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工場の国内回帰が進んでいる。日本の製造業は円高ドル安でも競争力を維持しようと80年代以降、生産拠点の海外移管を進めてきた。ずっと続いてきたその流れに変化が見える。海外のライバルたちに技術や情報が漏れるのを防ぎ、質の高い製品づくりに欠かせない人材を集めるために国内立地の利点が改めて見直されている。とはいえ徹底して効率化を進めた先端工場では、期待されるような雇用創出効果は生み出せないようだ。
●先端技術の流出防止
北九州市のJR小倉駅から車で15分。かつて高度成長を支えた製鉄所や化学工場が並ぶ古い工業地帯の一角に、真新しいクリーム色の外壁が異彩を放つ。携帯電話の回路図を焼き付ける基板材料の生産のために新日鉄化学が建設中の新工場だ。
基板材料は携帯電話市場の世界的な急成長で需要が増えている。世界シェア6割を占める同社の新工場立地を巡っては、熱心な誘致活動を展開した韓国・忠州市との一騎打ちの末、北九州市に軍配が上がった。
両市の生産コスト試算の比較では総人件費はほぼ同じ。1人当たり人件費は韓国の方が3〜4割安い。ただ、管理部門など人員が3割多めに必要となるからだ。
韓国側は法人税の5年間免除などの優遇策を示し、生産コストは韓国が1割ほど安くなった。しかも注文の5割が韓国向けとなるため、輸送費も大幅に安くなる。
それでも新日鉄化学が最終的に国内を選んだのは技術流出を防ぐのが最大の理由だ。「基板はわが社の技術とノウハウの塊」(同社幹部)。韓国生産では韓国メーカーに技術漏洩(ろうえい)する危険が大きくなる。
最先端工場の国内立地が相次ぐ理由もそこにある。04年に稼働したシャープの液晶パネル工場(三重県亀山市)や05年秋に稼働予定の松下電器産業のPDP工場(兵庫県尼崎市)がその代表例だ。
「着工以来、明らかに工事と関係ないスーツ姿の人間が遠巻きに見ている姿があった」。シャープ担当者は亀山工場を狙った海外メーカーの「スパイ活動」を疑っている。韓国や台湾など複数の海外候補地も検討したが、海外では一層こうした活動の危険にさらされやすい。今も情報漏れには神経をとがらせ、工場内に入る際は従業員も含めてカメラ付き携帯電話の持ち込みは全面禁止だ。
●人材確保に即対応
ほかにも国内立地の利点はある。自社の他工場の従業員を活用すれば立ち上げ期にも対応しやすい。研究・製品開発拠点との連携も可能だ。国内消費者の求めにも応じやすい。
新日鉄化学の場合、自治体の対応も決め手の一つだった。北九州市は政府の「構造改革特区」制度を活用して港湾の24時間化を進めており、韓国向け輸出でも地理的ハンディを少なくできる。
同社の灘利浩経営企画本部長は「コストの安い韓国で生産する案もあった。だが、目先のコストにとらわれず、競争力の高い製品を今後も生みだすには国内拠点が重要と考えた」と話す。
中小企業も国内回帰の例外ではない。エアコンや冷蔵庫などの接続部分に使う端子台メーカーのオサダ(東京都八王子市)は現在中国で生産している分の大半を、岩手県遠野市に建設する新工場に来年から移す。
90年代から中国生産を進めたが、工員が半年ごとに入れ替わりノウハウが伝承されず、不良品比率は2〜3割にのぼる。手直し費用だけで03年に4千万円かかった。今後は人民元切り上げの可能性など為替リスクもある。
自動化ライン導入の新工場では製品によってはコストが1割以上高くなるが、部品共通化などで圧縮をめざす。長田豊社長は「安い人件費を求めて中国に委託生産する時代は終わった」と話す。
経済産業省の調査によると、03年の国内工場立地件数は過去最低だった前年から25%増と3年ぶりに増加した。ただ、「経済の低迷で長期間できなかった国内設備投資が、企業収益の回復とデジタル家電関連の市場拡大でやっと出てきただけ」(大手シンクタンク)とこの傾向が持続するかどうかには慎重な見方もある。
最先端製品でも海外勢に追い上げられ、技術が陳腐になってコスト競争となれば、国内生産を続けられる保証はない。国内立地を選んだあるメーカーの担当者は「汎用(はんよう)品化した後にどういう生産体制をとるか、かなり難しい判断だ」と言う。
●自動化進み雇用期待薄
国内生産では、徹底した効率化や自動化を進める結果、必ずしも地元が期待する大規模な雇用創出にはつながらない。
愛知県尾張旭市にある松下電工の瀬戸工場。家庭やビルの配電盤に組み込む小型ブレーカーの生産現場では、自動化された生産ラインが白い四角形の製品を次々と組み立てる。人手は設備操作や異常発生時に対応する約20人の管理者だけだ。
組み立て部分を中国に委託していたが、5月に自動化ラインを導入した瀬戸工場に戻した。関税や輸送費などが不要になり、中国では200人以上だった人員が10分の1以下になった。コストは年間8億円減った。人員は他の生産ラインから移し、新規の補充はゼロだった。
03年夏にMDプレーヤー生産をマレーシアから戻したケンウッド山形工場(山形県鶴岡市)は多能工の育成や生産ラインの改善などのコスト削減を徹底している。02年に携帯電話の生産から撤退した際、従業員数を450人から250人に削減。ところが生産が戻った現在も微増の260人にとどまる。「生産効率を高くすれば、生産拡大ほどには従業員数は増えない」(同社)という。
65〜75年には25%程度あった製造業の就業者比率は00年には19.4%。経済全体のサービス化に加え、海外生産の進展の影響とみられる。
工場の国内立地が進めば、国や地元の税収増、他産業への波及などが期待できる。ただ、大きな雇用増に直結するとはいえないのが実情だ。
東レ経営研究所の増田貴司チーフエコノミストは「すそ野産業の集積や品質にうるさい消費者の存在など、競争力強化のために国内に工場を置く利点がある。ただ、自動化の進展で雇用創出効果は限定的にならざるをえない」と話す。
(10/17)
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