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   〈特集〉年金解剖学  
【週刊朝日から】
世代別、収入別、夫婦の年金 一発早見表

週刊朝日はこちら

 年金がほとんどもらえなくなるので、老後の貯蓄は1億円が必要になる――? 不安ばかりが先行する年金改革だが、厚労省案の年金は、夫婦でいったいいくらもらえるのか。どんな生活をしたら、老後の貯蓄ができるのか。総務省の家計調査をもとに、徹底試算した。

 食費は1日2600円、教養娯楽費は月3万8000円、交通・通信費は月4万3000円、教育費は月2万5000円、住宅費は月6万円――。

 厚生労働省が年金のモデルとしている年収572万円の世帯の平均的な支出を、総務省の家計調査をもとにした分析にあてはめるとこんな生活になるが、このペースで暮らせば、年間100万円前後の貯金ができて、厚労省案が実行されても、65歳以降もいまの生活水準が維持できる。

 本誌でおなじみの「家計の見直し相談センター」のファイナンシャルプランナー、藤川太氏が、厚労省の改革案、総務省の家計調査などの分析を通して得た結論だ。

 家計調査は、総務省が全国の約9000世帯を対象に毎月の収支を細かく聞いているもので、日本の家計の平均的な収支を知る資料といえる。

 藤川氏は、厚労省の改革案を分析して、【1】の早見表のように年収や世代別の年金月額を算出し、家計調査に示されている現役時代の生活を維持していくために必要な65歳時点の貯蓄額を算出した(【2】の早見表)。

厚労省のモデル年金世帯の貯蓄の推移(クリックすると画像が拡大されます)
 そのうえで、厚労省モデルの年収を家計調査にあてはめてシミュレーションした結果が右のグラフだ。

 夫婦の年齢が同じ44歳で、専業主婦の妻と中学2年生、小学5年生の子供がいるという前提で試算した。厚生年金は、現役時代の平均収入などに比例して支給額が決まる。生涯の年収が変わらないことはありえないが、シミュレーションは、便宜上、年収が変わらないでモデル年金の20万8000円(現在価値)がもらえる想定になっている。この年金だけでは、現役時代並みの生活はできないので、貯金が必要だ。

 そこで、シミュレーションのうち、貯蓄残高の推移をグラフにした。まずは、棒グラフで示した「標準」の貯蓄の推移を見てほしい。厚労省のモデル年金の世帯は、65歳時点で1200万円余りの貯蓄が必要になっているが、「標準」であれば達成できることがわかる。

 「標準」というのは、家計調査の分析から得られた消費モデルを厚労省のモデル世帯にあてはめた場合。額面の収入から何パーセントを消費と借金の返済に回すかを表す「消費比率」は67%になっている。ただし、支出には税金のほか、厚生年金などの社会保険料を負担する「天引き負担」があるので、33%が貯蓄というわけではない。現状で、家族4人だと「天引き負担」は約16%になる。ということは、貯蓄は約17%なので、年間99万円の貯蓄が残る。

 年金保険料は現在の13.58%(労使折半)から、2022年にかけて、20.0%(同)まで上がる想定なので、「天引き負担」は増える。そのぶん貯蓄に回るカネは減るので、貯蓄率は約15%(年間約84万円)まで下がっていく。

 だが、子供が独立すると生活費が減る。そのため、50歳代半ばからは貯蓄率は増える。子供が1人独立したあとの消費比率は約58%(貯蓄率約23%)、夫婦2人の消費比率は約50%(貯蓄率約29%)に減る。

 藤川氏が説明する。

 「『標準』の生活をすれば、厚労省案で年金を減らされても、なんとか老後の生活を乗り切る貯蓄がたまります。試算では年収の2年分の退職金が出る設定にしたために、60歳で定年になったあとは働かないでもいいという結果が出ましたが、これからは退職金が出るとは限りません。現在44歳の人は、64歳から厚生年金の一部が出ますが、退職金が出なければ、満額の年金が出る65歳までは、現役時代の半分ぐらいの報酬で働く必要があります」

 試算は、貯蓄ゼロからスタートしており、企業年金もないという設定になっているので、厳しめとも言える。一方で、今後は年金保険料だけでなく、医療、介護の保険料も税金も増えることが避けられないし、全国の平均なので、都市部に住む人にとっては住居費の負担が重いことが考えられる。また、子供の数や生まれた時期によって、貯蓄率は大きく変わる。

