昇率で換算した年金額を試算したので、右の表を見てほしい。

 まず、「厚労省のモデル世帯」からだ。表の「年金給付額」を賃金上昇率で換算したのが「受給総額」だ。A表に比べて若年世代の「受給総額」は大きく減ってしまう。なお「40歳」より若い世代で「受給総額」が増えているのは、平均寿命が延びるためで、毎月の受給額が増えているためではない。

 さらに、寿命の延び以外にも、世代間格差を見えにくくしている要素がある。

 「専業主婦の年金月額」の欄を見てほしい。保険料を払わないでも国民年金をもらうことができる「第3号被保険者」としてもらう年金額を示している。3号制度は86年度の制度改正でできたために、生まれた年が早いほど、この額は少ないが、夫婦の年金月額を合計すると、若年世代の合計額を上回る。

 詳細を検証するため、厚労省にシングル世帯の年金額を聞いたところ「計算はできるが、公表することは考えていない」(数理課)との答え。

 しかたがないので、公表されている「モデル世帯の年金額」の65歳時点の額などをもとに推計したのが右側の「シングル」と「共働き」の世帯の年金額だ。

 シングル男性の「65歳時の年金月額」の欄にあるのが夫の年金額にあたる。

 いずれも年収が600万円弱の人を前提に計算し、賃金上昇率で換算した現在価値で示した。年金改革で年金が少しずつカットされていくことがわかる。65歳時点の年金月額しか公表されていないため、給付総額では、65歳以降にもらう年金額しか推計できなかったが、早く生まれた人ほど65歳より前にもらう年金が多い一方、「40歳」以降は65歳にならないと年金が支給されない。

 平均寿命が延びていく前提のため、65歳以降の給付額では若い世代も遜色がないが、保険料はこれから年収の2割(労使で折半)まで増えていくので、若い世代ほど多くなる。その結果、受取額を保険料総額で割ると、若い世代の負担の重さが浮かびあがる。男性の場合、「70歳」が「4.6倍」なのに対して、「10歳」からは「1.3倍」になってしまう。女性は同じ保険料でも、寿命が長いために受取額が多い。それでも「1.7倍」まで下がるのだ。夫婦が同じ年収の「共働き世帯」だと、これが「1.5倍」まで下がる。

 保険料を払わないでもいい第3号被保険者がいれば倍率が増えるのは当然だろう。  しかし、仮に「1.3倍」でも、保険料の元利合計よりも多い年金をもらえる。それなのに、どうして2倍以上などという夢のような倍率を強調するのだろうか。

 冒頭で紹介した「幻の試算」の作者、跡田教授が言う。

 「厚労省試算では、負担に対する給付の倍率ができるだけ大きくなるよう、換算率を調整したのではないかという疑念が拭いきれません。事業主負担分を入れても損にはならないと言いたいがために、作為的に『2倍』を死守しようとしたのではないか」

 厚生年金保険料は労使折半だから、企業の負担分を入れると、負担に対する給付の倍率は半減する。2.1倍ならぎりぎり「払い損」にはならないが、運用利回りを換算率に使った場合の1.4倍では、負担した保険料の3割が戻ってこない計算になる。

 もちろん、厚労省はこうした見方を全面的に否定する。

 しかし、10月下旬に内閣府が発表した「経済財政白書」には厳しい試算が載っている。厚労省試算とは前提が異なるため単純な比較はできないが、2010年生まれのサラリーマンの夫と2歳年下の専業主婦の夫婦の場合、負担に対する給付の倍率は本人負担分だけでは1.2倍だが、企業負担分を含めると0.6倍にすぎない。単身男性の場合、1990年生まれでも本人負担分だけで0.8倍と、すでに「払い損」なことがわかる。

 厚労省が言うように、公的年金は世代間扶養の仕組みだから、世代や世帯の違いによってある程度の格差が出るのは仕方ない面がある。ただ、その格差から国民の目をそらせるため、都合のいい数字が独り歩きするようでは困る。

 富士通総研の松山氏は、そうした政治的影響を排除するため、年金の数理計算を行う部署を厚労省から切り離し、中立機関にすべきだと説く。さらに、国会議員を10年間務めると年間400万円超が公的年金に上乗せしてもらえる「国会議員互助年金」の廃止こそが、真の改革への早道だと訴えるのだ。

 「年金は総選挙最大の争点といわれますが、当の国会議員や国家公務員は厚生年金の直接の当事者でないため、本気で改革する気がありません。真の改革のためには、国家公務員も国会議員も、厚生年金に一本化して、当事者になる必要があります。議員年金廃止を打ち出さないマニフェストは、全党不合格です」(週刊朝日・市川裕一、松浦新)

前へ | 一覧 | 次へ



株価検索


| 社会 | スポーツ | 経済 | 政治 | 国際 | サイエンス | 文化・芸能 | ENGLISH |
GoToHome ニュースの詳細は朝日新聞へどうぞ。購読の申し込みはインターネットでもできます。 GoUpToThisPage
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
| 著作権 | リンク | プライバシー | 広告掲載と注意点 | アサヒ・コムから | 朝日新聞社から | 問い合わせ |
Copyright Asahi Shimbun. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission