世界各国との自由貿易協定(FTA)が広がれば広がるほど、貿易に伴う決済や入出港手続きなどの電子化が日本の重要課題となる。だが現状では、企業同士や関係官庁との情報のやりとりでは紙を使った取引や申請が根強く残り、電子化がなかなか浸透していない。日本企業の競争力維持のためにも官民をあげた取り組みが急務だ。
4月発効のメキシコとのFTAが、手続きの電子化を強く促すきっかけになるかもしれない。
FTAでは互いの国産品に対する関税の減免のために、その国で作られたことを証明する「原産地証明書」が必要だ。日本では全国の商工会議所が発行手続きを担う。
メキシコとはこれまで貿易額の80%以上が有税だったため、この証明書の必要件数は年4万件に上ると想定される。02年にFTAを結んだシンガポールとの間では元来無税品が多かったので、その後の2年間の発行件数は120件弱だった。
今後、さらに貿易量の多いアジア各国とFTAを結ぶと、この手続きの作業量が膨大になる。東京商工会議所の岩政靖・証明センター所長は「電子化の検討は避けられない」と話す。
●韓国などが先行
海外でも原産地証明を電子的にやりとりできる国は、まだない。ただシンガポールは、国に提出する一般的な貿易書類は基本的に電子データで要求している。韓国や豪州も同様の方針を打ち出して、電子化で先行する。
農産品の生産履歴管理(トレーサビリティー)でも電子化した方が履歴を追いやすい利点がある。こうした流れに日本が乗り遅れると、海外企業から敬遠されかねない。
日本も手をこまねいてはいない。企業が官庁に入出港届などの必要書類を出す場合、省庁ごとに必要だった電子申請の手続きを、各省庁間で03年7月に一本化した。だが、一本化システムの利用者は全体の3割にとどまるという。
商社や商船会社などは「単にシステムをつなげただけで、重複する申請が減っていない。使い勝手が悪い」と指摘する。
国際海上運送の簡易化に関する条約(FAL条約)は、貿易手続きに必要な書類を8種に絞り込むことを求める。日本は100以上の手続きが残り、先進国で唯一、条約を結んでいない。
政府も手続き削減の検討を始め、今秋、FAL条約が対日本でも発効の見通しだ。だが電子システムの利用度が上がらない理由は「紙を基本とした手続きに慣れている業者が多いため」(財務省)との見方が強い。
●新システム不発
企業間で船荷証券などを電子的に受け渡しできる基盤を作ろうと、経済産業省の旗振りで設けたシステム「TEDI」も01年に稼働したが、ほとんど使われていない。欧州で設けられた同種のシステム「ボレロ」も、日本の会員数は約30社と伸び悩んでいる。
大手企業の社内手続きの電子化は進むが、社外のシステムとの接続には手間がかかる。紙で書類を求める取引先企業は海外にもあり、全面的に電子化する必要に迫られていないためだ。一方、中小企業の多くは電子化への対応設備を整える余裕はなく、紙による手続きが続くという状態だ。
日本通運は、企業の既存システムを生かしたままボレロに接続できる新サービスを昨秋開発し、大手機械メーカーと近く初契約を結ぶ。ただ、これも、中小企業を中心にこれから契約を広げようという段階だ。
日本貿易会で貿易手続きの効率化を担当する三菱商事の三井康通氏は「官民が連携して電子化を進めることが重要だが、企業が電子化を推進できるような環境づくりを国が引っ張らないと、日本全体での電子取引の浸透は進まない」と危機感を募らせる。
(01/15)
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