 そこで、標準よりも消費比率が5%分低い「低位」(62%)の生活と、消費比率が5%分高い「高位」(72%)の生活をした場合についても、折れ線グラフで示した。現役時代に消費比率が高い生活をすると、老後もそれを引きずって消費が多くなる。それでは、生活が成り立たなくなる心配があるということだ。

 家計調査をもとにした藤川氏の分析によると、年収別の消費比率は、400万円は82%、500万円は72%と高いが、700万円は63%、900万円は59%と、年収が高いほど低くなる。

 藤川氏は、こう言う。

 「一般的に、収入が多い人ほど消費比率は低くなるので、年間の貯蓄は多くできます。だからといって、安心はできません。厚生年金は、現役時代の収入が少ない人ほど手厚く支給される仕組みなので、現役時代の生活レベルを維持しようとすると、実は、収入が多い人も大変です」

【1】年収別、新年金制度で65歳になったらもらえる年金額(クリックすると画像が拡大されます)
 そこで、総選挙後に公表された厚労省案が実現した場合、年収や夫婦の働き方で年金額がどう変わるかを試算してもらったので、右の「年収別、新年金制度で65歳になったらもらえる年金額」の一発早見表を見てほしい。

 モデル年金に近い年収600万円の人が夫婦でもらう年金額は、来年65歳になる人の場合、月24万3000円だが、04年に55歳の人が65歳になるときには、月21万5000円(04年の価値)に下がり、45歳の人は月21万2000円になって、その後、安定する。

 この案を日本総研の西沢和彦主任研究員は、こう見る。

 「厚労省が02年暮れに出した改革案は、約30年かけて年金の給付水準を下げていくとしていましたが、それを10年に短縮した結果、減り方は急になった半面、将来世代の年金の減り方を少なくすることができる改革案になりました。世代間の不公平に対する批判に配慮した結果と言え、評価できると思います」

 この年金削減策は、絶対額が減らないことを重視しているため、現役世代の給料が増える分ほどは年金額を増やさないという手法で実質的な支給額を削っていく。

 実は、厚労省が公表した試算額は、物価上昇などを前提としているのでこの金額よりも多く、将来世代も支給額は増えることになっている。それでは将来の生活設計を誤ることになりかねないので、賃金上昇率を考えて04年の価値に置き直すと、この額になる。

 ここで、支給額だけでなく、「代替率」にも注目してほしい。選挙戦などで議論の焦点になっていた「給付額の水準」だ。「現役時代の6割」だとか「半分」だとか言われているものだが、ここに並んだ数字はそれに比べると、おしなべて低い。

 「600万円」は、現在の代替率が「49%」だが、将来は「42%」まで下がる。共働きでそれぞれ年収900万円の夫婦(合計1800万円)の場合、もともと「31%」しかないが、「27%」まで下がってしまう。

 これは、厚労省が示している「代替率」が、税金や保険料の負担を除いた「可処分所得」に対する年金の割合で計算されているためだ。

 モデル年金で言えば、厚労省の「代替率」は現在の「59.4%」が10年後に「54.7%」に下がるとしているので、給付額は1割は下がらないように見える。ところが、額面に対する「代替率」を見ると、現在の「49.9%」が10年後に「44.1%」に下がり、下落率は12%になる。

 ○年金水準を高く見せるカラクリ

 なぜ、こんなことが起きるのか。それは、年金の保険料率が上がるため、可処分所得は額面が増えるほどには増えないためだ。要するに、可処分所得を基準にすると、保険料を上げれば、年金額が同じでも「代替率」は高く見せることができるのだ。

 実際、厚労省の試算では、10年間の「調整」のあとは、給付水準は「54・7%」で安定することになっているが、実際の年金額が安定するまでにはさらに10年近くかかる。

 厚生年金の保険料率が22年まで上がり続け、現在の13.58%(労使折半)が20.0%まで上がるため、実際の年金水準は下がっても、可処分所得に対する「代替率」は下がらないカラクリだ。

 今後、高齢化に伴って、年金以外の医療や介護の保険料率も引き上げは避けられない。国と地方の債務を考えると、税負担も増えるだろう。ところが、厚労省の試算には年金保険料率のアップしか織り込まれていない。実際の年金額も、「可処分所得」が基準になって決まる。年金当局にとっては、国民負担が増えれば増えるほど、年金水準を高く見せることができる制度なのだ。

 共働き夫婦についても、年金額を試算した。見比べていただければわかるが、世帯の年収が同じなら、夫婦合計の年金額は同じになる。「専業主婦世帯は『得』だったはずでは」と疑問を持つ方もいるだろう。しかし、厚生年金には、「報酬比例」で支給される部分と、同じ期間加入していれば給料に関係なく同額がもらえる「基礎年金」がある。「サラリーマンの妻」に「報酬比例部分」が支給されないのは当然としても、「基礎年金」がないと、夫婦の年金で見た場合には「基礎年金」がそれぞれに支給される共働き夫婦より不利になってしまう。

 ただし、厚労省の試算に入っていない支給項目もある。「加給年金」と「振替加算」がそれだ。

 65歳以下の妻(夫)がいると支給される加給年金は、原則として妻(夫)が厚生年金に20年以上加入していると支給されない。今年60歳になった人からは、この加給年金が年間約40万円もある。

 さらに、「加給年金」をもらっていた人の妻(夫)には、65歳から「振替加算」がつく。妻が生まれた年によって違い、今の若い世代はもらえないが、この支給も無視できない金額になる人がいる。

 さて、もう一度、【1】の早見表を見てほしい。代替率は収入が少ない人ほど高くなっている。収入に応じて保険料を支払っているはずの厚生年金で、なぜ年収によって代替率に差が出るのか、疑問に思う方もいるだろう。

 先述のように、厚生年金には、「報酬比例部分」と「基礎年金部分」がある。基礎年金は定額で支給されるので、報酬が低い人ほど重みが増して、代替率は高くなる。老後の生活保障を行う公的年金制度ならではの「世代内の分配」が行われるのだ。このため、老後の備えは、現役時代の収入が少なかった人のほうが、より少なくて済む。

【2】65歳までにいくら貯蓄を用意するか(クリックすると画像が拡大されます)
 【2】の「65歳までにいくら貯蓄を用意するか」の一発早見表を見てほしい。

 年収400万円の人は、04年に65歳の人なら299万円でいいが、45歳以下の人は1000万円を超す。年収が高い人や、共働きの人は、現役時代の生活水準を維持することを前提にすると、どうしても必要額は多くなる。厚労省は平均余命が延びていくと見ているので、いまの若い世代ほど必要額は増える。この額は04年の価値なので、物価や賃金が上昇すれば、その分の上乗せが必要になる。

 専業主婦世帯と共働き世帯で、必要額が微妙に違うのは、夫が亡くなった後に出る遺族年金の額の違いだ。同じ世帯収入でも、遺族年金は夫婦の年収格差が大きいほど額が多くなる。年収が夫と同額の妻は、夫の遺族年金をもらうと年金額が下がる。

 ○現役が保険料を負担できるのか

 試算をした藤川氏が話す。

 「家計調査を見ても、年収が少ない人は消費比率がどうしても高くなるので、貯蓄をするのは大変です。しかし、いまの若い世代の人たちは、年金だけでは現役時代以上に家計が厳しくなってしまいます。一方、年収が1000万円を超えるような世帯は代替率が低いので、老後も現役時代の生活を続けようとすると、少し厳しいかもしれません。ただ、もともとの生活水準が高いわけですから、老後は少し水準を落としても、生活に困ることはないでしょう」

 見てきたように、日本人の平均的な生活をしていれば、厚労省案の年金額で生活できないこともない。ただし、いまの年金制度は、若い世代の賃金が増えて、保険料率が上がっていくことに耐えられることがその前提だ。

 先出の日本総研の西沢氏はこう警告する。

 「賃金の上昇は、順調な雇用環境が続くことが前提です。もし、経済の停滞が続けば、年金の実質的な削減もできないため、年金改革は先送りされることになります。それは世代間の不公平が今のまま残ることを意味します。年金不安は、財源を企業と現役の賃金に頼っていることも原因です。受け取り手が安心できる年金にするためには、例えば消費税を財源にするなど、負担のあり方を見直す必要があると考えます」

 これまでも指摘してきたように、厚労省は年金の説明に“まやかし”ではないか、と思われる手法も使う。天下りの特殊法人はずさんな運営で国民の年金積立金をすり減らしてきた。国民が素直な気持ちで説明を聞ける年金制度になるよう、なるべく早く抜本改革の議論を始めてもらいたい。(週刊朝日・松浦新)

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